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Life Shift

2017.01.24

自らを泥臭いと呼ぶ、堅実IT起業家が起業失敗から学んだこととは?

あるウェブメディアで、クラウドを活用した1人総務について話題になった。5人の社員とアルバイトを含めて約50人のメンバーが所属する企業で、女性社員が10個のクラウドサービスを使い、たった1人で総務部門を担うという内容だ。その企業とは、派遣型代行スキャニングサービスを提供するスキャンマン株式会社。スキャナーなど機材一式をお客様のオフィスに持ち込み、その場で名刺や書類など紙の資料をスキャンするサービスだが、個人はもとより、特に大学や新聞社、弁護士事務所、医療クリニックといった職種からの需要が多いという。クラウドを前提とした組織構築を発案し、実行することは、ある種、働き方改革と言えるが同社の代表取締役・杉本勝男氏は、何を目指しているのか。その答えは、雇用創出にあった。

クラウド化とリアルな場の両立

―― 2013年に創業ということでしたが、今、1カ月の受注案件数はどれくらいですか?

杉本 平均で80件くらいです。そのなかでも一番多い依頼は名刺のスキャンで、それが約50件ですかね。

―― それを5名の社員と30~40名のアルバイトでまわしている?

杉本 そうですね。

―― ウェブメディアの記事に出ていたように、会社の管理にクラウドサービスを多用しているということですが、総務の女性以外のスタッフも、基本的にはそういった体制ですか?

杉本 基本的に我々はクラウドを前提とした組織構築をしています。皆、そこは慣れているというか、すんなりと受け入れてもらって「こういうものなんだ」と使っていますね。本当に便利なものが出てきていて、初めて見るサービスでも使い方をすぐに覚えられるものばかりです。


ちなみに使用している基本的なクラウドサービスは以下の通り
①社外文書作成(請求書、見積書、納品書など)⇒「Misoca」
②経費精算⇒「Googleスプレッドシート」
③社員教育(主に業務用マニュアルの編集代行)⇒「Teachme Biz」
④電話対応(スマートフォンで、代表番号が取れる)⇒「050plus」
⑤契約書(契約の締結や管理)⇒「クラウドサイン」
⑥労務管理・勤怠管理(主にアルバイト)⇒「LINE」
⑦出入金管理⇒「NP後払い」
⑧業務報告書、日報管理⇒「Googleドキュメント」
⑨その他会計関連⇒「クラウド会計ソフトfreee 」
⑩その他バックオフィス業務(名刺発注、業務報告・勤怠報告等確認、etc)⇒「キャスタービズ」


―― クラウドサービスを中心に業務を管理していこうというのは、杉本さんの方針ですか?

杉本 はい。弊社の出資者の1人がクラウドで事業を完全構築しようとしていたのを参考にしました。彼は、オフィスまでも完全にクラウド化しようとしていました。でも、うちの場合はそこまでではなく、やっぱり毎日皆で顔を合わせる場所は必要でした。そうでないと熱が伝わらないというか、結束が固まらなかったりするので、そこは会わなきゃだめだと思ってオフィスは構えました。

―― 使うクラウドサービスの選定はご自身でやられたんですか?

杉本 そうですね。記事にあった総務の久保田が業務で使っているものは、ほとんど僕が選びました。

―― 特にトラブルがなく?

杉本 パッと導入できるので、そこでだめだったらすぐにやめてという感じでトライ&エラーですね。

―― 今の業務の管理の仕方だと、コアメンバーが100人、200人になっても、そんなに乱れはないですよね?

杉本 単純にアカウントを増やしていけばいいだけです。

―― 現場は主にアルバイトということでしたが、アルバイトの管理はどうやっていますか?

杉本 コミュニケーションはLINEが中心です。主にはシフトの調整ですが、テンプレートがあるので、それに沿って提出してもらって、社員がスプレットシートに入力してシフト調整をするみたいな流れです。あとは、起床、出発、到着の連絡を朝に絶対に入れるルールになっていますので、それにも使っています。連絡がない場合は、バックアップが向かうという体制です。

―― アルバイトは、どういった方が多いのですか?

杉本 わりと有名な大学の学生が多いです。

―― その世代は、クラウドサービスにも慣れていて、覚えも早そうですね。

杉本 業務のマニュアル自体もクラウドサービスを使ってしっかりできているので、マニュアル通りやれば誰にでもできます。

―― 時間も有効に使えそうですしね。

杉本 そうですね。大学生から人気があった理由は、作業自体単調なものが多いけど、訪問する企業が毎回違うので、毎日OB訪問みたいな。大手からベンチャー企業まで幅広くて、それはそれで楽しいようですよ。

―― 実務をアルバイトに任せていくというのは、効率の問題ですか?

杉本 効率優先ですが、仕組みが整っていれば問題ありません。ある企業が、店長もほとんどアルバイト、みたいなことを聞いたことがあって、そこまでいかないとしても、そのレベルに近いことはできるかなと思ったのです。今は、アルバイトのなかでもある程度階級分けをしたりしています。

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スキャンマン株式会社代表取締役の杉本勝男氏。左胸に会社のロゴマークが施されたパーカは、会社のユニフォーム

失敗からの学びも大切

―― 次は、杉本さんご自身についてお聞きしますが、学生時代は、普通に高校を卒業して、一浪して医者を目指して大学に行ったけど起業の道を選んだ。そうなった経緯を教えてください。

杉本 浪人時代は、とにかく暇で時間がたくさんあったので、考える時間がものすごく増えました。やっぱり若いと考えるんですよ、これからの人生どうしようって。それまで何にも考えないで生きてきましたが、本気で人生と向き合った期間でした。それで「人生は一回きりだ!」というのをやっぱり実感して、普通の人生を選ぶよりかは起業しようと決意しました。他人にどれだけいい影響を及ぼしたかというところに価値を見出しましたし、資本主義の仕組みにも共感していたので、今のこのスキャンマンのサービスもうまくいくかなと思ったのです。短期的というよりかは、長期的に評価されるような人生というか、会社を作りたいと。当時は、1回就職すると轢かれたレールを行くだけだと思いこんでいて、完全に既成概念に囚われていましたね。でも、今はサラリーマンでもそのへんの起業家よりも面白いことをやって活躍している方もいて、関係ないんだなと思います。実は、大学時代に一度起業を失敗しました。マンガや雑誌をデジタルコンテンツとして配信し閲覧できるネットカフェでした。著作権などの色々な問題で軌道に乗らなかったのですが、「会社を立ち上げるぞ!」と意気込んで自分でやることにこだわった挙句に失敗したので結構落ち込みましたね。そのときは「やっぱり就職しておけばよかった――!」って(笑)。普通の人生というか、1回は社会人という経験を積むべきだったなということも感じました。ただ失敗はそれでいい経験でしたけどね。1回失敗しないと気付かなかったこともありますし。

―― 事業を失敗して得たものはありますか?

杉本 たくさんあります。特に共感や共有できる仲間が絶対に必要ということに気が付いたこと。1人でやっていたことがやっぱりきつかったですね。あとビジネスは、早すぎるものよりも半歩先くらいのところが一番いいなと。そこに実際需要があって、さらに差別化されたサービスの方が成功しやすいだろうな、ということは学びました。精神的には強くなったことも得たものですね。

―― 社会人で経験しておけばよかったものは何ですか?

杉本 当時はメールの書き方や名刺交換の仕方もわからない。企業間の取引の際に交わされるNDA(秘密保持契約書)なんて聞いたこともない。請求書を発行してどういう流れでお金が入ってくるのかもわからなかった。そういった部分で、先に就職して社会の常識を叩き込まれた方が良かったかなと思いました。やってから気づいたことですね。

―― ちなみに学生のときに経験したことで良かったことはありますか?

杉本 学生時代はずっとアルバイトしていて、お金を貯めていました。そのお金は株式投資に回して、そこで金融の勉強をしていました。これはだいぶ役に立ったかなと思います。

―― それ、学校は関係ないですよね……。

杉本 確かに学校は全く関係ないですね(笑)。

―― そうすると、中学校や高校では何をすればいいのかって話になりますよね。

杉本 でも学校の勉強はすごく重要だと思います。一定の数学力、国語力、英語力は身につきますし、単純作業をちゃんとやり遂げる、期日までに宿題を提出するとか大事ことも学べます。社会人として、期日守らないってやばいじゃないですか。結構そこって重要だし、無駄にはならないと思います。

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中央のスキャンマンのステッカーは、何かマスコット的なものがあったほうがいいのでは、ということでデザインされた

ビジネスで重要なスキルは3つ

―― 起業していく上で、重要なスキルや知識はありますか?

杉本 人脈も重要かもしれませんが、僕は4年前に愛知から上京してきて人脈なしから始めました。コネクション自体は一から作れるのでそんなに問題ではないです。必要なスキルは、3つ。1つは、約束を守ることは重要です。朝10時に行くとか納期を守るとか、さらに小さな約束とか。細かいことでも信用にかかわってきます。口約束でも「この人、今度紹介してくださいね」となれば、「あの件紹介しますね」となるべくすぐタスク化します。2つめは、ポジティブ思考というのは重要ですね。精神衛生上健康じゃないとやっていけないですよ。本当に折れそうになることがたくさんあるので、そういうときでも楽観的にいるのは必要です。最後は、やりきる力というか粘り強さ。今、それを「成功を決める究極の能力」として「グリット」と言われていますが、コツコツとやり続けるというかここが一番重要です。成功している先輩経営者に、成功の秘訣を聞くと「魔法みたいなことは絶対ない」と言います。目の前のお客様をコツコツと対応していく。そういう泥臭いことしかやっていない。これを物凄い行動量と高い質でやっている。そこで「なるほどな」と思いました。その積み重ねが次に活きるというか。あと、2、3年は打席に立ち続けてやるということですね。

―― 会社やビジネスの規模を大きくしていくなかで、それを支えるモチベーションは杉本さんの場合、何ですか?

杉本 やっぱり社会に対して何かしらの価値を提供していきたいと思っています。一番の社会貢献は何かと考えたときに、雇用を作ることだと辿り着きました。これからの時代を考えていくと、AIやロボットとの競争があって、それらに仕事が奪われる可能性もあるじゃないですか。自殺のきっかけは、失業が多いと言われています。それを考えると雇用を作るということは、人の命を救うことでもあるのかなとも僕は思っています。だからそこを作りたい。今だと、ITのサービスはあまりにも生産性が高すぎて、人の雇用はあまり作れていません。例えば月に100億円近く売り上げるスマートフォンのゲームアプリだって、数十人体制だったりします。でも、それがファーストフードチェーンだったら、何万人もの雇用を生み出すことができます。そこを考えたときに、社会貢献という意味でいうと僕はより多くの雇用を生み出す方がいいなと思ったわけです。スキャンマンは、ITベンチャーのなかではすごく泥臭いサービスですので、あまり投資家は投資したがりません。でも、僕らは他のベンチャー企業と違って、会社の規模が大きくなったら雇用をいっぱい生み出せる可能性があると思っています。起業家は今、すごく注目されて評価されています。理由としては、仕事や雇用を生み出せるからですよね。僕は、やっぱりそこがモチベーションになっています。

―― 社会貢献が1番のモチベーションというのは、どういう経緯で芽生えたものですか?

杉本 やっぱり自分が幸せになりたい。お金持ちになれたらいいなとか、モテたいとかではなくて。周りの人が不幸だと、自分も幸せな気持ちにならないじゃないですか。自分が何かすることで、皆が幸せになって、結果的に自分が幸せみたいなことがありますよね? お笑いでも自虐笑いとかそうだと思うんですけど、そんな感じですね。

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クラウドサービスを駆使して1人で総務を務める久保田氏と。この空間は、会社の下の階にあるコワーキングスペース。外部との打ち合わせはここで行う

今は、教育も使命である

―― 今、31歳ですよね。50年後も働いていますか?

杉本 絶対働いていますね。なぜなら人間の寿命の概念が変わると思っているからです。今、特に医療系のイノベーションの進化に注目しています。人間は寿命に限界があるじゃないですか。その限界を突破するのが意外と現実的で早めに達成できそうというのが有識者たちの予測らしいのです。80歳は本当に30代と同じ見た目とか精神性を保ったままになるみたいな。今、シンギュラリティとかも結構言われていて、本当に時代の流れが加速的に早くなっているじゃないですか。長い歴史を見てみても人類史が25万年あって、24万年くらいはずっと同じ生活だったんですよ。何のイノベーションもなくて。それが、農耕がはじまってからここ1万年くらいで急激に変わり始めたんですよね。その後、産業革命が起こり、人口が爆発的に増えて、そしてIT革命が起きて、そして今、AIの時代に突入して。この30年間で起こった変化の総量と24万何千年に起こった総量を比べてみても、30年に起こった変化のほうが圧倒的に多いかもしれません。そうやって考えていくと、次の30年間はどうなるのだろうと。おそらくさらに加速していくので、人間の寿命も90歳とか100歳というのは平気で超えると思うんですよね。そのうち自然死はなくなって、それを選べるような状態になっているかもしれません。本当にこれからすごい変化が来るのかなと思っています。

―― 事業は変えるかもしれないけど、働き続けるということですね。

杉本 そうですね。働くということが遊びと変わらなくなっているかもしれませんが。

―― ちなみに、スキャンマンで働く人に提供したいものは何ですか?

杉本 弊社が倒産する可能性だって十分にあるわけですよ。ベンチャー企業の5年生存率ってめちゃくちゃ低い。買収されるかもしれないし、売却するかもしれないし、倒産するかもしれない。なくなる可能性は常にあるわけですね。だから、教育とまではいけないですけど、社員にはどんな会社にいってもやっていける人材にはなってもらいたいと思っています。

―― それに対して、気をつけていることはありますか?

杉本 自主性を伸ばしていくことです。必ず強制的にやらせないようにしていて、「どうしたらいいと思う?」とか「そこを改善するためにはこういうことをやったらいいね」とディスカッションして導いていきます。そうじゃないと、やっぱり熱が入りません。

―― そういうことは、経営者になってから自覚したことですよね?

杉本 そうですね。誰かを教育しようなんて思いもしませんでした。だけど今、新卒で他社の内定を蹴って弊社に入社してくれた社員もいて。「こいつマジか?」みたいな。これはしっかり育てないといけない気持ちになりましたね。動物に例えるなら自分で餌を捕れるようにすることが究極じゃないですか。餌をあげるのではなくて、餌の捕り方を教えて1人で生きていけるようにするのが重要だと思っています。雇用を生むことも然り、それが起業家である自分にとっての使命でもありますね。

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これがスキャンの機材。それ以外の機材一式をコンパクトなキャスター付きのスーツケースに入れてお客様のもとへと向かう。


杉本 勝男

1985年愛知県生まれ。スキャンマン株式会社・代表取締役社長。名古屋工業大学在学中に電子書籍を活用したサービスを立ち上げるが、著作権の問題などにより断念。その後大学を中退し上京。スキャナーをお客様のオフィスに持ち込み、その場でスキャンするサービスを提供するスキャンマン株式会社を2013年8月に設立した。料金は、5円/頁〜。
http://scanman.in/


PHOTO BY SHUNSUKE MIZUKAMI
TEXT & EDITING BY SHUNYA HORII