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Life Shift

2016.10.18

東大からSXSWを目指す、7チームの若きイノベーターたち

米・テキサス州で毎年3月に開催されているクリエイティブの祭典SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。ここ数年、日本でも認知が広がり、いまやスタートアップだけでなく大企業もブースを構える。そんな流れに乗るかのように東京大学の在学生、研究生、卒業生を中心としたチームを対象に、SWSXへの出展をサポートするプログラム「Todai to Texas」が2013年に立ち上がった。今年もDemo Day(発表)が行われるということで、一部関係者のみが招待されたクローズドイベントのなか、Life Shiftは特別に取材許可を得たのでその模様をお伝えする。

実践さながらのプレゼン

9月某日、東京大学本郷キャンパス。休日で照明が落とされた暗い廊下で英語でのスピーチを繰り返す学生がいた。遠方にいるであろう仲間とSkypeミーティングをしている学生もいる。彼らは間もなく始まる「Todai to Texas (TTT)」の発表者で、ピリピリとした緊張感があたりを包んでいる。TTTは東京大学産学協創推進本部が主催し、SXSW参加経験者が主体となって運営されているプログラムで、今回のプレゼンテーションで上位2位までに入ることができれば、SXSW 2017 Trade Show で出展スペースを与えられるほか、開発メンバー3名分の渡航費、滞在費を得ることができる。今年は、夏と秋の2回開催され、計4チームが権利を獲得することになり、SXSWを目指す開発者にとってはまたとないチャンスだ。

応募資格は現役東大生または卒業生がコアメンバーに含まれているチームであり、法人個人は問わない。事前審査を突破し、この日発表を行ったのは7チーム。英語による4分間のピッチセッションと、ブースでの質疑応答を行う40分間のデモセッションでプロダクトやアイデアの質を競う。

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まずは、わずか4分という短いピッチ時間ながらも、コンセプトをはじめ、参入マーケットの分析、開発計画などイラストや動画を駆使した熱いプレゼンが繰り広げられた。しかし、デモセッションに移ると少し様子が変わる。デモセッションでは、4名の審査員だけではなく、当日集まった40名を超えるオーディエンスがそれぞれ任意のブースを回る。メンバーは協力して次から次へとくる来訪者に対して適宜対応しなければならず、流れに乗れないと人の列がすぐに伸びてしまう。まさに、SXSWでの出展を想定した、チームプレイが試される実践的なセッションになっていた。

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SXSWを軸とした評価基準

デモセッションも終わり、舞台は審査発表の場へと移る。4名の審査員はクオリティー、ポテンシャル、チームワーク、SXSWで盛り上がるアイデア、プロダクトかどうかの4つの軸で審査を行う。結果をお伝えするまえに、それぞれのチームを審査員のコメントともに紹介していく。


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「RINGO」
最初に発表した「RINGO」は東京大学大学院の博士課程に通う中国からの留学生Tingting Lian氏とZhang Xinlei氏が開発を進めるプロダクトである。指に装着するリング型のデバイスで、最新の文字解析技術により言語翻訳の一役を担う。実用化できれば言語の壁がひとつ取り払われることが期待される。審査員からはテーマのインパクト、ポテンシャルが有望視され、また応用範囲がクリアに伝わるプレゼンテーションが高く評価された。


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「Cajon Playing Robot」
人間が奏でるアコースティックギターに合わせて、カホンと呼ばれる箱形の打楽器に装着されたデバイスが自動的にリズムを刻むプロダクト。リズムや音の強弱は自在に変化可能。現在はあらかじめプログラムされたリズムを演奏するほかないが、ゆくゆくは全自動で伴奏できるようにしたいと開発者は語る。審査委員からは、「SXSWに出たら盛り上がるであろう」と肯定的なコメントを得る一方で「開発計画が遅いと感じた。計画を繰り上げて製品レベルに近づいたところで再度見てみたい」との声も聞かれた。


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「STACHA」
吃音症患者の疑似体験ができる「STACHA」。吃音症は単語内の音が連発されたり、最初の音が発せなかったりとする疾病または障害であり、世界人口の1%もの人が悩みを抱えているという。吃音症の原因は解明されていないが、症状が出たときに首にある内喉頭筋が収縮するというデータがある。「STACHA」はこれに着目。内喉頭筋を微弱の電流で刺激するパッドを開発し、吃音症の疑似体験できる装置をつくりあげた。実際に体験してみると喉が締め付けられる感覚で、言葉を発するのに苦しさを覚えた。審査員からは、ストーリーをしっかりつくっていけば、予想を超える大きな反響が期待できるとの評価を得た。


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「The cell music Gear」
東京大学とセンサーカンパニーのタッチエンス株式会社がロボット用に開発したスポンジ状の柔らかい触覚センサーを使った新感覚のシンセサイザー。平面の操作に加えて、「指でなぞる、押す、叩く、手の平で全面を押す」といった、3次元の圧力情報を用い、これまでの電子楽器とは違い、表面を覆う柔らかい素材が心地よく温かみを与えてくれる。すでに製品化されていることから「プロダクトとしてのクオリティーは高く、SXSWとの親和性も高いし、話題になるのでは」と審査員は賞賛を送る。ただし、「飛び抜けた存在になるにはもう少しエッセンスがあったほうがいいかもしれない」とコメント。


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「DENDAMA」
「DENDAMA」は、日本の伝統玩具、けん玉をモチーフにしたもので、オンライン上で対戦できるアミューズメント・プロダクトである。審査員からはプロトタイプのクオリティーだけでなく、審査項目の平均点全てが高く評価された。一方で、審査員からは「大手メーカーが毎年数多くの新製品を出している中で、ヒットするのは一握り。けん玉一本でどこまで勝負できるかが見どころ」というが声も聞かれた。


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「Fasiri」
「Fasiri」はたとえば「今日富士山の近くに泊まりたいんだけどいいホテルある?」とSlackに投げかた質問を人工知能が解析し、最適な他のbotを推薦するbotアプリケーション。審査員からは「一番ホットな分野でありビジネスインパクトも大きい。SXSWで発表するよりも、早く製品化してビジネス的な動きを一刻も早く進めた方がよいのでは」とアドバイスを受けていた。


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「+move」
自動車の自動運転から発想を得たという「+move」は、洋服用のハンガーにセンサーとモーターが組み込まれ、ハンガーに手をかざすとハンガーが自動的に動き出す。ハンガー同士も常に一定の距離を保ち、まるで生き物のような動きをする。開発した中山桃歌氏(東京大学大学院修士2年)は、「まだまだクオリティーを上げないと」と語る。審査員からは発想はおもしろいと評され、「クラウドファンディングなどで資金を集め、製品化してどこかで使ってもらう方が良いのでは」との意見が寄せられていた。

SXSW行きのチケットを手にしたのは

審査の結果、リング型ポインティングデバイスの「RINGO」(1位)と、吃音体験装置「STACHA」(2位)が見事入賞を果たした。どれも完成度が高く、苦渋の決断だったと語る審査員だったが、社会に大きなインパクトを与えられる可能性を秘めているか、が決め手となったようだ。

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全チームに審査員がそれぞれにコメントを残すなかで “SXSWNESS”という単語がよく聞かれた。これはプロダクトの完成度もさることながら「SXSWの場でムーブメントを作ることができる製品なのか」という視点である。モノとしての出来のよさや、コンセプトが練られたものでも、SXSWに馴染まない場合は、違う場でのアプローチもあるのではないかと、入選を逃したチームにエールを送った。

次回のTTTは秋にも開催され、入賞者たちは2017年の3月を目指してさらにブラッシュアップを重ねていくことになる。TTTから世界の常識を変えるプロダクトが開発される日を信じて、来年のSXSWにも注目していきたい。


TEXT BY TOSHIHARU TODA
EDITING BY KEISUKE TAJIRI