Life Shift

2016.11.25

プロペラなしの風力発電で、ハザードマップをエネルギーマップに書き換える

東日本大震災から5年以上が過ぎたが、エネルギー供給のあり方についての関心は非常に高い。こうした中、風力・太陽光発電などの「再生可能エネルギー」には大きな期待が集まっている。とりわけ注目されているのが、世界的に拡大中の風力発電だ。既にいくつかの国では、風力による発電量が2割を突破。日本でも、経済産業省が中心となって普及が進められているが、まだ発電用に占めるシェアは決して大きいとは言えない。日本には、強烈なエネルギーで風車を破壊する、風力発電の天敵「台風」がやってくるからだ。
風力発電を広めるためには、台風でも壊れない発電機の開発が不可欠。この問題を、「プロペラのない風力発電機」によって解決しようとするベンチャーがある。彼らの狙いと今後の目標は、いったいどこにあるのだろうか?

原発事故がきっかけで再生可能エネルギーに取り組む

福島第一原発が爆発事故を起こしたのは2011年3月のこと。テレビ中継でその様子を見てショックを受けた人は多いはずだ。当時、大手電機メーカーで自動制御機器の研究開発を手がけていた清水 敦史氏も、その一人だった。

「原発が爆発する映像をテレビで、リアルタイムで見ていました。そのときの気持ちは、衝撃的としか言いようがありませんでしたね。日本はどうなるのかと強烈な不安を覚えましたし、同じような事故がまた起こったらどうなるのかとも考えました。
それに、福島原発の後始末は、僕らの世代が生きている間には終わりません。自分たちは好きなだけ電気を使い、そのツケを子どもや孫の世代に押しつけるのは申し訳ないですよね。それで、『今すぐは無理かもしれないけれど、いずれは原発をなくさなければ』と決意したんです」

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清水氏は、再生可能エネルギーの普及によって原発をなくそうと考えた。そこで選んだ道が「風力発電」だった。理由は2つ。1つ目は、風力発電は太陽光発電など他の手段に比べて発電効率がよく今後の電力供給源として有力だから。そして2つ目は、風力発電なら自分のエンジニアとしての経験を生かしやすいと考えたからだ。

「太陽光発電パネルは個人では作れないし、世界的な大企業が手がけていて、僕が入り込む余地は小さい状況でした。地熱発電なんてもっと難しい。スコップで温泉掘り当てるなんてムリですから(笑)。最も可能性が高く、かつ、自分を役立てられる道が風力発電だったんです」

清水氏は、震災直後から風力発電のアイデアを練り、2011年7月に最初の特許を出願。以来、会社勤めをしながら、ホームセンターで材料を買って仕事から帰った後や休日に自宅で試作機を作る暮らしをスタートした。

風力発電は、最も有力な「次世代エネルギー」

NPO法人の環境エネルギー政策研究所(ISEP)が発行している『自然エネルギー白書2015』によると、2014年の全世界における発電量のうち、22.8%が自然エネルギー。内訳は、水力発電が16.6%、風力発電が3.1%、バイオマス発電が1.8%、太陽光発電が0.9%、その他が0.4%となっている。世界的に見れば、風力発電はバイオマスや太陽光を抑え、最も普及している「次世代エネルギー」だ。ところが、日本における風力発電の累積導入量は、約300万kW。これは、太陽光発電(約900万kW)の1/3程度に過ぎない。

なぜ、日本では風力発電の普及が遅れているのか。大きな問題のひとつに、風車のもろさが挙げられると言う。

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「一般的に風力発電で使われているプロペラ式風車は、ヨーロッパで生まれ、改良されてきました。だから、日本の風土には必ずしも合っていないのです。 日本はヨーロッパに比べ、山など複雑な地形の場所が多いのです。そのため、短時間で風の方向がクルクル変わることが珍しくありません。プロペラ式風車は、風を正面から受けたときに最大の効率を発揮します。でも、横風が吹いたら期待通りには回りません。ですから、風向きが頻繁に変わる日本は、風力発電にとって相当厳しい環境だと言えるでしょう。
さらに問題なのが台風です。一般に秒速25m以上の風が吹くと、プロペラ式風車は運転を停止します。なぜなら、風が強すぎると風車が暴走して発電機が燃えたり、プロペラ部が壊れたりするのです。YouTubeなどを見ると、世界中で強風が原因で故障した風車の映像がたくさん見つかりますよ」

日本の台風に耐えられる風車を作ろうとすると、ヨーロッパ向けよりはるかに頑丈にしなければならない。その分、風車は重くなり、発電効率が下がってコストもかかってしまう。プロペラ式風車は日本に合わない。日本に合う方法を模索すべきではないかというのが、清水氏の主張だ。

そこで清水氏は、プロペラ式に変わるアイデアを考え出した。それが「マグナス式」を採用することだった。

「マグナス力」で回る、新タイプの風力発電機を模索

マグナス力とは、飛行機の翼と同じ「揚力」で、身近な例としては野球のカーブボールなどに作用している力のこと。
「カーブは、ボールに回転をかけて投げます。このとき、風向きに対して垂直方向に発生するのが『マグナス力』です(図1)。
僕たちが考えたのは、支柱の上に3つの円筒を鉛直に置く風力発電機でした(図2)。円筒をモーターで回し、発生したマグナス力によって風車全体を回すという仕組みです。
この方法には3つの利点があります。1つ目は、どちらから風が吹いても全く問題なく風車全体を回すことができること。垂直軸型とすることで、風車は『阿修羅像』のようにどちらの方向から見ても同じ形をしているので、風向きがクルクル変わっても大丈夫なのです。
2つ目の利点は、風の強さに応じて風車全体の回転スピードをコントロールできること。装置が回る力はマグナス力によって得られますので、3つの円筒を回すモーターの回転速度を遅くすれば、マグナス力は小さくなって風車全体の回転速度も遅くできるのです。つまり、風が強くなっても、円筒の回転速度を遅くすれば、容易に制御が可能。理論上は、秒速70~80mの暴風が吹いても動かすことができます。
そして3つ目の利点は、丈夫であることです。プロペラ式の場合、プロペラが薄く、また支点が1つの片持ち構造のため、強風によりプロペラが過回転してしまうと、遠心力に耐えきれずプロペラ自体が壊れてしまう危険性があります。ところが、僕たちの風車は円筒のため頑丈で、また円筒を2点で支える両持ちなので、構造的にも強い。そのため、破損のリスクを抑えられるのです」

(図1)
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(図2)
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「垂直軸型マグナス式の場合、円筒を同じ方向に回転し続けていると、風下側と風上側で、同じ向きにマグナス力が発生してしまいます(図3)。その結果、互いの力が打ち消し合ってしまうため、風車全体を回転させることができないという根本的な技術課題があるのです。この課題を解決するため、世界中でいろいろな企業が知恵を絞り、特許も出願した実績がありましたが、実用化された例はありません。でも、僕が2011年に特許を出願した方法なら、この課題をうまく解決できると思いました。当時住んでいたマンションでいくつかの試作機を作り、きちんと作動させられたときは嬉しかったですね。それで2013年に会社を辞め、チャレナジーを創設しました」

(図3)
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偶然の大発見が苦境から脱出する手がかりに

しかし、チャレナジーを作ってから約1年間は、苦しい日々が続いた。最初に編み出したアイデアのままでは、装置の効率を高めることができなかったのだ。
「当時は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の起業家候補支援を受けていました。その中間審査が2015年7月に迫っていたんです。ところが、2014年12月に行ったシミュレーションでは、期待をはるかに下回る発電効率しか得られないことがわかりました。
当時は追い込まれていましたね。税金を使わせてもらったのに、何も結果を出せなかったというのでは情けない。また、試作機製作などで手助けをいただいていた、ものづくりベンチャー企業支援施設『ガレージスミダ』の皆さんにも顔向けができないと思いました。そこで、当初のアイデアをいったん白紙に戻し、ゼロから考え直したんです」

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清水氏は、何度も実験を繰り返した。大発見がもたらされたのは、2015年のある日のこと。実験中に偶然、回転の効率がグンと高まるアイデアにたどり着いたのだ。
「この仕組みは、現在、特許出願中。そのため現時点では詳細は話せないんです(笑)」

この発見により、垂直軸型マグナス風力発電機の開発はようやく一歩前進した。だが、この発電機の課題がすべて克服されたわけではない。例えば、コストや発電効率の面では、まだまだ既存のプロペラ式風車に劣っているそうだ。
「台風が来ない地域であれば、既存のプロペラ式風車でもいいと思います。現在のところ、プロペラ式風車の方が量産されている分、安く導入できる。また、発電効率の面でも長年の研究により改善が進み、我々より優っていますから。ただ、我々の発電機は過酷な環境でも壊れにくく、例えば台風がきているときにも安定して発電し災害用電源として活かすことができる。これはプロペラ式風車にはできない芸当です。フィリピン、アメリカのように台風やハリケーンががしばしば訪れる地域なら、壊れるリスクなどを考え合わせると、我々の垂直軸型マグナス発電機がNo.1になれると考えています」

いずれは「台風水素」を量産して世界を変える!

チャレナジーは2016年8月、沖縄市南城市で垂直軸型マグナス風力発電機の実証実験を開始した。9月に発生した台風13号の際には、秒速20m程度の風が吹く中で発電に成功。10月の18号では最大で秒速25mの風を受けながら、非常ブレーキを使うことなく安全に停止させることができた。現時点では、「台風のエネルギーを電気に変える」という目標を十分に達成したと言えるだろう。ただし、課題は残されている。プロペラ式風車の発電効率は、一般的に、30~40%とされる。一方、垂直軸型マグナス風力発電機の発電効率は、まだそこまでには達していない。このあたりはさらなる改善が求められるだろう。

まもなく、量産試作機の開発も始める予定だ。2017~8年には量産販売体制を構築し、2020年前後には販売開始にこぎ着けたいとしている。
「現在の目標は、東京オリンピックです。世界中の注目が集まる中、競技場や街中に垂直軸型マグナス風力発電機を据え付けたい。そうすれば、訪日外国人に対し、『日本はこれから、再生可能エネルギーで行く!』とアピールできるじゃないですか。例えば、オリンピック会場に、五輪になぞらえて、垂直軸型マグナス式の風力発電機を5つ並べたらどうですかって、僕は提案したいですね(笑)」

台風が秘めるエネルギー量は莫大だ。従来のプロペラ式風車では、故障や暴走などのトラブルを恐れるがゆえ、そのエネルギーを十分に活用できなかった。しかし、マグナス力を使った「垂直軸型マグナス風力発電機」なら、台風のさなかでも運転を続け、そのパワーを電力に変換することができる。

一方、台風発電には大きな課題もある。それは、せっかく台風時に大きな電力を生み出しても、それを保存するすべがないということだ。しかし、清水氏には腹案がある。
「いずれは、発電した電気を使って水を分解し、『台風水素』を作りたいと考えているんです。例えば、台風が数多くやってくる東南アジアの洋上に、たくさんの洋上垂直軸型マグナス風力発電機を設置します。そして、台風が来たらどんどん発電し、海水を電気分解して水素を作ってタンクに貯めていく。それをタンカーで世界各国に輸出するわけです。
台風やハリケーン、サイクロンの経路を調べると『ハザードマップ』ができます。でも、暴風の中でも安定して発電できる風力発電機が実用化できれば、これらの地図が『エネルギーマップ』にもなり得ます。そういう世の中がやってくれば、CO2の排出量も抑えられるし、新興国の電力不足問題も解決できるかもしれない。
日本の弱みを強みに変える技術で、世界にエネルギー革命を起こす。それが僕らの、最終的な目標なんです」

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清水 敦史(しみず・あつし)

1979年生まれ。東京大学大学院修士課程修了後、大手電機メーカで自動制御機器の研究開発を担当。東日本大震災を機に再生可能エネルギーの普及に取り組むようになり、独力で「垂直軸型マグナス風力発電機」を発明。2014年3月、ものづくり系のテックベンチャーを発掘する「テックプラングランプリ」(リバネス主催)の第1回大会において最優秀賞を受賞した。2014年10月にチャレナジーを創業。浜野製作所(東京都墨田区)などの支援を受けながら、沖縄で実証実験に取り組んでいる。


TEXT BY TERUHIDE SHIRATANI
PHOTO BY TORAZO YAGI