Life Shift

2016.11.21

テクノロジーが後押しする終活

現在の日本の人口は、約1億2700万人。人口の数だけ異なる人生があるわけだが、生まれた限り、人は死ぬ。そして2015年の日本では、出生数100万8,000人に対し、死亡数はそれを大きく上回る130万2,000人となっている。
葬儀にはさまざまなしきたりや慣習があるが、近年は一般的な葬儀だけでなく、火葬式や家族葬、さらには散骨や宇宙葬という、新しいスタイルの葬儀も多く登場している。価値観やライフスタイル同様、多様化する葬儀の業界には、近年、他業種からの新規参入も相次いでいる。そこではテクノロジーがどんな力を発揮しているのだろうか。変わりつつある葬儀業界の今を探った。

葬儀はわからないことだらけ

身近な誰かが亡くなったとして、どんな葬儀をいくらで行うのが妥当なのか。多くの人は、その答えを自身の中に持っていない。
経済産業省の葬儀業に関する調査によると、一年間の葬儀件数は971,254件。その中で最も多いのは、100万以上200万円未満の葬儀となっている。だいたいの目安がわかったとして、ではどこに葬儀を頼めばいいのだろうか。
地域コミュニティが健在だった時代なら、ご近所の葬儀を手伝う中で地元の葬儀社を知る機会もあっただろう。しかし、地縁の薄い都市部などでは難しい。

「加えて、葬儀社決定までの時間の短さという問題もあります」

そう話してくれたのは、葬儀に関するレビューサイトからスタートし、葬儀業界で画期的なサービスを打ち出している株式会社みんれび取締役副社長の秋田 将志氏だ。

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「今はほとんどの人が病院で亡くなりますが、死亡数の増加もあり、霊安室に遺体を安置できる時間は2〜3時間と短くなっていると言われています。大切な人が亡くなった悲しみの中、急いで遺体を搬送しなければならないのです」

遺体の搬送は葬儀社が葬儀とセットで請け負うケースがほとんどだが、多くの人は心当たりのある葬儀社があるわけではない。そのため、病院からもらったリストの上から順番に電話し、対応してくれる葬儀社を探すことになるのだという。

本当は遺体の搬送のみでも依頼できるところもあるのだが、多くの人が遺体の搬送を頼んだ時点で葬儀社も自動的にそこに決まると思い込んでいるため、葬儀の準備が始まってから具体的な金額を知ることも多く、参列者の数によっては追加料金が発生することもあるという。葬儀社が法外な金額を提示しているわけではないのだが、他の買い物のように「プランや費用を比較検討してから決める」ことができないため、依頼者が不信感や不満を抱くケースもあるそうだ。

問題は他にもあるという。葬儀社の多くの葬儀プランには、僧侶による読経や戒名と、それらにかかる費用は含まれていないのだ。
「というのも、もともと日本には江戸時代から始まった檀家制度があり、多くの家は檀家として菩提寺を持っていました。そのため、家族が亡くなったら菩提寺に連絡して、そのお寺の僧侶に読経や戒名を依頼すれば良かったのです」
しかし、今は菩提寺を持たない家庭や菩提寺が遠方にあるケースも少なくない。かといって、近所のお寺にいきなり葬儀の時だけ頼むわけにもいかない。そもそも誰に読経と戒名をお願いすればいいのかわからない、というわけだ。

ワンクリックでお坊さんを呼べる

こうした中、ユーザーを増やしているのが、葬儀社や僧侶と遺族をつなぐマッチングサービスだ。みんれびが運営する「シンプルなお葬式」もその一つ。必要なものだけに絞ったシンプルな葬儀を望む遺族と、葬儀社をつなぐサービスだ。
「『シンプルなお葬式』がリーズナブルなのは、本当に必要なものだけに絞ったものだからです。例えばお通夜も告別式も行わない火葬式というプランもあります。これは税込みで14.8万円です。とはいえ、価格破壊をしたいわけではありません。これまで、葬儀費用の表記は葬儀社によってまちまちで、比較検討しづらいという問題がありました。そこで、葬儀プランの内容と価格を一つひとつ明確にし、全国一律にしたんです」

同社の役割は、直接葬儀を行うことではなく、全国に500社ある提携葬儀社の中から、遺族が希望する地域で希望のプランで葬儀を行うことができる葬儀社を探すこと。「葬儀社を決めてからプラン内容と費用を知る」という今までの葬儀業界の流れと逆になり、通常の購買検討と同じフローを実現した。

また、今年大きな話題になった「お坊さん便」も、同社が手がけるサービスの一つ。「Amazonでお坊さんが手配できる」サービスが物議を醸したのは記憶に新しい。既存の枠組みを外れれば、賛否両論が寄せられるもの。「不謹慎だ」という声に加え、僧侶による宗教活動は、本来商品というものではないため、その活動に金額を設けて商売するべきではないという意見がある一方で、「どこでも誰でもつながることができる」インターネットの力が、「どこに頼めばいいかわからない」というユーザーの声を解決する一つの方法となっているのも事実だろう。

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読経・法話や戒名の授与を全国一律の定額で提供する

慣習やしきたりが未だ色濃く残る葬儀業界で、明確な価格のサービスや商品が広がりつつあるその背景には、時代の変化がある。その最大の要因が、インターネットの普及だという。
「以前なら、葬儀社や葬儀にかかる値段を調べるには、地域の世話役や親戚に聞いたり、葬儀社に問い合わせるしかありませんでした。ただ、事前に葬儀について情報収集しようとすると『縁起が悪い』と思われる恐れがあります」
そこで生かされるのが、「個人が自由に直接、情報にアクセスできる」というインターネット最大の特徴だという。

「多くの人がスマホやパソコンを持つようになると、周囲に聞くことなくインターネットで欲しい情報が手に入るようになりました。そうしたこともあってか、最近では、亡くなってからの葬儀依頼をいただくより、病気のご家族を抱えていらっしゃる方などから事前に葬儀に関する問い合わせをいただくケースの方が増えているんですよ」

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ネットの普及は、ユーザーにとって選択肢が増えたというだけではない。サービスを提供する側にとっても、営業担当を各地に配置することなく、一律の定額料金でサービスを提供できるようになったというわけだ。

「喪主となるのは、親を見送る40〜60代の方がもっとも多いのですが、中でも団塊の世代は親を見送る一方、『自分の子供には、墓や葬儀で経済的な負担をかけたくない』とおっしゃる方が多いんですね。どの世代も、『お葬式はきちんとやりたい』という方は多いのですが、大掛かりなものでなくてもいい、という方も増えています」
日本の経済状況の悪化も、シンプルな葬儀を受け入れる大きな要因になっているという。

宇宙葬も登場した葬儀業界のこれから

葬儀の多様化を後押しした「時代の変化」が、もう一つあるという。人々の価値観や死生観の変化だ。日本人にとって葬儀は親族や近隣と助け合いながら執り行うものであり、また墓は一族の共有財産であり、それを象徴するのが「墓守」という役割だった。しかし、最近では「墓じまい」という言葉が話題になったり、さらには墓を持たない「散骨」、「宇宙葬」と言った選択肢もあるのだとか。

中でも今注目を集めている「Sorae」はみんれびでも取り扱っている宇宙葬で、遺灰を詰めたカプセルを人工衛星に積み、宇宙空間に打ち上げるというもので、その価格は28.5万円と墓を購入することを考えれば格安だ。しかも遺灰は3カ月から半年かけて地球の周りを回り、大気圏に突入する際にカプセルごと燃え尽きるため、環境にも優しいという。

テクノロジーが一端を担う、新しい葬儀サービスの数々。

「もし、10年前に事業を始めていたら、成功していたと思いますか?」
秋田さんにそう尋ねると、迷うことなく首を横に振った。
「まだ当時の日本人の葬儀観からすると、受け入れられなかったでしょう」
納棺師の仕事を描き、ヒットした映画「おくりびと」が公開されたのが2008年。株式会社みんれびが設立されたのは、その翌年の2009年のこと。さらに、2016年の今では、自ら人生のエンディングについて考える「終活」も珍しいものではなくなり、以前に比べて「死」や「葬儀」について考え、口にしやすくなった時期というこのタイミングも、サービスの拡大に大きな影響を与えていると考えて間違いはないだろう。

老齢人口の多い日本では、今後しばらく葬儀件数は増え続けるはず。では、今後はどんなサービスが求められていくのだろうか。

「老後のセーフティネットとしての役割や死後委任などのニーズがますます増え、アクティブシニアとの関係をさらに深めていく必要があると思っています。エンディングノートがあれば、故人の意思を尊重した見送り方ができますし、生前葬や散骨など、多様なサービスが求められるのではないでしょうか。また、葬儀業界は未だにファックスや対面でのやり取りも多く、現金でないと決済できないなど、アナログさが残っています。火葬場の申し込みや葬儀費用のカード決済など、他の分野では当たり前に使われているテクノロジーを入り込む余地がまだまだあると思います」

ただし、誰でもIT事業やさまざまなテクノロジーという強みを持っていればすぐにみんれびのように成功するとは限らない。歴史ある業界で新たなマッチングサービスを提供するには、実際に葬儀を執り行う葬儀社一社一社との信頼関係を築くことが重要となるという。

まだまだテクノロジーを受け入れる余地がある葬儀業。人の思いを受け止める葬儀という儀式を扱う業界だからこそ、人とのつながりや信頼の上に成り立つテクノロジーの導入がより強く求められていくことだろう。

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秋田 将志

株式会社みんれび取締役副社長兼COO。1985年生まれ、岐阜県出身。2008年University of Central Oklahoma卒業。Webを中心とした保険の総合代理店を経て、2009年に時給850円のアルバイトとして、志と気合いでみんれびに創業時から参画。葬儀業界に特化したメディア営業を通して600社以上のネットワーキング、24時間365日稼働のカスタマーセンターを構築。カスタマーセンター立ち上げ当初は一人で24時間電話対応も経験。また、葬儀・供養業界におけるPBブランド等の事業を構築し、今に至る。


TEXT BY KEI YOSHIDA
PHOTO BY TORAZO YAGI