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Life Shift

2017.03.10

子育ての悩みや問題をテクノロジーで解決。“コソダテック”がかなえる、夫婦間の働き方改革

子育てする人、働く人。人生100年時代においては、男女どちらかが一方だけを担うのではなく、ときに分担したり、役割を変えていくことが欠かせない。この数年の間に法律の整備や新しいテクノロジーの波が働き方の革新を促し、その結果、男性の育休取得や育児参加も少しずつではあるがスムーズに行われるようになってきた。また最近では、保育の現場においても、IT技術を使った様々なサービスが導入され始めている。リクルートマーケディングパートナーズは、保育園と保護者をつなぐコミュニケーションサービス『kidsly(キッズリー)』において子育て×テクノロジーをコソダテックという言葉で定義づけている。このようなサービスの広がりを知り、活用することは、夫婦で分担しながら子育てを行う上で必要不可欠だ。“イクメン”という言葉を世に広め、啓蒙活動を続けてきたNPO法人ファザーリング・ジャパンの代表理事・安藤哲也氏にコソダテックを効果的に利活用するヒントを聞いた。

まずアップデートしたいコソダテックは“パパOS”

——安藤さんは、“イクメン”ブームの火付け役のおひとりとして知られています。NPO法人ファザーリング・ジャパンを立ち上げ、父親支援活動を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

僕自身、19年前に長女が産まれた時、サラリーマンをしながら父親をすることに苦しんだという経験があります。いわゆるワークライフバランスが取れなかったんですね。僕の場合、妻も企業に勤めていたので、昔ながらの“男性が遅くまで会社で働いて、家を買って、子供を大学に入れてローンを返済する”という理想の父親像が、現実にマッチしにくかった。同じように、古い価値観や働き方の問題に苦しんでいるパパも多いのではないかと思ったのです。

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また、長女が産まれる前に本屋で働いていたこともあって、絵本を100冊買って誕生を待っていたんです。娘がおすわりをするようになった後、それを読み聞かせたら、すごく笑ってくれ、僕も幸せな気分になった。パパになることは無理をしたり、大変なことではなく、楽しいことだと気付いたんです。日本は成長経済から成熟経済にシフトし、男性も仕事だけをしていれば幸福感を持てた時代は過ぎたと思います。また、かつては働いていることが、育児に対する免罪符にもなりましたが、今の若い世代がパパになったとき、育児しなくていいという選択肢はほぼないと思います。だからこそ、“子育てを楽しむパパを増やす”というのが僕たちのミッションです。

——具体的に、“子育てを楽しむパパを増やす”ために行っていることとは?

セミナーやワークショップなどを日本各地で開催していますが、絵本の読み聞かせや寝かしつけなどのメソッドを教えるのではなく、まずは父親の意識や価値観を変えるということを目的にしました。つまり、“パパOS”を変えること、ですね。絵本を読んだり、お風呂に入れたりすることは、例えるならアプリのようなもの。それを上手く作動させるためには、OSを最新版にすることが大事です。子育てが上手くいかないパパの多くは、能力がないのではなく、OSが古いから。男性は、長時間仕事をすればいいんだという意識、OSの元では、様々な子育てのアプリが上手く使いこなせないでしょう。今後、例えば、「洗剤がなくなりそうになると自動的にeコマースでオーダーしてくれる洗濯機」のようなIoTなどが子育て家事をサポートしてくれるものとして、実用的になってくると言われています。アナログなことだけでなく、テクノロジーも上手く子育てに活用するためにも、パパ自身のOSをアップデートすることが大切でしょう。

“イクボス”を促し、企業や組織のOSも変える

——働き方に関しては、パパ本人や家庭の都合だけでは限界もあるのでは?

だから、私たちは“イクボス”という言葉を通じて、企業の経営者や管理職、会社組織のボスになる人たちのOSも変えることにも積極的に行っています。今は、テクノロジーで業務の効率化も上がり、ITによるテレワークという選択肢もできました。しかし、それが有効に利活用されるかどうかは、会社の体質やカルチャーによるところが大きい。いくら会社を早く退社できるようになっても、帰宅後にテレワークで時間を取られ、家族との時間が確保できなければ、パパを楽しむ時間に還元されませんから。実際に、ITを上手く活用し、従業員の労働負荷を減らしながら生産性を上げ、業績を上げている企業もたくさんあります。そういった実例を知った上で、なぜ働き方を変えるのか、なぜそれが子育てのしやすさに繋がるのか、一人ひとりの経営者が理念や思想を語れるようにならないと、働くパパにとって最適なライフワークバランスは実現されにくいし、ひいてはママにも子どもにも、企業にもメリットは生まれません。

——最近は、男性も育児休暇を取るケースが目立つようになりました。

よく話題にはなっていますが、まだまだこれも普及しているとは言い切れません。国の制度としてある育児休業の取得率は女性が90%、男性は2%というのが実情です。現状では、女性が多い会社のほうが影響が大きい。実際に、僕たちは、何千もの夫婦と接してきましたが、女性の方が企業での仕事に向いているカップルも少なくありません。企業の生産性においても、男性ではなく女性が育児休暇を取る方が良いとは限らない。それならば、例えば、同じ会社に働いている夫婦なら、その部門の上司同士が相談して、半分ずつ育休をとるように調整するという方法もあります。会社の組織のボスに対して、そういった見直しや気づきを促すのも“イクボス”プロジェクトの主旨です。

——例えば、保育園の情報をインターネットで随時チェックできるようになったり、保育の現場でも、働くパパやママのために、テクノロジーを駆使したサービスが導入されています。

ひとつは、セキュリティ意識の高まりの問題だと思います。もちろん、夜中まで仕事をしなければいけない職業の人にとっては、ライフラインとしても必要でしょう。ただ、本来ならば、もっと早くパパやママが仕事を終えてお迎えに行けるようにした方が、子どもの利益になる。就業規則上では5時に帰れるはずの人が、二次保育、三次保育までを利用している状況を変えないといけない。延長保育のサービスを増やすほど、仕事をしてしまうという人も多くいます。企業も保育の現場でも、最終的にどうしたらパパやママ、そして子どもにメリットがあるか、明確な目的を見据えたテクノロジーの活用やサービスが必要だと思います。

自発的なコソダテックの活用が、子育てしやすい社会を広げる

——今はSNSも普及し、実際に距離が離れていても、繋がりが担保できると言われています。実際に、子育ての面でSNSなどのツールはどう活用度を増しているのでしょうか?

確かに、SNSで繋がっている夫婦や親子はもちろん、仲の良いパパ同士も増えています。クラウドのカレンダーを家族で共有しているパパたちもたくさんいます。今後は、学校との連絡や手続きなども、クラウド化されたツールを使い効率化の流れに向かうでしょう。ただ、娘の学校のPTA会長もやっていた僕の実体験で言えば、まだガラケーしか持っていないママも少なくない。まだ過渡期ということもあり、情報格差はありますし、コミュニティに“繋がりたくない”という人もいる。あくまでテクノロジーは、子育てやコミュニケーションの補完ツールとして考え、作法やルールに則った上で自発的に使うものだと思います。

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一方で、ファザーリング・ジャパンでの活動に関しては、個人会員だけでも450人を超えていて、現地のパパたちが支部を作り、地元の行政やNPOと組んで、メールやSNSで連絡を取り合いながら活動しています。こうしたアクションにおいて、やはりテクノロジーが後押ししてくれている部分は大きいですね。これはミッションが達成されたプロジェクトですが、シングルパパの支援活動を行っていました。以前の法律だと、児童扶養手当の受給は、“父と生計を共にしない母子に”という限定付きだった。男女共同参画の法律もあるのにおかしい、と。そこで、旧民主党時代に議員を巻き込んで勉強会を開催し、理解を深めてもらい、党のマニュフェストに掲げてもらいました。そして政権交代後、法律が改正されました。「長時間労働の削減」に関する法律改正の動きも、僕たちがインターネットで電子の署名を集めて提出したのがひとつのきっかけです。

子育てもテクノロジーも、幸せを提供するもの

——ファザーリング・ジャパンの活動にコミットするパパが年々増えたとお聞きしています。それはなぜだとお考えですか?

幸せの物差しが変わってきたからだと思います。僕たちのセミナーやワークショップに参加する人が急激に増えたタイミングが2回ありました。ひとつは2008年のリーマン・ショック、そして、2011年の東日本大震災の後ですね。リーマン・ショックの後は、実際に景気も冷え込み、残業が出来なかった。お小遣いも減るので、毎晩飲み屋にも立ち寄れない。そうした時、家で子どもと向き合おうとするのですが、何をしていいか分からないというパパが多かった。東日本大震災の時は、多くの人が、自分に何が大切かを考えたと思います。以前だったら、家や車、白物家電を揃えていくことが幸せを象徴しましたが、いまでは、それらを欲しがらない人も多い。むしろ、ママや子ども、地域とのつながりの中に、幸せを感じているのだと思います。

また、面白いのは、大手の結婚情報会社が調査した“女性が結婚相手の男性に求めること”を見ると、2011年以降、収入よりも、家事や育児の協力性が上回っています。パートナーや子どもにとっても、家事や育児の協力的な夫・パパの存在が、幸せの条件になった。テクノロジーだって、それを利用して効率化が実現できたり、利便性や幸せを実感できないと普及はしません。僕たちが目指している子育て支援活動も同じ。テクノロジーが子育てをサポートしていく上でも、同じ幸せの物差しで目的が共有さればいいと思います。

——この10年で、ファザーリング・ジャパンが目指していたことはどのくらい実現されたと思いますか?

法律や働き方の改革の波もあり、われわれが目指していたことは、だいぶ達成されたと思います。そもそも、僕の中で、この事業は時限プロジェクト。問題を解決するための組織ですから。子どもを持つ男性のOS、組織のOS、社会のOSが変わり、パパもママも子どもも幸せになれるような意識や環境がデフォルトになれば、ファザーリング・ジャパンの必要性はなくなります。また、自分が育った環境は、自分がパパになった時にも影響するもの。つまり、子育てを楽しんでいるパパがいる家庭で育った子どもは、自分が親になった時に同じように子育てを楽しめるはずです。だからこそ、幸せな子育てのあり方を次世代に繋げるためにも、何よりもまず、楽しんでいるパパを増やし、彼らが主役になることが大切なんです。

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安藤 哲也

NPO法人ファザーリング・ジャパン ファウンダー/代表理事
出版社、書店、IT企業などを経て、1997年、長女の出産を機に男性育児やワークライフバランスを実践し、2006年、NPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」、内閣府「男女共同参画推進連帯会議」委員などを歴任。著書に『パパ1年生 生まれてきてくれてありがとう!』(かんき出版)、『パパの極意―仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『「パパは大変」が「面白い!」に変わる本』(扶桑社)などがある。


PHOTOGRAPH BY SHUNSUKE MIZUKAMI
TEXT BY MASANOBU MATSUMOTO