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Life Shift

2016.11.30

メイド・イン・ジャパンを世界へ。最新の保冷輸送で狙う新しい可能性

世界での和食ブームなどが追い風となり、政府が掲げた「2020年の農林水産物・食品の輸出額1兆円」の目標は、2016年の中間目標額を1年前倒しで達成。地方創生による地方産品の輸出促進も加わり、国内の“食の産地”は今、内から外へと視界を広げようとしようとしている。特に新興国の富裕層向けとして輸出が伸びているのは、マグロや和牛などのいわゆる生鮮食品だ。しかしながら、鮮度がおいしさのバロメーターとも言える生鮮食品の空輸は、実は今までなかなか進んでいなかったという。ANAホールディングスの貨物事業を担うグループ会社ANA Cargoの鳥居 綾氏に聞くと、日本経済復興のカギともいえる輸出に、弾みがつきそうな“新しい定温輸送”を知ることとなった。

半分は破棄することも覚悟で輸出!?

「今まで保冷が必要な生鮮食品は、専用コンテナにドライアイスを詰め、ファンでドライアイスの冷気を庫内に循環させながら輸出するのが一般的でした。しかし、ファンに近く冷気が当たり過ぎてしまう箇所は冷凍焼けを起こし、ドライアイスが溶けるにつれて庫内の温度が上がり、中の食品が劣化してしまうことも。特に鮮度が落ちやすい食品の場合、荷受け先で半分廃棄することを前提に輸出されるものもあるようです」と株式会社ANA Cargoの鳥居さんは言う。

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もったいない。しかし、裏を返して言えば、日本の生鮮食品の中には、輸送コストをかけ、約半分を廃棄しても元が取れるような価格設定でも、海外でニーズがあるものがあるいうことだ。しかし、ロスは少しでも減らしたいのが荷主の思いだろう。解決策はないのか。

「アイ・ティー・イー株式会社が開発した『アイスバッテリー®』という特殊な保冷剤を使った高付加価値貨物輸送サービス『PRIO IB(プリオ アイビー)』を2016年9月28日からスタートしました。ドライアイスとの一番の違いは、設定した温度帯を長時間一定に維持できる点です。コンテナ天井部分に保冷剤を設置し、自然な空気の対流を利用し、2~8℃の温度帯を100時間以上維持できます。この保冷材を採用することで、温度管理による廃棄ロスを極限まで減らせるだけでなく、今まで生鮮食品の輸出入が難しかったヨーロッパやアメリカなど遠い国への輸送も可能になります」



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保冷剤による温度帯は、生鮮食品向きの「+2℃~+8℃」、冷凍品向きの「-20℃~-15℃」、深温冷凍の「-25℃~-20℃」の3種類。貨物を積むコンテナは、1メートル四方、50センチ四方、30センチ四方まで大・中・小の3サイズ。中サイズ・小サイズの保冷用コンテナを新しく採用したことで、今までは現実的でなかった少量・小サイズの保冷輸送も可能になった。なるほど。では、「生酒を1本、アメリカまで」なんていう粋な届け物も夢じゃないわけだ。では、どこに頼めばいいのか。コストはどれくらいかかるのか。

「個人のお客様が海外へ食品などを輸送したい場合は、運送会社さんへご依頼いただくことになります。私たちが輸送する貨物のほとんどは、貨物フォワーダーを介してお預かりしているものです」

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「アイスバッテリー®」を使用した、高付加価値貨物輸送サービス『PRIO IB』のプレスリリース後、最も多かったのは、地元の食品生産者を後押ししたい都道府県庁からの問い合わせだったそう。

「問い合わせの多くは、どんなものを、どれくらいの遠隔地まで輸送可能なのかを詳しく知りたいという内容でした。この輸送方法の開発によって、今まではコスト面や設備面から諦めていた航空機による貨物の定温輸送のニーズが掘り起こせる。2015年の日本からの輸出実績(税関貿易統計)をもとに分析すると、温度管理(保冷)が必要な貨物は全体の数%。この輸送方法により、新たな市場の創造に寄与できると考えています」

コスト面や設備面から空輸を諦めざるを得なかった貨物は船便へ流れる。しかし、船便は到着までに時間がかかり、生鮮食品などの輸送方法としては少々難がある。

「たとえば果物を輸出する場合、アジアまで船便で運ぶには数日かかります。それを逆算し現地に到着した時に完熟状態を迎えるよう、日本で早摘みをする必要があります。しかし、『PRIO IB』では完熟状態で収穫した果物や野菜をその日のうちに航空機に乗せ、+2~+8℃の一定温度で運び、翌日の昼前には市内の店頭に並べることができます。輸送の都合で早摘みされたものではなく、完熟の、しかももぎたてのおいしさを海外で味わえる。実際、空輸された品質の高い日本産の葡萄は、日本よりも数倍高く売れるそうですよ」

生鮮食品とともに狙うは、医薬品市場の販路拡大

保冷が必要な貨物の中で一番多いのが化学品で、次いで医薬品だという。

「IATA(国際航空運送協会/ International Air Transport Association)推計によると、全世界における医薬品の保冷輸送マーケットは、2014年から2020年までに年計で65%の伸び率を示していて、市場規模は37兆円に達すると見込まれています。物流においては、化学品同様、医薬品の温度管理はとても厳密で、温度変化の生じるドライアイス輸送には適さない場合、充電式のコンプレッサーを備えた特殊コンテナで運んでいましたが、この特殊コンテナがマイナス温度帯に対応していなかったり、小さな医薬品を運ぶのにコンテナのサイズが大きすぎたりと、医薬品の輸送ニーズとのアンマッチが生じていました。しかし、この『PRIO IB』は、マイナス温度帯への対応、適度なサイズのコンテナを用意することが可能なため、輸送ニーズへのマッチング度が高く、様々な医薬品の輸送を通じて世界のQOL向上にも貢献できればと考えます」

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医薬品市場で現在世界2位の日本を2020年までには追い抜くだろうともいわれている中国。医薬品市場で乗りに乗っている中国とのビジネスチャンスもより開かれるかもしれない。

「中国発着の医薬品はドライアイスによる低温輸送で運ばれることが多いですが、空港によってはドライアイスが危険品扱いのため取扱い不可とされています。『PRIO IB』の特殊保冷剤『アイスバッテリー®』は危険品ではないため、今まで諦められていた輸送もできるようになる可能性があります。この『PRIO IB』により日本と中国間の原材料や検体輸送がより拡大すると期待しています」

もっとメイド・イン・ジャパンを世界へ。今までは諦めていた生鮮食品や医薬品の世界中での販路が、この保冷空輸で掘り起こされる。

「知識として日本産の食品は美味しい、日本製の薬は品質がいいと知っていても、それを実感したことがある外国人はまだまだ少ない。また日本を訪れたことのある外国人観光客も日本で食べた“あの味”を自分の国では味わえないという現状があります。これからは、こうした技術を使い、メイド・イン・ジャパンのよさを、そのままのかたちで世界へ届けるのが私たちの使命だと思っています」

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鳥居 綾

株式会社ANA Cargo グローバルマーケティング事業部 マーケティング部所属。1989年生まれ。2014年新卒入社、2015年より現職。貨物ジョイントベンチャーと商品開発を担当。


TEXT BY ASUKA USAMI
PHOTO BY TORAZO YAGI