シェアする

保存する

Life Shift

2017.01.17

貧困層の女性たちが社会で活躍できるために――カンボジアに人生を注ぐひとりの男

「子どもが売られない世界をつくる」をミッションとして、カンボジアとインドで人身売買問題の解決に取り組む、認定NPO法人かものはしプロジェクト。共同代表でカンボジア駐在の青木健太氏はハンドメイドのファッションブランド「SUSU」を通じて、貧困層の女性たちが社会で活躍していくために必要なライフスキルの教育と仕事の創出を行っている。「自分が何をやりたいのか問い続けてきた結果が今の姿です」と臨機応変に“やりたいこと”を追い求めていく青木氏が抱える思いとは。

学生ベンチャーとしてIT事業からスタート

「私が大学時代に社会問題を扱うサークルで活動していたころ、同じサークルのメンバーで現在の共同代表でもある村田早耶香が、タイのスタディツアーに参加して、シェルターで暮らす被害者の子どもたちと出会ったことがきっかけで子どもが売られる問題に取り組むようになりました」

スカイプの向こう側、カンボジア・シェムリアップのカフェでこう話すのは、認定NPO法人かものはしプロジェクト共同代表の青木健太氏。カンボジアに滞在し、バンコクには妻と娘がいる1児の父でもある。当時はまだ学生だった青木氏は子どもが売られる問題に取り掛かろうとするも、資金や経営スキルを持ち合わせていたわけではなかった。そこであるコンサルタントとの出会いをきっかけに、現在の事業モデルの原型を組み立てていったという。

「『学生はプランニングができないから事業が続かない』と言われ、他団体はどうなのか、どうやったら事業化できるのか、3ヶ月にわたって徹底的な調査とフィードバックを受けました。そこで出来上がったのものが、日本でのIT事業とカンボジアでのPC教室の展開で、将来的に両者をオフショアでつなげていく仕組みです」

青木氏は、データベース構築、HTMLコーディング、ウェブサイト制作の技術をイチから習得し、学生の頃より業務を請け負い、活動資金を作っていった。次第に組織として大きくなりはじめ、プラン通りにカンボジアでもPC教室を展開していくが、ある理由でどちらとも閉じることになる。

「日本でのIT事業は資金調達という点では充分で、カンボジアでのPC教室も生徒が就職するなど一定の成果をあげていたのですが、実は違和感があったんです。これが本当にやりたかったことなのかと。そこで改めて調査をしたところ、子どもが売られる問題が深刻なのは都市部ではなく、電気も充分に通っていないような農村部の最貧困層にありました。ここに住む子どもたちを救わなければ根本的な問題の解決にならないなと。都市部にあったPC教室を閉じて拠点をシェムリアップという町の農村部へと移しました」

ls_main01

一方で、日本のIT事業も過渡期を迎えていた。業績としては充分ではあったものの、移り変わりの早いIT事業のビジネスモデルを見直す必要があったのだ。青木氏は子どもが売られる問題に注力するべく、カンボジアに拠点を移し始めていたこともあり、IT事業も閉じる決断をした。ともすれば売上が断たれることになるが、団体全体の活動資金は別の方法での調達が芽を出し始めていたこともあり深刻な打撃はなかったという。

「かものはしの現在の活動資金の約50%は、個人会員さんからの月々のご寄付で成り立っています。今は約4,000名の個人会員さんにご支援いただいています。この割合は、他のNPOと比べると非常に高い数字だと思います。ちょうどIT事業部をどうするかと団体内で議論していたとき、個人会員さんの数が大きく伸び始めていたことも背景にあり、そこに注力していこうという決断をしてIT事業をやめることにしました」

コミュニティファクトリーで教育と雇用を生み出す

ls_main02

カンボジアでの活動を本格化させるにあたり始めたのが、2008年に開始されたコミュニティファクトリーの運営だ。農村部に住む若い女性たちが自立するために必要な教育の提供と、いぐさを使った雑貨を生産することで、安定した雇用を創出している。毎月安定的な給料を女性たちに提供することで、リスクのある出稼ぎを減らしていくというものである。

「生きるための力を私たちはライフスキルと呼んでいます。ライフスキルとは、たとえば同じ場所に通い続けることや、ルールを守る、文字の読み書き、人の悪口を言わないといった、日本ではあたりまえと思うようなシンプルなものです。小学校を途中で辞めている女性たちも多く、またカンボジアの農村でずっと暮らしてきた彼女たちにとって、時間を守るという概念自体がわからないこともあります。それを私たちの工房では昼休みが終わった後に自分の席についていることだよ、といった具合に誰もがわかるレベルにかみ砕いています。こうしたライフスキルを30の項目にわけて一つひとつ定義して教育すると同時に、彼女たちの行動の変化を観察して評価しています」

ls_main03

彼らはまた、カンボジアの内務省とも協力して、子どもを買う人の摘発方法などのトレーニングを現場の警察官に提供するなど、多方面から取り組みを続けていった。その結果、経済の発展や法整備が進んだこともあり、カンボジアで子どもが売られる事例は徐々に減少していったという。

「じゃあ次は何をやるか。大きく2つの方向性がありました。1つは、カンボジアには子どもが売られる問題だけではなく、貧困女性にまつわるレイプやDVの問題など解決すべき社会問題がまだまだあります。これまでのネットワークを活かしてそうした問題に取り組んでいくか。もう1つは、コミュニティファクトリーでの活動を通じて変わっていった女性たちのような人たちをより多く育て、彼女たちがしなやかに社会で生きていくためのサポートをしていくか」

自身のライフミッションとして何をやりたいのか改めて見つめ直したとき、どちらの方向性に進むべきか明確に見えたという。

「カンボジアに来て8年が経ち、現地の女性たちがライフスキルを身につけて、わくわくした人生を歩む姿を見るようになって、そういう人たちをもっと応援したい、自分が人生をかけてやりたいのはこれだ、と感じるようになりました。社内での議論の結果、かものはしプロジェクトとしては、まだまだ世界にはこの問題に苦しんでいる子どもたちがたくさんいるので、設立当初からの『子どもが売られない世界をつくる』というミッションを変えることはできない。なので、わたしはカンボジア事業部とともにかものはしプロジェクトから完全に独立する、という方法で今後も引き続きカンボジアの地に足を着けて動いていく道を選びました」

工房設立から8年目の2016年。新しいブランド「SUSU」で新たな挑戦

ls_main04

これまで生産してきた商品は、カンボジアに来る観光客がお土産物として購入し大きな売上を作っていたが、商品力という点ではまだまだ大きな課題がたくさんあったという。

「商品企画を担当するマネジャーからも『つくるなら自分が本当に欲しいと思えるものをつくりたい』という意見が出ていて、そのタイミングでデザイン事務所NOSIGNERさんに協力を得て、商品デザインも素材も一新する新しいブランドの立ち上げを実施することになりました。2015年4月からプロジェクトを開始して、2016年2月に新しい店舗をシェムリアップ市内にオープンすることができました」

新しいブランドの名前はカンボジア語で「頑張って」を意味する「SUSU(スースー)」と名付けた。ちょっと難しいことにトライしようとしている友だちにエールを送るときにカンボジア人がよく使う言葉だ。もともと購入層の多くを占めていた日本人の感性に合うようにブランディングを行った。ファストファッションが世界中で消費され、カンボジアでも低価格・低品質が多く並ぶなかで、SUSUはまわりの観光土産品と比べると高価である。

「ものづくりの現場は過酷だなと感じます。多くの工場は現場で働く人たちをいかに効率よく、そして低コストで抑えられるかといった偏った見方をしがちです。市場原理として当然ではありますが、その背景には消費者がコストパフォーマンスでモノの善し悪しを判断しがちな現状に問題があると思っています。工場の経営者が悪いのではく、その需要に応えるために過酷な組織を作らざるを得ない世の中の状況で、消費スタイルそのものを変えていきたいと考えています。そのためには多少高くても、作っている人の顔が見えたり、エネルギーを感じて応援したくなるような商品作りが欠かせません。すべての消費を高価なものにというわけではなく、5回に1回でも10回に1回でもいいので、少し背伸びをした買い物をしていく習慣が出来てくれば、次第にゆとりができ、労働環境も改善していくのではと思います」

ls_main05

青木氏は商品を売り出していくなかで重要視しているのは、フェアトレードやエシカルなど、ポリティカル・コレクトネスをメッセージとして全面に出すことではないという。「正義の鉄槌のように大義名分としてそうしたワードだけを謳い、商品としてのクオリティがないがしろにされているブランドも少なくありません。それが間違っているというわけではありませんが、まず追求すべきは商品としての高いクオリティだと考えています。そのような背景がなくても、商品単体として見たときに消費者に納得してもらえるものになっているかです。そうして初めてストーリーに説得性をもたせられます。思想だけが先行しても一部の意識の高い人のなかでの消費に留まり、一般の人たちにまで浸透しないと信じ、SUSUもクオリティを上げるべく日々努力しています」

ls_main06

ls_main07

ls_main08

職員と現地で働く女性たちが幸せに生きるために

将来的にはSUSUの日本展開も視野に入れている。SUSUの哲学やストーリーをより多くの日本人に届けたいというのがまず一つの理由だが、他にもカンボジアで働く日本人女性職員たちの存在があるという。

「カンボジアに駐在している日本人の女性職員が数名いますが、ライフステージの変化により100%カンボジアに拠点を置くことが難しい状況になっています。たとえば、結婚相手が日本で働いているから、一年に数ヶ月は日本を拠点にしたいとか。一方、彼女たちの存在は組織にとって重要であり、彼女たちにも生き生きと働いてほしい。仕事としてやりがいはあるけれど、結婚のことも考えると最終的な定住先は日本に置きたい人もいる。これは働くうえで大事なテーマで、海外で仕事をしているとこういう道を選んだのだから結婚できないのはしょうがないよね、という話がよくあります。ですが仕事の前に、一人の人間として理想とする人生があるならば、その環境を整えていくことも組織としては重要だと思っています」

今後はITを絡めた戦略も視野にいれているという。まだ具体性はないと話すが、もともとIT事業を手がけていたこともあり、たとえばオンラインストアでは単純に商品を売るだけでなく、買った人が現地の子どもたちに何かエネルギーのようなものを送ることができるといった、インタラクティブな仕掛けをつくれればと青木氏は考える。

現地の女の子たちは、安心した生活をおくることができず、不安で意思決定もうまくできずに心が折れてしまうことが少なくない。SUSUを通じてちょっとずつの自信を積み重ねていくことで自分の未来を思い描く。「現地で働く女性たちはこれから60年は生きていきます。そのあいだずっと寄り添うことはできませんが、60年使える生きる力、ライフスキルを身につけてもらいたい。私のエゴかもしれませんが、女性たちにはわくわくする人生を送れるようになってほしい。それが彼女たちの幸せであり、私が人生を捧げるライフミッションです」

ls_main09

 

青木 健太

1982年生まれ。2002年、東京大学在学中に「子どもが売られない世界をつくる」ことを目指し、村田早耶香氏、本木恵介氏とともに「かものはしプロジェクト」を立ち上げる。IT事業部にて資金調達を担当した後、2008年よりカンボジアに駐在し、コミュニティファクトリー事業を担当。

 

TEXT & EDITING BY KEISUKE TAJIRI