2016年11月にリクルートライフスタイルは精子セルフチェックサービス『Seem』の販売を開始した。リクルートライフスタイルがヘルスケア領域に注力する中で生まれた新規事業である。同サービスの企画から立ち上げまでを担当した入澤に、立ち上げ期の話を語ってもらった。



会社が未踏の領域で事業の立ち上げ

私は2014年11月に入社し、2015年4月から新規事業『Seem』の立ち上げに携わり、事業の全般を見ています。

『Seem』は専用キットとスマートフォンアプリを使って、精子の「濃度」と「運動率」を測定する精子セルフチェックサービスです。私は前職で、女性の生理日の管理するアプリを開発していたこともあり、元々ヘルスケア領域に関心がありました。

配属された新規事業を作る部署で、どのドメインで事業を立ち上げようか考える際、自分の経験や専門性を踏まえヘルスケアを選びました。

ただ、リクルートライフスタイルはヘルスケア領域をスタートしたばかり。また『Seem』で必要となるハードウェアの製造などの経験もありませんでした。知見が社内に蓄積されておらず、事業として立ち上げられるかもわからない。チャレンジングな状況に戸惑う一方、ここで成功すれば会社的にも大きな成長につながるとワクワクしましたね。

そこで、まずは実現できるかどうかを試す段階からスタートしました。検証にかかる費用を試算し、執行役員に直談判して、プロトタイプを作るための予算をもらいました。

「リクルート」は周囲に期待してもらえるブランドだった

プロトタイプづくりのために、パートナー探しから始めました。社内にはハードウェア開発の知見がありませんから、一から自分で情報を調べ、知り合いに紹介してもらったり、窓口から問い合わせたり、時には自分で「こういうレンズが欲しいです」って自分で絵を描いてメーカーを回ったりと、地道にアプローチしていきました。

アプローチしたメーカーの方々は、みなさんリクルートという会社を知ってくださっていました。新規事業を作ってきたイメージを持っていただけていたおかげで、『Seem』の話をすると、「何かできるんじゃないか」と期待していただけることが多かったですね。

無事にパートナーが見つかり、動き出しはしたものの、もちろん課題は山積みです。『Seem』で作ろうとしているハードウェアは、これまで世の中に存在しないジャンルのもの。出来上がってきたモノがイメージと全く違う・・・ということもありました。ハードウェアの開発は私自身経験が無かったため、うまくいくかどうかがわからず、この頃は先が見えない不安と戦う毎日でした。

また、プロジェクトを進めるスパンが、メーカーと私たちとで違うことにも苦労しました。私たちが1年ほどで立ち上げようと思っているものを、通常のメーカーは2〜3年かけてやろうとします。うちの事業スピードではそんなにかけられませんから、モノができたらすぐチェックし、フィードバック。またすぐに作ってもらうという流れを繰り返しました。あのスピード感に根気強く付き合ってくれたパートナーには本当に感謝しています。

最終的には半年程度かけて、計5、6個のプロトタイプを作り、臨床フェーズに入りました。ヘルスケアの商品は、モノはできても、すぐに市場に出せません。まずは、精度を検証する必要があるんです。

『Seem』が担うのは、病院の診断とは異なる簡易チェックです。診断ではないものの、測定結果は人の人生を左右しかねない重要なもの。しっかりと専門家の先生に相談することが必須だと考え、パートナーとしてサポートしてくれる先生も探しました。

中には、『Seem』に対して否定的な先生もいらっしゃいました。「こんな医療まがいなことをして、患者さんを不安にさせるな」と言われたこともありました。ただ、我々の持つヘルスケア分野への想いや、リクルートだからできること。社会へ与えたいインパクトを一人ひとりの先生に丁寧に説明し、最終的には多くの先生に賛同いただけました。

事業化に必要な市場規模以外の要素

プロトタイプ、臨床フェーズの後、テスト販売の段階で予想外に大きな壁がありました。『Seem』は、現状マーケットサイズが大きくなく、見込まれる売上規模もそこまで大きくありません。ゆえに「リクルートとして事業化するのか」というハードルを超える必要があったんです。

数億円、数十億円の売上規模なら見込めます。ただ、既存事業と比べると、事業規模は小さくなってしまう。大規模な既存事業がある中で、『Seem』の価値を説明していくのは大変でした。

ですが、私には社会全体で不妊対策をしていかなければならないという使命感がありました。社会構造の変化で今後不妊が増えるだろう点や、少子化は国を挙げて取り組まないといけないという点で、大きな課題に向き合っていくサービスであることを訴え続け、最終的に事業化の承認を得ました。大きな課題に向かうことに加え、『Seem』は不妊治療の先生方に認めていただけるサービスであることも事業化の一つの決め手だったかと思います。『Seem』を通じて、規模だけではない事業の価値を学ぶことができました。


今回『Seem』に行われた投資は、リクルートライフスタイルのこれまでの事業と比べたら、とても小さい規模と言えます。ただ、今後事業の意義が確認されて成長フェーズになれば、さらに投資をしてもらいたいと考えています。資金をはじめとしたリソースに余裕があるというのは、新規事業に挑戦する上で非常に大事な要素だと実感しました。

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男性による妊活の一般化を目指して

様々なハードルがあるなかでも、『Seem』を立ち上げられたのは「この事業が世の中のためになるんだ」という気持ちがあったからです。


私は『Seem』を通じて男性が主体的に妊活に参加する文化を創りたいです。今は、妊活は女性が主体的に行うのが一般的ですが、男性側に不妊の原因がある場合もあります。先生方にお話を伺ったところ、女性だけが検査や治療を続けたが妊娠できず、1~2年後に男性が検査を受けてみたら実は男性が原因だったというケースも少なくないそうです。この2年という期間は、妊娠というテーマにおいては非常に長い期間です。

男性の精子の状態は生活習慣によって大きく変化します。手軽にできる精子のチェックを広めることで、男性が生活習慣を変えるきっかけとなり、妊活に積極的に参加するきっかけにもなる。それは、結果的に妊娠率や出生率の向上につながるはずです。

現在、男性は不妊について調べようとしない人が多いのが現状です。今後は、男性に向けて妊活や不妊に関する啓発を行っていきたいと考えています。「男性も普通は妊娠のために自分の状態を調べるよね」というのが当たり前の社会にしていきたいですね。


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