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Life Shift

2016.12.15

リンダ・グラットンとの対話から考える、これからの『Life Shift』が伝えていくこと

「Life Shift」はこの12月、“未来の「わたし」をつくるライフイノベーション・メディア”をタグラインに新たなスタートを切った。そのほんのひと月ほど前、奇しくも同じ名を冠した書籍が発売された。それがイギリスの経済学者、リンダ・グラットン氏の『LIFE SHIFT』だ。タイトルが一致しているだけでなく、内容についても我々が今後、目を向けようとしている問題を扱っている。この偶然の一致に驚くとともに、私たちはグラットン氏に問い合わせ、電話を通じたインタビューが実現するに至った。

100年生きる時代に、個人が備えるべき資産とは

世界的ベストセラーになったグラットン氏の前作『WORK SHIFT』は「次の10年の働き方革命」にフォーカスし、未来に向けた「働き方」の再検討・再構築が提言されていた。一方『LIFE SHIFT』は「100年時代の人生戦略」が主題となり、「生き方」や社会との関わりについての考察が巡らされている。

「最近、婚約したんです。だからテーマが“働き方”からもっと大きなものになった…というのは冗談で(笑)。人生がどんどん長くなっていくなかで、何が重要な価値なのかを提言したいとしたいと思ったのです」

100年時代の人生を生きる上で最も重要な価値や姿勢とは? グラットン氏はこう答える。

「多くの人が100歳まで、健康に生きられる時代です。日本は長寿国ですから、皆さんはすでにこのことを自覚していますね。そこでまず大切なのは“無形資産”です。無形資産とは、家族や友人関係といった人的ネットワークや、肉体的および精神的な幸福の在りどころ、スキルなどを意味します。自分自身の生き方から創出される、形のない資産。これをどのように身につけるかを考え、知っていくことが必要です。もうひとつ知っていただきたいのは、100年生きる人生に何が起こるかなど、誰にとっても予測不能であるということ。人生にはいろいろなことが起こります。そこに対してオープンな姿勢でいることを私は推奨しています。冒険したり、ビジネスを始めたり、また学校で学び始めたり…。本著でも18歳、45歳、71歳という3つのモデル・ストーリーを通じて、人生の計画に対して常に柔軟であろうと読者に提案しているんです」

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マルチステージの人生に最も大事なのは「教育」

グラットン氏は教育・勤労・引退という3ステージモデルの人生を否定している。このモデルに即していては「100年生きる」時代を幸福に生きられないというのだ。

「今や、人生はマルチステージです。そのなかで学びと仕事のステージを何度か繰り返しながら、歩んでいくものです。大学までですべてのことを学ぶことができるわけではないと、もう皆さんは知っているでしょう。教育は人生において極めて重要なステージ。大学を卒業した後も、必要があればまた学び、働き、と自由に選択していく時代です」

しかしながら、すべての人がこのように生きられるかといえば、必ずしもそうではないだろう。特に「100年生きる」時代になればなおのこと。すべての人が学ぶ機会を得られるわけではないし、いつでも自らの選択に沿った仕事ができるわけではない。高い技術をもった人と低い技術しかもたない人の格差も生まれる。グラットン氏は、そのような社会をどう捉えているのだろうか。

「もちろん、より良い教育を受けた人の方が、未来を着実なものとして設計する能力は高いでしょう。その格差を埋めるために、まずは政府や教育機関も、人々のニーズに応じて方針を変える必要があるでしょう。政府はすべてのレベルのスキルに合った雇用機会を人々に与え、継続して仕事ができるよう介入すべきです。また、今以上に教育についての支援を行い、人々が仕事を見つけられるよう、長期にわたって仕事を続けられるよう、社会を変えていくべきです」

さらにグラットン氏は「日本政府ができる最も重要なことは、起業家精神をサポートすること」と続ける。

100年生きる時代のロールモデルを

「アメリカでは65歳以上で起業する人もいますし、20代のアントレブレナーもいます。一方、日本は欧米諸国と比較して起業する率が非常に低いという調査結果が出ています。日本政府は人々が起業しやすくなるようサポートすべき。さらに社会全体が起業することをポジティブに受け入れるべきです。日本では大企業や官公庁で働くことの方が起業するより上位であり、社会からより良い評価を受けていると見做されるようです。しかしながら私は、自分の会社を築くのは良いことだと考えており、それをもっと多くの人々に理解してもらう必要があると考えています。また、アントレブレナーが働ける場所や環境がもっと必要です。ロンドンやサンフランシスコといった欧米の都市のみならず、今ではシンガポールでも起業家が仕事をしやすい空間が提供されています。このように、起業のハードルを下げるサポートもまだまだ日本には整備されていないと感じています」

一方で日本社会の「集団帰属意識」もまた、さまざまな側面で個人の生き方・働き方の選択にプレッシャーを与える。柔軟に働き方・学び方をシフトする、起業にチャレンジするなど、100年生きる時代に向けたグラットン氏の提言に刺激を受けながらも、純粋に従うのは難しい部分も多いだろう。

「たしかに政府や企業の動きは鈍く、人生100年時代という前提にまだまだ追いつけていません。3ステージモデルの人生を前提にした発想から脱却できていない部分も多いでしょう。だからこそ、具体的なイメージが必要です。例えば私には現役で働いている83歳の友人がいます。その友人は私にとって大事な人生の先輩です。なぜこの方のように、年齢を重ねてもなお現役で働き素晴らしい成果を生んでいる人に光をあてる社会的システムがないのでしょうか。ロールモデルとなりうる人々を広く認知させることで、人生100年時代の具体的な指標になると思います。若くして起業した人々、柔軟な働き方を提供している企業に対しても同様です。また、企業には従業員が自由に働き、自ら起業して会社を去り、事業をたたんだときにはまた復職できるというシステムも必要であると考えます。私はいくつもの企業の方にお会いし、このことを提言しましたが、明らかに難色を示していました。企業は変化を遂げるべきであるという提言を、根気強く続ける必要も感じています」

テクノロジーは、100年続く人生を幸せに導くのか

「Life Shift」がこれまで掲げていたタグラインは、「テクノロジーがぼくらの日常を変える」だ。この「テクノロジー」が仕事や人生に及ぼす影響を扱う、という点は今後も変わらない。そこでグラットン氏に、テクノロジーが人生にもたらすメリットは何だと考えているか聞いてみた。

「最大の利益は長く健康に生きられるようになったことでしょう。他にも、テクノロジーはたくさんのメリットをもたらしてくれています。例えば先ほど教育の話をしましたが、オンラインラーニング、シミュレーションやVRは、すべての年齢の、さまざまな場所に住む人々に学びの門戸を開きます。オンラインによるプラットフォームは、コンシューマーと起業家をつなげてビジネスの可能性を広げます。日本では、マシンラーニングとロボットが生産性の向上に大変役立っていると聞いています」

「一方で、AIやロボットの普及により、確実にテクノロジーに代用される仕事もあると思います。日本人はこのことをとても恐れているようですね。同時にアメリカでも、イギリスでも問題視されていることでもあります。もちろん、マシンが雇用ステータスに及ぼすインパクトの大きさは常に予測しておく必要があると思います。しかし同時に、これまで技術や知識を伴う仕事の一部が人間の手から離れることにより、異なる機会も創出されるでしょう。その結果、人間はこれまでにない発展的な技術を生み出していくはずです。また、どれだけテクノロジーが普及しても、共感や理解、コラボレーション、交渉といった人間ならではのスキルは不可欠です。だから、人間にしかできないことは、未来においても十分にあります」

最後に100年時代を生きていくうえで最重要視すべきことは何かを問うてみたところ、まさに私たちがこれから伝えていきたいことを代弁したような答えが返ってきた。

「人生は自分のものですから、どんな局面でも正しい選択ができるのです。だからこそ、正しい選択をするよう心がけてください。友人と時間を過ごすこと、新しい技術を学ぶのに時間を費やすこと…すべてが自分の選択によるもの。何が今必要なことなのかを見極めて、堅実に選択してください。必ずしも無形資産を築くことに執着したり、家族と時間を過ごすことを自身に強要しなくても良いと思います。ただ、常に自分の選択を振り返ることを忘れないでください。あなたが正しい選択をしていると納得することが何より重要ですから」

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『LIFE SHIFT』東洋経済新報社
リンダ・グラットン(著)アンドリュー・スコット(著)、池村千秋(翻訳)
¥1,944


リンダ・グラットン

ロンドン・ビジネススクール教授。人材論、組織論の世界的権威。
2年に1度発表される世界で最も権威ある経営思想家ランキング「Thinkers50」では2003年以降、毎回ランキング入りを果たしている。2013年のランキングでは、「イノベーションのジレンマ」のクリステンセン、「ブルー・オーシャン戦略」のチャン・キム&モボルニュ、「リバース・イノベーション」のゴビンダラジャン、競争戦略論の大家マイケル・ポーターらに次いで12位にランクインした。 組織のイノベーションを促進する「Hot Spots Movement」の創始者であり、85を超える企業と500人のエグゼクティブが参加する「働き方の未来コンソーシアム」を率いる。
邦訳された『ワーク・シフト』(2013年ビジネス書大賞受賞)、『未来企業』のほか、Living Strategy, Hot Spots, Glowなどの著作があり、20を超える言語に翻訳されている。