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Life Shift

2016.09.08

家庭菜園はひとつ先の未来へ。スマートフォンで育てるリアルな野菜「foop」

光と水だけで野菜や果物を育成させる水耕栽培。天候や季節に左右されず、通年通して室内で栽培できることから、大手電機メーカーやハウスメーカーなど異業種からも多く参入している。これまでは規模が大きく、初期投資の高さから個人で運用することは困難であったが、技術開発が進み一般家庭でも楽しめる水耕栽培器が誕生し、にわかに注目を集めている。そのひとつが、世界中に拠点をおくデルタ電子株式会社が開発した「foop」である。スマートフォンを介してコミュニケーションしながら水耕栽培を楽しめるというもので、38,800円(先行発売価格)という金額ながらも、予約開始からわずか数日で完売したという。なぜここまでの人気になったのか、そもそも野菜としての味はどうなのか、食育・料理研究家の中原麻衣子氏に同行いただき、デルタ電子IoT事業開発部のジェネラルマネージャー、YH HSIEH(通称:マーベリック)氏に話をうかがった。

まずは試食。果たして味は……。

中原麻衣子(以下:中原):本日はよろしくお願いします。近頃、いくつかの企業から水耕栽培器が発売されているのは知っていまして、ほかの製品と何か違うのか、実のところ味はどうなのか試食させていただければと思います。

マーベリック:デルタ電子IoT事業開発部のジェネラルマネージャーのマーベリックです。ちょうど食べごろの状態に育てておきましたので、そのままちぎって召し上がってみてください。

中原:水耕栽培は洗わずに食べられるところがいいですよね。ところで、植物が育つのには太陽光・水・土が必要だと学校の授業で習いましたが、水耕栽培器で使っているのはLEDの光と水だけですよね。これで味や安全に問題なく、ちゃんと育つの?と疑問に思う方も多いようですが、実際のところどうなのでしょうか。

マーベリック:まず太陽光の代わりに使用しているLEDですが、従来の水耕栽培で使われるものと同様に、太陽光のもつ特定の波長の光を出していまして、それが太陽光と同じ役割を果たします。次に土の代わりとなる水ですが、こちらにも野菜の成長に必要な窒素・リン・カリウムなどの多量要素と呼ばれる栄養素が含まれています。

中原:どの成分も本来土が持っているものと同じなので安全性は問題ないということですね。

マーベリック:そうですね。しかも、農薬も一切使っていません。土の汚れや、虫がつくこともないので見た目にも美しく、そのまま食べられることも水耕栽培のメリットですね。

中原:洗わなくていいとなると料理の準備の手間も省けますね。家庭菜園だとベランダまで採取しにいかなければなりませんが、キッチンの脇にあると手軽でいいですね。では早速いただきたいと思います。

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中原:採れたてなだけあって、シャキシャキして新鮮ですね。味もスーパーで売られているものと遜色ないと言えますね。むしろ手触りは市販のものよりやわらかいです。それはなぜでしょうか。

マーベリック:屋外で野菜を育てると風雨にさらされます。すると野菜は身を守るために繊維が固くなって食感に影響します。foop内は野菜にとって常に快適な環境なので、余計なストレスを与えずに済み、このようなやわらかい手触りと食感になるんです。

中原:種を植えてからどのくらいで食べごろになるのでしょうか。

マーベリック:野菜の種類にもよりますが、およそ3週間程度ですね。天候や季節に関係なくいつでも手軽に育てることができます。

過去を切り捨て、必要とされるものだけをつくる

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中原:他社の製品も見たことがありますが、大きく違うのが円筒型のデザインですね。四角く角張っている物が多いなかひときわ目を引きます。両サイドが木材でできているので、自然の温かみを感じますね。

マーベリック:デザインはとても慎重に検討していきました。今回デザインは、MoMAの永久収蔵品に選定されている「カドケシ」のデザイナーである神原秀夫さんに依頼しました。ガワだけをデザインできる人はいますが、機構設計まで考えられるデザイナーは少なく、神原さんだからこそ機能とデザインを両立できたプロダクトになったと思っています。木材に関してはこだわりのひとつで、飛騨から取り寄せた天然木材を使用しています。木材を切り出してから乾燥工程などを経て完成するまで4ヶ月ほどかかります。木材がfoop本体を支える役目になるので、いかに重さに耐え、曲がらないようにするかが大変でした。よく見ると木目の色合いが変わっているところがありますよね。1枚板だと曲がってしまうので、表と裏面を交互に貼り合わせて強化しているんです。実はここの製造にものすごくコストがかかっていたりします(笑)

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中原:そのほか、他社製品との違いはどこにあるのでしょうか。

マーベリック:もっとも特徴的なのはスマートフォンとの連動です。野菜の種類をスマートフォンに入力すると、foopがその野菜に適した育成環境に自動的に調整します。温度や湿度、照度、CO2濃度などを図るセンサーを搭載しているので、栽培環境の変化を把握することができます。さらには収穫の時期や水の補給タイミングなども、foopの全面にある「表情アイコン」やスマートフォンで把握することができます。

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中原:その技術こそがデルタさんの得意とするところなのですね。ほかの製品ではそこまでサポートされていないものあり、水の分量を間違えたり、腐らせたりしまったりと最適な環境をつくれずに途中で断念する人も多いと聞きます。その点、foopは初心者でも簡単に育てられるような設計がされていると。

マーベリック:実はここに来るまでに大きな変更があり、開発に2年かかりました。もともとIoTの技術は弊社の得意分野でありさまざまな製品に展開しています。さらに研究施設用の大型水耕栽培器の開発も手がけていたので、その両者を結び付けられないか、というところからこのプロジェクトがスタートしました。

スマートフォンとの連携の構想は当初からあり、たとえばSiriのようにfoopと会話ができたり、カフェと連携してクーポンが届くような仕掛けなど、色々な機能を盛り込んでいきました。そうして我々の理想となる1台が完成しました。ですが、満を持してお客さまにプロトタイプをお見せするも、返ってきた答えは「そんな機能は必要ない」でした。

中原:それはなぜでしょうか。

マーベリック:力の入れるポイントが間違っていたのです。我々は技術者集団なので、つい高い技術力を見せることばかり考えていて、本来必要とされるところではありませんでした。そこでほぼ出来上がっていた製品を一度白紙に戻してイチから考えなおしました。

中原:最初からやり直したのですか。それまでに多くの時間とコストがかかっていると思いますが、その決断に躊躇はなかったのでしょうか。

マーベリック:たしかに2年かけて開発した物をイチから見直すのは大変ですが、人々に求められていないとわかったら切り捨てるしかありません。組織が大きくなると個人の仕事は専門化し「これだけやればいい」となるきらいがあります。でも、それではイノベーションは起こせません。潔さと決断力があって始めて「いいモノ」ができると思っていますし、そうやって我々はここまでやってきました。

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長く付き合っていくための水耕栽培器に

中原:ではそこからどのような経緯で今のかたちになったのでしょうか。

マーベリック:お客様はどんなものを欲しいと思っているのか、ものづくりカフェ「FabCafe」さんに協力いただいて、20代〜40代の女性を招いてアイデアソンを行いました。「未来の水耕栽培はどういうものか?」というお題で。そこで出たひとつの答えは、いかに人に親しみ、直感でいいと感じられるデザインであるか、でした。木材を使うアイデアも彼女らから出てきたものです。IoTでこんなことできるよと言っても多くの女性には響きません。むしろ「よくわからないし自分には関係ないモノかな」と敬遠される要素かもしれません。技術あくまで裏側に隠れて、普段の生活や使い方をサポートすべき存在であるということに気付かされました。

中原:そうして今の製品になったのですね。過去に2回、受注生産の予約をされましたが反応はいかがでしたでしょうか。

マーベリック:これまでに4月に100台、5月に50台をインターネット上で予約販売したところ、おかげさまで即日〜数日で完売しました。

中原:先行発売価格とはいえ、38,800円は決して安くない値段ですよね。にも関わらずそこまで人気を集めた理由はどこにあるのでしょうか。

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マーベリック:食に対するお客さまの意識の変化ですよね。安全だとされながらもスーパーに並べられた野菜が、実際にどんな環境で育てられているのか細かく確かめることができません。食への安全・安心が求められているなかで、自分で育てることに関心が高まっているところにあると思います。また、家庭菜園も人気ではありますが、土で汚れたり、育てるためのベランダがなかったりと、まだ一部の方のためのものであります。そういった点でfoopは手軽に始められるので、野菜を育てるハードルを大きく下げることができます、実際の食事のサポートとして使うこともできますし、お子さんのいる家庭であれば、野菜が育っていくことの楽しみや喜びを感じて欲しいですね。

中原:都内に住む子どもたちは、どのように野菜が育てられているのか知らなかったりします。そういったなかで、野菜が育つということ、食べ物を頂くということを実体験として感じられる食育の視点でも役立ちますね。

マーベリック:加えて、デザインとIoTとプロダクトがうまく融合したところもうまくいったかなと思っています。野菜を育てる無機質な”装置”ではなく、室内の温度が高ければ”暑いよ”と絵文字で表示してくれたり、食べごろを教えてくれたりと、コミュニケーションツールとして、長い間付き合うことのできるパートナーとして選んでいただいたように思います。

中原:これまで予約できなかったという人もいると思いますが、次の予約受付はいつごろになるのでしょうか。

マーベリック:おかげさまで即完売という状況になりましたが、いまのところ次の予約は未定です。最初の150人の方にまずお届けして、foopの魅力を体験してほしい。そして多くのフィードバックを得てさらなるバージョンアップを図ってから次にいこうと思っています。体力の大企業なので、焦る必要ありません、常に最高のものを最高のタイミングでお客さまにお届けできればと思っています。これからを楽しみにしていてください。


YH HSIEH (通称:マーベリック)

デルタ電子株式会社 IoT事業開発部 ジェネラルマネージャー
2001年に台湾エネルギー大手であるデルタ電子株式会社に入社。ロサンゼルスと東京にてのビデオディスプレイ事業グループにてビジネス戦略立案、包括グローバル販売計画立案・推進。2008年からはソーラーインバーターのブランドビジネスを担当し、ドイツ駐在。グローバル市場拡大のためアジア地区とヨーロッパ地区を連携することでより合理的な管理体制を築く。2012年から日本に場所を移し、パワ-システムビジネスグループにて東アジア地域ビジネスヘッドを経た後、2014年から現在に至るまでIoT事業開発部にてジェネラルマネージャーを務める。


中原麻衣子

食育・料理研究家。Heartful Kitchen代表。鮎の瀬交流館こめ屋TokyoOffice代表。約1,000人の子どもたちの食の悩みと向き合う、苦手野菜克服手伝い人。日本の四季の実りを通じて、歳時・食文化を楽しむオリジナルの「子供が五感で創る料理教室」が注目を浴びメディア出演多数。約2年半前から熊本県山都町の棚田保全活動も精力的に行う。農林水産省 農業女子プロジェクトサポーターズ。プライベートでは、1男1女の母。
食育・料理研究家中原麻衣子のハートフルライフ


TEXT BY TOSHIHARU TODA
PHOYO BY Shuntaro
EDITING BY KEISUKE TAJIRI