Life Shift

2016.11.14

「インターネットヤミ市」に見えた、インターネットへの愛情のかたち

インターネットヤミ市と聞くと知らない人にとっては、何とも怪しげネーミングだろう。事実、これまでは「インターネット的なものなら何でもアリ」とインターネットへの期待感をもつギークな人たちが怪しくも魅力的なモノを扱うフリーマーケットであった。しかし、今回3年ぶりの開催となるが、その間にインターネット社会は変化をむかえていた。人は、SNSなどのオンラインに分身を置いたことで社会と切り離され、自由を得たはずだったが、その3年の間に見えない監視がネット上を漂うようになり、誰からも指をさされてはいけない世界ができあがりつつあった。その状況にクリエイターたちは窮屈さを感じていたのだろうか、ここにかつてのインターネット黎明期に見た“個の開放”というべき自由があった。

インターネットヤミ市とは、アートユニット・エキソニモが立ち上げた、100年前から続くインターネット上の秘密結社「IDPW(アイパス)」から生み出されたもので、ニューヨークやベルリンなど、世界各国で開催されているフリーマーケット。その開催時期は不定期で、今回東京での開催を聞きつけたクリエイターやアーティストらがすぐに反応。告知もほとんどされないなかで、わずか数日で予定のブースが定員となった。今回はそのレポートをお届けする。

main01

main02

main03

会場が賑わうなかで異彩を放っていたこちらのブースは、ユニットで活動する「ギャル電」の電子工作デバイス。日本伝統(?)のデコトラをウェアラブルに、というコンセプトから生まれた作品。彼女たちの目標は「不良に電子工作を流行らせること」。メディア・アートの新世代到来なるか。

main04

こちらは電卓付きのソロバン。家庭に電卓が普及しはじめたころ、その計算結果に不安があったようで、確認のためにソロバンがついていたのだとか。そのほか、黒電話に取り付ける市外局番早見表など、変革の時代の狭間に生まれたレガシーともいうべき品々が並ぶ。

main05

main06

LINEのメッセージが1ページに1つ書かれた文庫本サイズの『私的なインターネット』。「1つのメッセージからストーリーを想像して楽しんで欲しい」と作者のUco氏。彼女との関係なのか、友だちとの関係なのか、ときどき思わせぶりな言葉もあり、ドキッとさせられる。

main07

ビールが描かれた紙が入ったカップが並ぶ。今回から飲食物の販売が禁止になったので、せめてもという思いで制作したそう。「雑にちぎった切れ端が泡っぽいでしょ」と、こちらはアルコールも値段もフリー。ちなみにフェイクビールのなかに本物の飲み物を入れて“拡張子偽装”スタイルで楽しむのもヤミ市の醍醐味。

main08

main09

バーチャルろくろ体験装置「Roquro」は、動きを感知するデバイスの上で、器を形づくっていく。ディスプレイ内のろくろが変化していく様子が気持ちいい。できあがった形はそのまま3Dプリンターから出力もでき、陶器としても展開可能。

main10

main11

USBメモリには人の名前が書かれたものと「仏」と書かれたものが並ぶ一見地味なブース。人の名前が書かれたものには、その人物のWeb閲覧履歴100件分と、それを自身のWeb閲覧履歴と置き換えることができる拡張機能が仕込まれている。値段はなんと600円から10,000円と幅広い。出展者の友人たちの履歴は600円で、現代美術作家yang02のUSBメモリは3,000円。10,000円は多摩美術大学の教授で、アーティストの久保田晃弘氏の履歴が入ったもの。
見られたWebページそのものの価値は一定であるはずなのに、見た人によって価値が変わる、Webのパラダイムシフトを起こしたともいえる作品。
「仏」のUSBメモリはマニ車と呼ばれる仏具がモチーフに。マニ車にはマントラが刻まれており、回転させた分だけお経を読んだと同じ功徳を得られる……ということらしい。こちらのUSBメモリを挿すと、Webブラウザのトップに自動的にマントラが挿入され、ネットサーフィンをするだけでお経を唱えてくれる、現代版マニ車。

main12

main13

近年、突然の逝去によって報道などで遺影写真として使われるのが、SNSのプロフィール写真。ちゃんとした写真を載せるべきだというコンセプトのもと、プロのフォトグラファーによる遺影用の写真撮影サービス。シャッターの合図は「いえーい!(遺影)」。

main14

こちらはアーティストよシまるシン氏による、宇宙の法則を書き記したという曼荼羅風ステッカー。所狭しと書かれたワードには芸能人の名前など、数々の単語が並び、互いに矢印で関係性を結んでいる。攻め込んだ内容も含まれているので詳細は記せないが本人いわく「すべての単語に何らかの因果関係があり、1つ欠けただけでも法則が乱れます」と一つひとつ細かく関係性を解説してくれた。1枚で30分は語れるほど練り込まれたもので、遊びのネタとして究極の一品。

紹介したのは一部にすぎないが、まだまだ多くの“自由”が売られ、完売したブースも多く見受けられた。時間が経つにつれてさらに来場者の勢いは増し、熱気のうちに閉幕をむかえた。この様子を運営チームはどう見ているのか、主催者の1人であるtadahiに話を伺った。


—この盛り上がりはすごいですね。以前のインターネットヤミ市とは少し様子が違いますね。

公募をはじめてすぐに枠が埋まったのでびっくりしました。予算があるわけではなく告知は最小限なのに、ヤミ市クラスタ内で一気に拡がっていったようです。

—今回はどういった経緯で開催を?

文化庁主催の「文化庁メディア芸術祭20周年企画展」が同時に開催されているのですが、それにあたり向こうから一緒にやりませんか、と声がかかったので、じゃあやろうかと。いつやる、というは決まっていないですから。しかもオープンソースなので、コンセプトを理解している人がいれば誰でも主催できますよ。逆に、誰かがやろうと言い出さない限り開催されることはありませんね。

—運営のシステムや収益はどうなっているんですか?

すべて無料です。協賛は入っていただいていますが、運営としては出店料も入場料も売上の一部も取っていません。ただただインターネットへの愛だけで構成されています。これだけ人気であれば入場料をとってさらに規模を拡大することもできるかもしれませんが、それは別のものになってしまうので考えていませんね。

—お金という枠に縛られないからこそ生み出されるものがあると

そうですね。利害関係がまったくないから、いい意味でのカオスが生まれていんだと思います。出店料を取ったらブース代の元を取ろうとか、入場料を取ったらそれだけのクオリティをお客さんも求めますよね。ことインターネットヤミ市においてはそのシステムはノイズでしかないんです。

—以前に比べ、出品されているものがインターネットとは関係なくなっているような気もしますがそのあたりは?

ちょうど運営サイドでも話をしていて。最初のころはニッチなイベントで、まさにギークな人たちが集まるアンダーグラウンド的な場でした。その頃はまだポスト・インターネットと呼ばれていて、ネットとリアルの境目がなくなりつつある時代でしたが、それから時間が経ち、今は完全にシームレスになったといえます。その流れもあり、すべてがインターネット的とも言えるし、そうでないとも言えるかもしれません。

—ものづくりというジャンルでいうとMakeの流れもありますが、そことは違った独特なカルチャーがありますよね。Makeは世の中に役立つことや、文化発展の意味合いもありますが、こっちは趣味の延長と言えそうです。目的は自分が表現したいことをするだけで、それ以上でも以下でもない。その純然たる思いが集まることでカオスを形成し、人々の心を惹きつけていくと

今の時代、なんでも意味や意図を求められがちなところで「自分でもよくわからないけど楽しそうだから作った」というほうが面白いこともありますよね。便利さとか求めず、表現したいことを突き詰められる場が求められているんじゃないでしょうか。

−次回開催は決まっているんですか?

近々ニューヨークで開催されますが、日本では未定ですね。このコンセプトに共感してくれる人がいたらやってみたらいかがでしょうか。

明文化されたコンセプトがあるわけでもなく、言語化されないクリエイターたちが持つそれぞれの思いが輪郭を形成し、ひとつのムーブメントとして世界中に引き継がれていくインターネットヤミ市。明確な定義がないからこそ、そのアウトプットに正解も不正解もない。だからといって無法地帯というわけではなく、法は侵さないが、秩序に従うわけでもない。モラルはないが、人は傷つけない。そこにはインターネットを愛し、純粋にクリエイティビティを開放できる、幸せに満ちあふれた“明るい闇市”であった。


PHOTOGRAPH BY MAIKO KOBAYASHI
TEXT & EDITING BY KEISUKE TAJIRI