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Life Shift

2016.12.16

子育てが暮らしをイノベイティブに変える。その秘訣は夫婦間PDCAを効率よく回すことにあり

働くことにおいて、出産と育児は悩みでしかないのか、それとも新しいライフスタイルへの転機か。人によって環境や条件、考え方も異なるので、「これが正解!」というものはおそらくない。ただ、昨今、男性が育児休暇を取るようになった時代。家事や子育てに対する夫婦間での取り組み方は一昔前とは明らかに違い、そのため働き方も確実に変わったと言えるだろう。今回取り上げるのは、妻は月間60万PVを誇るブログ「ままはっく」を運営するプロブロガー、夫は面白法人カヤックに勤めるエンジニアというテック系夫婦。子育てとは? 働くとは? 幸せの価値とは何か? 出産を経て二人が辿り着いたライフスタイルを紐解いていく。

終電は当たり前、の独身時代

はじめに渡邊麻奈美さん、達明さん夫婦のプロフィールに触れておきたい。二人は同じ1988年生まれの現在28歳。新卒で入社した大手電機メーカーの同期であり、その後交際を経て結婚。2013年、麻奈美さんは出産のため産休へ。そして、翌年無事に長女を出産し、そのまま1年の育児休職を取得した。幸せいっぱいの子育てが始まるかと思いきや、生まれて間もない長女に不整脈が見つかり、遠い病院に頻繁に通う必要が出たため、夫の達明さんも6カ月の育児休職を決意。会社では珍しがられたというが、出身がそれぞれ関西と東北と、実家も遠方の核家族としては、それは選択せざるを得ない状況でもあった。

しかし、この育児休職の期間の体験が二人のライフスタイルや考え方を大きく変える。麻奈美さんは、復職後数カ月後に退社し、休職中に始めたブログの運用に本腰を入れ、フリーランスのブロガーに。一方、達明さんも、裁量がとれ、よりモノ作りができる環境へとカヤックに転職した。

― まず伺いたいのは、出産前の働く目的や目標は何でしたか?

麻奈美(以下・麻) 具体的な目標はなく、自分は漠然と就職活動をして、ある程度名の知れた会社に入って出世できたらいいか、くらいのノリでした。

― その時は、出産しても働くつもりでしたか?

麻 そう考えていました。でも、出産後、復職して管理職になる女性がいなかったんですよ。皆、バックヤードの仕事にまわったり、仕事をセーブしている印象があったり。それを見ると、出産しても働きたい気持ちはあるにはありましたけど、正直どうしようかなって。

― 同じ会社である程度長く働くことをイメージしていましたか?

麻 そうですね。でもまずは3年と思って入ったのもありました。

― それはなぜ3年だったのですか?

麻 3年経って、仕事が面白くなかったら転職もありだな、くらいに思っていました。

― 最初に配属された部署はどういった仕事だったのですか?

麻 パソコンを何台作るか、という生産計画を立てる部署でした。今やっているようなこととは、全く別のこと。そこで2年間やって、もう少し商品を作る上流工程のマーケティングにいきたいなと思って、3年目で手をあげて異動させていただきました。

― 仕事は楽しかったですか?

麻 2年間は修行みたいなものでしたが、異動してからは面白かったですね。

― 具体的な面白さって何でしょう?

麻 生産計画を立てるというのは、決められた商品が下りてきて、それを何台作るかということでした。利益を大幅にあげられないから、コストを節約するみたいな部署。異動後はもっと上流工程にいて、利益の幅を大きくあげられる可能性があるというところに。自分の企画次第で、いいサービスを作れば会社の業績があがるというか、それはいいなと思いました。

― 新卒で入社した大手電機メーカーを選んだのは、ある程度名の知れた企業に入るということが理由?

麻 それはありましたね。結局、就職活動では自分が知っていた企業ばかり受けていました。その中で最終的にこの大手電機メーカーを選んだのは、消費者向けの商品をやっている、という理由からでした。何かしら消費者にものを提供して、その対価としてお金を得るというビジネスに携わりたかったんですよね。

― ちなみにご主人はどういった理由でこの大手電機メーカーを選んだのですか?

達 私は、モノ作りに携わりたかったので技術的な学校を卒業し、パソコンやスマートフォンなど最先端の技術を使っている製品が作れるメーカーを受けて、決まりました。だいたいスマホのシェアが一気に伸びてきたくらいの時期でしたね。

― 出産前は、働くことで得る幸せって何でした?

麻 何でしょうね、会社員時代…。あんまり記憶がないんですよね。1年目は、ものすごく働いていました。夜中の4時まで働くことも。今はそんなこと絶対にしませんが、そういう働き方をしていましたね。ひたすら目の前にきた仕事をやる、みたいな。ロボットみたいな感じです。

― 仕事に熱中できることが幸せだった?

麻 いや、仕事が好きだったわけじゃないんですよ。ミッションを与えられると淡々とやるタイプみたいな。悶々とはしていました。

達 部署を異動した後は?

麻 異動した後は楽しかったかな。楽しくやっていたけれど、働くことに対しての意味づけはそんなにできなかったと思います。

― 月並みだけど働いたお金で洋服を買うとか、旅行に行くとか、そういう部分では感じなかった?

麻 あんまり。お金に執着ないんですよね。普通に生活できるくらいの収入はあったし、年収を上げたいとかそういうことも思いませんでした。

― プライベートのために仕事していた?

麻 プライベートのためだけだと、週5日そんなに頑張れなかったと思います。何だかんだ、仕事についてそんなに面白味は感じませんでしたが、入社1年目で経営陣にプレゼンさせてもらったり、裁量は与えられていたので、そういう意味ではやりがいはありました。

― やりがいがあることが楽しさだった。

麻 やらないといけないからやる、みたいな。今は、ブログをやっていて楽しいです。

― ご主人は、子供ができる前の幸せは、何でしたか?

達 元々消費者向けの商品を作りたかったので、自分の作った製品が電気屋に並ぶことはやりがいがありました。自分が作ったものが使われていたり、売られていたりする様子は、幸せというか嬉しいですよね。

麻 あ、それでいうと私、土日はずっと飲み歩いていたので、それがすごく楽しみだったかもしれません。

達 そっちがメインで働いたんじゃない?笑

― 土日は全然働かなかった?

麻 そうですね。金土日はものすごく遊ぶみたいな。

― メリハリをつけて。お酒は、結構好きですか?

麻 お酒より、飲み会が好きなのです。

― 飲み会の雰囲気?

麻 そうですね。

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育児休職復帰後の現実

― 出産は、25歳くらいの時ですか?

麻 そうです。

― 出産後、働く目標や目的は変わりました?

麻 変わりましたね。保育園にお迎えに行かないといけないので、残業はできず強制的に16時で終業みたいな。意識がその時間までに終わらせると感じですね。

― 育児休職後、一旦は復職したんですよね?

麻 そうですね。でも結局辞めたので、正味3カ月くらいですけど。

― 産後ゆっくり考える暇もなかったと思いますが、この会社で自分は今後どうなっていくのだろうということは何か考えました?

麻 考えましたね。妊娠中からどうするのかな、ということはずっと考えていました。

― 具体的にはどんな考えに辿り着いたのですか?

麻 やっぱり社内で出産しても働いている人はいましたが、出世して管理職まで上り詰めている人はいませんでした。だから、一旦子供を産んで戻ってみてから決めようと思って。戻ってみて仕事が楽しかったら続けますし、そうでなかったら辞めようと。

― 最終的に独立しようと決意したのはなぜですか?

麻 きっかけは、如何せん大企業ということもあって開発のスピードが遅いこと。このままいったら歳だけとってしまうなと思ったので、独立を決めました。独立できたのは、育児休職時代から始めたブログをコツコツやっていて、それが収益的にもPV的にもある程度いけるな、という算段がありました。あとは、夫が一番背中を押してくれて。「僕がサラリーマンやっているから、無茶しても大丈夫だよ」って。むしろ「いいから早く辞めろ、辞めろ」って言われました。

達 自分でブログを運営するので、ほぼ100%自分でコントロールできるじゃないですか。ブログはすぐに気付いたことが反映されますが、今までの会社の仕事は、色々な人が関わっているので3カ月くらいかかります。そういうことにフラストレーションを抱えてかなり愚痴を言っていたので「そんな愚痴ばっかり言っているんだったら、早く辞めたほうがいいよ」って。

麻 その時は、本当に愚痴しか言っていなかったよね。

達 16時まで働いて、急いで帰って保育園に迎えに行って、家に戻ってからもご飯作って、育児もだと結構大変ですし。

麻 自分で仕事の内容をもっと柔軟に変えられたらいいですけど、組織の仕組み的な問題にぶち当たってしまって。きっと大きな会社があっていなかったのだと思います。

― ご主人は、仕事に対する目標みたいなものは変わりましたか?

達 働き方は変わって、残業はほぼゼロです。

― きっと仕事に対する価値は変わらず、時間の使い方だけが変わった、という感じですよね。

達 そうですね。転職はしましたが、根本的には自分でもの作りをしっかりやりたいというのがあって、そこは変わらずです。時間の使い方は確実に変わりました。今の勤務先は、柔軟な働き方ができるので、基本的には定時で帰宅し、仕事が残っていれば子供が寝てからやるというスタイルです。それは、前職だとできなかったことです。ただその分実力主義というか、別に会社にいなくてもちゃんと仕事をやっていればいいと、認められています。

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独立と夫婦円満の秘訣

― 独立してからは1年くらい?

麻 そうですね。去年の8月に退職届を提出しました。

― ちなみに1年経って、独立するにはどんなスキルが必要だと感じましたか?

麻 正しい方向に時間をかけられる能力とそれを見極める力。それに、正しい方向に時間が積み重なっているかを自分で判断できること、という感じですかね。例えばブログでも、記事を書いただけで成功する人も一握りの天才型でいますが、普通の人はそういうことはなくて。記事を書いて反応が悪かったら何がダメかを考える。SEOの観点か、SNSのタイトルの付け方がダメだから拡散されないのか、検索上位にいくためのサイトの中の内部リンクの構造はあっているのかなど。そういった仮説を立てて検証していくというのをやれるかどうか。私はそれが好きなので、それが当たった感じはありました。

― そういった仮説を立て実装するというのは、元々得意だったのですか? 社会人になってから身についたものですか?

麻 実は、高校2年生の時にガラケー向けのウェブサイトを作っていました。多いときで4,000-5,000人のアクセスがあって。その時の知見が大きいかもしれません。会社に入ってスキルがついたかというと、私の場合はちょっと微妙ですね。PDCAを回すにも会社だと遅すぎてまわらないという感じです。

― 高校2年生で、そういうことやるのは普通ですか?

麻 ちょっと違うと思います。犬を飼っている友達が犬のウェブサイトを作っていて、ホームページは誰でも作れるんだっていうことにすごくワクワクして。調べたら「魔法のiランド」というホームページを無料で作成できるサービスが昔流行ったと思うんですけど、それで作ってガラケーで更新するみたいなことをやっていました。1年間くらいです。

― 独学で?

麻 はい、独学で。素敵なサイトを探して同じように真似をして。その時にアフィリエイトがあるということも知っていました。だから、そのブログを始める時もそんなに問題なかったというか。

― すごく夫婦間での役割がうまくいっている感じですが、秘訣はありますか?

麻 そうですね。育児や家事、お互いの時間の使い方や仕事に対して、夫婦で共通認識が持てているか、というのは大事だと思っています。私が仕事で出ている時は、夫が子供の面倒を見ていてくれています。だからこそ夫が面倒を見てくれている時は、2倍くらいの仕事をこなさないといけないと思っています。そもそも、それは人に預けてまで行かないといけないものなのか、という稟議を通すみたいなこともあります。

― ちなみに幸せという点ではどう変わりましたか?

麻 子供が生まれてからは、飲み会の機会も減りましたし、月並みですけど子供がかわいい。あとは、自分のブログの数字があがっていくことに幸せを感じます。

― 今、月間60万PVくらい?

麻 そうですね。だいたい、月55万-60万PVです。WordPressを使って、基本的には構築を夫にお願いして、私は記事を書くことや分析など運営を行っています。

― ブログの内容というのは、どのように決めたのですか?

麻 妊娠出産の過程で、出産や育児に関するインプットがすごく増えました。これを分かりやすく他の人にアウトプットしたら自分のためにもなるし、他の人のためにもなるのではないかと思って、それをテーマに始めました。私、「育児、ストレス」とかで検索1位になったことがあるんですよ。ストレスを抱えた時の経験や打開方法を記事にしたことがあって。それを見た人から「読んですっきりしました」とか。そういう嬉しいコメントもきたりします。

― ご主人は、幸せの価値観は変わりましたか?

達 そうですね。独身の時は自分に100%時間を使えましたけど、今は、土日はほとんど家族と時間を共有しています。子供が本当にかわいいので、家族と一緒にいる時間が一番です。その価値は、何物にも代えがたいです。

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辿り着いた答え

― ちなみにこれまでの人生でブレイクスルーの瞬間って、いつでしたか?

麻 昔から結婚して子供は持ちたいとは思っていましたが、いかんせんキャリアのほうが大事だと思っていました。親からは「一生結婚しなそう」と思われていたくらい。それで、妊娠した時は「ああ、キャリア終わったわ…」ってずっと言っていましたね。周りで出産していい感じになった人がいなかったですから。まぁ、比較的若い年齢で出産しましたが、生活がかなり変わりましたね。それを機に今のブログも始めましたし。

― 今は、ポジティブに捉えていますか?

麻 そうですね。かなりポジティブです。その時はどうなることやらと思っていましたが。

達 逆にしていなかったら、まだ最初の会社にいたかもしれないね。

麻 独立もしていないかも。

― ちなみに今の夫婦の役割に満足していますか?

麻 お互い仕事しているから、育児と家事は半分ずつにしようね、と話しています。

― お互いがそれを理解し合っているのはすごいことですね。

麻 夫は育児休職も取ってくれていましたし、料理も作ってくれますし、片付けも夫の方が上手です。どこに何があるかも私より分かっています。

― そういった役割の摺り合わせは、よく話し合ったのですか?

麻 意識的に話をしよう、というわけじゃないですけど、休日にカフェでよく話しました。考え方の話というか。

― 喧嘩はしますか?

達 結構頻繁に。

麻 よく怒られます。

達 家族にとって何がリスクかを考えながら働いているので、認識を揃える場合はしようがないですよね。

麻 価値観が一緒だと、やっぱりその日の行動が目的にそったものになりやすいというか。その目的を考えた時に、今やるのはこれだよね、みたいな。

― 2人とも理系ですか?

麻 いえ。

達 妻は文系で、僕は理系です。

麻 理数系に洗脳されています。

― ご主人がエンジニアで良かったという点はありますか?

麻 それはかなりありますよ! ブログの改修もやってくれますし。ブログがスムーズにできるのも、彼のおかげです。ちょっとしたわからないことでもすぐに解決できるので、本当に今やっていけているのは、エンジニアの夫のおかげだと思います。

― 最後にお二人に今後の夢を教えていただきたいです。紙に書いてもらってもいいですか?

達 僕は「家族でリモートワークしながら世界一周」です。

麻 ずっと言っているよね。私は「女性が働きやすい社会をつくる」です。

― それぞれ、お二人らしい素敵な夢ですね。ありがとうございました。

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渡邊 麻奈美

1988年大阪生まれ。大手電機メーカー退職後、プロブロガーとして、このブログやメディアを作って生計を立てている。現在運営・管理する「ままはっく」というブログ名の由来は、「ママをライフハックする」、つまり、ママであることを楽しみ、人生のクオリティを上げることを目標にして名付けた。
ままはっく:http://mama-hack.com/


渡邊 達明

1988年仙台生まれ。妻と同じく大手電機メーカーに勤めていたが、「つくる人を増やす」というカヤックの経営理念に共感し転職。現在、技術部と人事部をかけもつ。


PHOTO BY SHUNSUKE MIZUKAMI
TEXT & EDITING BY SHUNYA HORII