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Life Shift

2016.09.21

飲食店なのに18禁!? 未来食堂の新業態「サロン18禁」潜入レポート!

東京・神保町の一角のビルにある小さな定食屋「未来食堂」。日本IBM、クックパット出身の女性エンジニアがオープンさせたお店で、従来の飲食店の型にはまらない独自の運営スタイルで話題を集めた。そんななか、未来食堂が定食屋として異色の試みを始めたという。その名も「サロン18禁」。聞くからに怪しげなネーミングであるが、飲食店と18禁にいったいどんな関係があるのだろうか。そして中で何が行われているというのか。
どうやら月に一度、会員だけが入ることを許される会合が開かれているというので、その実態を探るべく、潜入を試みた。

18歳“未満”のためのサロン

未来食堂といえば、最大限効率化された食事提供システムがある。昼のメニューは1種類のみで、席に座ると10秒で目の前にお膳が供される。それもメインに汁物に小鉢が数種類に、一口ほどのデザートと満足度の高い食事をいただける。通常の飲食店では昼は2回転ほどだと言われるだが、未来食堂ではその素早い提供で5回転することもあるんだとか。ほかにも、壁にかかれた食材から自分好みの小鉢をつくってくれる「あつらえ」システムや、皿洗いなど50分働くと一食タダでご飯を食べられる「まかない」システムがあったりと、ほかでは見られないユニークな仕掛けを行っている。

そうした試みは飲食店としては珍しいものの、それは来客数を増やすための施策と考えれば合点がいく。ところが「サロン18禁」と聞くと、目的が何なのか皆目検討がつかない。サロンといえば人が集う社交場であり、回転率とは縁遠い関係。もとは定食屋であるからして、高級なお酒を提供するような場所でもないだろう。

未来食堂のウェブサイトにある「サロン18禁」をのぞくと以下のように記されている。


『サロン18禁』にアクセスいただきありがとうございます。
当店は18歳未満のための会員制サロンです。

一期一会の出会いと語らい。
あるいは、未知な書物との出会い。
あるいは、プライベートな書斎。

既存の道徳倫理/固定観念/常識…全てを裏返した聖域。

どうぞ一時のあいだ日々の喧騒を離れ、上質な時間をお過ごしください。
あざやかに世界を塗り替える快楽を、心ゆくまで楽しみましょう。


出会いと語らい、聖域、快楽――。一体何が行われているというのか。そして驚くべきは「サロン18禁」は「18歳“以下”お断り」ではなく「18歳“以上”お断り」ということだ。

18歳未満のためのサロンの場。これまでユニークな取り組みを行ってきた未来食堂なだけに、どのようなものか一層興味深い。18歳をゆうに超えた筆者であるが、どうにか内部に入り込むことはできないかと、ウェブサイトを細かくチェックしていく。すると18歳以上でも正会員の紹介があれば入店可という文言が。とはいえ、身近に18歳未満の知り合いはいないので、「サロン18禁」が開かれる日にお店付近に張り込み、サロンを訪れる会員に接触して紹介の交渉をすることにした。


7月17日(日)16時

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お店の前に到着すると、ドアは閉ざされ外から中の様子をうかがうことはできない。ロールスクリーンの隙間からのぞくも真っ暗。果たして営業してるのだろうか。ドアに耳を近づけてみると隙間からかすかに話し声が聞こえてきた。どうやら人はいるようだ。

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ドアをよく見ると小さく電話番号と「ノックおねがいします」と書かれたテープが貼ってある。試しにノックしても反応がなかったので電話をかけてみることに。

「会員ですか? そうでない場合は入れませんので、会員様の紹介をもらってください」
とあっけなく門前払いをくらってしまった。やはり会員の紹介が必要のようだ。やむを得ず会員がやって来るまで待機することに。

待つこと30分、1時間、2時間……。誰もこない。18時の閉店時間が近づき、企画倒れかと諦めかけていたところ、お店のドアが開き1人の男性が出てきた。話かけてみるとどうやら会員のようで、紹介してもらえないか早速交渉してみる。


「残念ながらご紹介することはできません」

ここでもあっさり断られる。しかし彼は続いてこう話した。


「僕は今回が初回で、副会員の紹介は次回からできるんです。次回以降でよかったら僕から紹介しますよ」

ということで今回は残念ながら入ることは出来なかったが、彼の言葉を信じて来月また訪れることにした。



8月7日(日)14時

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2週間後の週末。この日も未来食堂改め「サロン18禁」へと訪れた。果たして前回約束した彼は来てくれるのか、不安を抱きながらも建物の外でしばらく待っていると、例の彼があらわれた。

「いらっしゃったんですね。では紹介しますので、一緒にいきましょう」と(おそらく)一回り以上年下の彼に導かれ、お店へと向かう。店構えは先月のときとほとんど何も変わらない状態。彼がドアをノックすると出てきたのは未来食堂の運営者であり、サロンマスターでもある小林せかい氏。

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「お連れさまは紹介ですか? であれば会員登録にあたって規約を説明しますね」


ひと通りの説明を聞いて、入会費を支払うと副会員証が手渡された。これで晴れて正面から入ることができるようになった。いざ入店。(店内撮影はNG)

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店内は昼時とは違い、小さい明かりがところどころ灯っているだけでかなり暗い。ゆるやかなBGMと相まって大人が通うバーとしても申し分ない雰囲気だ。ここでどんな“社交”が繰り広げられるのだろうか。店内にいたのは。サロンマスターの小林氏とお客さんと思われる女性がひとり。

まず席に座ると彼は、慣れた様子で「黒に赤で」とドリンクをオーダーした。黒に赤…? サロンマスターから渡されたメニューには黒、白、茶、クリア…と10種類ほどの色名が書いてある。それぞれ、コーヒー、牛乳、麦茶、ミネラルウォーターに対応しているようだ。ちなみに「黒に赤」はコーヒーのストロベリーリキュール割り。もちろんノンアルコールである。筆者は試しに白の青(ミネラルウォーターのブルーキュラソー割り)をオーダー。

土肥武史(17歳)の場合

紹介してくれた彼の名前は土肥武史。都内の進学校に通う、17歳の高校3年生だという。なぜ彼がサロン18禁にやってきたのか訪ねた。

−どうやってここを知ったの?

「ここは話には聞いたことがあったんですが、なかなか行く機会がありませんでした。前回僕の所属するサークルの先輩に誘ってもらって来ました。まだ2回目ですが、居心地が良くて今回も来ちゃいました」

−サークルではどんなことを?

「高校生と大学生からなる『理系+』というサークルで、科学などの理系分野の楽しさを伝える活動をしています。研究発表会とかイベントとかやっていますね」

—今3年生ということだけど志望大学は理系の分野に?

「そうですね。筑波大学で材料工学の研究をしたいと考えています。もともと金属に興味があって自分でアクセサリーをつくったり、ドラムが趣味なのでシンバルを加工したりしているんですが、理想とするパフォーマンスが出ないんです。だったら金属も好きだし、軽くて丈夫で新しい金属素材をつくってみたいなと。ひとつ画期的な素材が作り出せれば、スマホや車でも、なんでも応用できますからね」


伊東愛翔(18歳)の場合

土肥氏の隣に座っていた女性の名前は伊東愛翔(あいか)。彼にここを紹介した人物で、彼女は4月の初回から毎月遊びに来ているという。

—今日は何の目的で?

「今日は勉強をしに来ました。本当は今頃模試が始まっているんですが、申し込みを忘れてしまったのでここに来ました(笑)。自分にとって素になれる環境で楽ですね」

—今はどんなの勉強を?

「線形代数の勉強をしています。この参考書は大学受験の範囲外なんですけど数学が好きなんです。ほかにも言語の勉強が趣味で、これまでに英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、韓国語を学んできました。最近はPythonですね、とうとうプログラミング言語まで手を出すようになってしまいました(笑)」


長尾義広 (16歳)の場合

彼らと話していると初の来客者が現れた。ヘッドホンを首に下げ一眼レフを小脇にかかえた彼の名前は長尾義広16歳。

—今回は初めて?

「4月をのぞいて毎回来ています。初めて来たのは初回開催の3月で、大学生の兄に教えられて存在を知りました。ウェブサイトを見た瞬間『これは怪しい、おもしろうだ』と」

—実際来てみてどう?

面白くて変な人たちが集まってくるのがいいですね。中高生っていうのは、社会が学校のなかだけになりがちで、視野が限定されている人たちが多くて。ここは固定された価値観を持たずに、多様的に物事を見ることができる人たちがやってくるのでとても楽しいです。自分の考え持ってるだけじゃなくて、主張をしっかり話せる力と行動力もあって刺激を受けます」

—学校に同じことを考えている友だちはいない?

「友だちという存在はいますが、同じように考えている人はほとんどいないと思います。友だちと遊んでいる分には楽しいんですが、学校の授業はつまらない。だから勉強以外のところに興味を持とうと思って、たまたま兄からここの存在を教えてもらって来るようになりました」

—授業のどこがつまらないの?

「グーグルで調べればわかることを延々とやってるんです。人工知能が職を奪うなんて言われるこの世の中で、僕らがやらないといけないのは人工知能や機械ができないことですよね。調べてわかる答えを学校で学ぶ意味がわかりません。そもそも今の学校のシステムがおかしいと思ってます」

—どんなところが?

「先生は仕事を抱えすぎです。生徒への授業だけじゃなくて、クラスが乱れないように生徒たちの管理もしないといけないし、親ともうまく付き合っていかないといけません。授業以外の事務作業もあって、超ハードワークですよ。もし僕が学校をつくるなら、たとえば受験サプリ(現:スタディサプリ)のように、オンライン上で一流の講師の授業を受けられるようにします。先生は3人用意して、質疑応答を担当してもらいます。そしてカウンセラーが余ってると聞いたことがあるので、生徒のケアはカウンセラーに任せます。そうすれば生徒は質の高い授業を受けられて、先生たちも過剰労働することなく、学校としても生徒たちを完璧にマネジメントができるはずです。いいと思いません? そうしたら塾もいらないですよね。これだけ世の中が変わって来たのに、教育だけ戦後から変化してないですから」

—将来のことは考えている?

「高校生のうちに起業したいと思っています。冬休みに主に社会人が集まるプログラミングテックキャンプに通っていたんですが、期間中、毎日12時間勉強していたおかげで色々とできるようになってきたので、何らかのサービスを提供したいなと。今は定期的に開催しているスタートアップウィークエンドに参加していて、この間のお題はアニメでした。僕もアニメは好きなんですが、実はアニメ好き同士でも好みが千差万別で話が合わなかったりします。なのでオタク間のその違いを埋めるためのマッチングサービスを提案したところ準優勝して、今はその企画を進めていたりします」

—就職は考えていない?

「今のところ大学に進学するつもりはないんですが、もし就職するんだったらリクルートがいいかな。挑戦できる環境が好き。あとはDMM.comもいいですね、なにがやばいって、アダルトで安定した収入があるから好きなことがやれてますよね。車が好きで写真をとったりレース観戦したりするんですが、仕事にはしたくないかな。大企業だと自分のやりたいことができなさそうですし。新しいことをやろうとしたときに、誰も見ていないところを気付けるかと言われたりしますが、気付くことは誰でも出来ると思ってます。気づいて行動できるかが分かれ目じゃないかな。1人がアクション起こして、賛同する人が集まって全体が変わっていく。そんな風になれたらなと」

学校以外の社会としての「サロン18禁」

3人の話を聞いたところでサロンマスターから閉店の知らせを受けて潜入取材は終了した。今回はひとりひとりに話を聞いたので、普段彼らだけのなかでどんなコミュニケーションがなされているかはわからなかったものの、高校生とは思えないほど、それぞれ自分の意思しっかり持ち、未来を考えていたことに驚かされた。話を聞いている横で、プリクラの映りがかわいいという話や、このアプリがおもしろいよ、といった他愛のない話もあって学校の放課後のような存在でもあるのだろう。同時に大人とも正面から接することのできる場所で、高い志を持つ彼らにとって刺激的な場所であるにちがいない。

実はサロンマスターの小林氏が「サロン18禁」を立ち上げた理由もそこにあるという。当時学生だった小林氏はまわりと馴染めず学校に自分の居場所がなかったと悩んでいた。そのとき学校の外に飛び出してバーに足を踏み入れたことで以降の世界観が変わった。そして飲食店として場を作ることができた今、当時の小林氏と同じような思いを抱く生徒や、学校以外の社会に足を踏み入れたい生徒に開放してあげたいと考えるようになったという。
ここを訪れる生徒たちにとって「サロン18禁」は、誰もが自分を受け入れてくれる家のような存在であり、知らない世界を学べる学校のような存在なのかもしれない。

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未来食堂

PHOTO & TEXT & EDITING BY KEISUKE TAJIRI