シェアする

保存する

Life Shift

2016.07.04

物流業界の深刻な人手不足「ロボット倉庫」を皮切りに、ホームロジスティクスは日本の物流の救世主になれるのか?

楽天のドローン配送「そら楽」やAmazonの即日配送といった先進的なニュースが話題に挙がる一方で、低賃金や過酷な労働環境、そこからの人手不足・車両不足がますます深刻化し、実は厳しい経営環境にある物流業界。そんな物流業界をテクノロジーの力で大きく変えようとしているのが、家具・インテリア製造小売りの国内最大手である「ニトリ」の物流を担う、ホームロジスティクスの松浦 学社長だ。ロボット倉庫『AutoStore(オートストア)』を日本で初めて自社の物流拠点に導入するなど、働く人を思いやる労働環境に整えていくことで、日本の物流を変えようとしている。そんな彼が志す未来の物流とは…?

つい3カ月前まで100%人海戦術だった仕事をほぼ機械化

川崎の倉庫街にある、ニトリの通販商品に特化した発送センター。ジャングルジムのように格子状に組まれたアルミフレームの最上部、物流倉庫の天井付近で、60センチ四方の真っ赤なロボットが60台、ウィーン、ウィーンと控えめな走行音を立てながら素早く行き交う。アルミフレーム内にすき間なく積まれた、縦12段の商品入りのビン(専用コンテナ)約3万個の中から、この真っ赤なロボットが自動で注文商品の入っているビンを探し出す。そして、触手を伸ばし該当するビンの上に積まれているビンを一旦どかし、該当のビンを引き上げ、作業員の手元まで吊り下げる。この間わずか十数秒。作業員はポートと呼ばれる作業場を一歩も動くことなく、商品の発送準備ができる。

ls_main01

「『AutoStore』導入以前のピッキング作業(注文の品を在庫棚の中から探し出して集める作業)は100%人海戦術でした。約2,300坪もある広いフロアに、在庫商品の置かれた棚がズラーッと並んでいて、作業員は棚の間の狭い通路を歩き回ってピッキング作業をしていました。転職後、現職を任された私はすぐに配送や倉庫でのピッキング作業に従事しました。物流業界全体でみると作業環境は悪くない方と聞いていたのですが、それでも楽々出来るとは言えない仕事でしたね。1日平均8,000個もの注文に約100~200人の作業員がフロア内を歩き回って対応する。物流業界の人手不足、もっといえば物流業界衰退の原因を見た気がしました。それから間もなく、物流会社では珍しいといわれる技術開発室を発足。テクノロジーで働く人の労働環境を整え、機械化・IT化することで働く人を思いやり、人手不足解消を目指す。このことを業界変革の一歩目として自らに課しました」

ls_main02

日本とアメリカの相違点。日本とヨーロッパの類似点。

物流倉庫の機械化・IT化にはいくつもの選択肢があっただろう。たとえば米Amazonが導入して話題となったキバ・ロボット。ロボット掃除機「ルンバ」を大きくしたような床を這うロボットが庫内を高速で移動。目当ての商品が入っている棚を底から持ち上げて、棚ごと作業員のもとまで運ぶ。作業員が歩き回らずに済むという点ではキバ・ロボットも条件をクリアしているはずだが、なぜ『AutoStore』を選んだのか。

「Amazonのキバ・ロボットは棚ごと運ぶ機械なので、大きな棚が行き交う“広さ”を要します。国土が広く、土地が破格の値段で、広大な物流倉庫を持っているアメリカだから使える機械なんです。用地が狭く、地価が高い日本では、在庫数を確保するために作業員同士がすれ違う通路の確保さえもままなりません。その点、通路を確保する必要なく、庫内を立体的に余すところなく使える『AutoStore』は日本の物流倉庫事情にぴったりです。天井の高さギリギリまで、積み木のようにすき間なくビン(専用コンテナ)を積み上げられる上、レイアウトも自在。実際、『AutoStore』にしてから作業面積は今までの約半分になりました。余ったスペースで保管する品目数や在庫数を増やすこともできるし、梱包などの作業スペースに使用することもできます。また、全体の稼働を止めることなく、ビンを増やしたり崩したり、フレキシブルな機能の拡大・縮小も可能。世界中の様々な自動倉庫を見ましたが、基本的に一度建てると設備や機能の拡大・縮小は難しく、搬送ロボットが通る通路を確保する必要があります。大型家具を保管する他の物流拠点では大活躍する自動倉庫も、機能の拡大・縮小が難しい点、在庫効率が劣る点において、比較的小さな商品を取り扱う場合には合わないと私は感じてしまいました」

ノルウェー製『AutoStore』導入の一番の理由は、日本とヨーロッパの類似点にあると松浦氏は続ける。

「ヨーロッパは小さな国が多くそもそも労働人口が少ないんです。小さな島国で少子高齢化が進んでいる日本と似ています。そんなヨーロッパが日本よりも圧倒的に進んでいるのが、働く人への思いやりを設備で具現化している点です。『AutoStore』で作業するとよくわかります。作業員は作業台につくと、床から物を拾い上げたり、重い物を肩より上へ持ちあげたりといった、体に無理な動作を一切することなく、スムーズに仕事できる。働くのは機械ではなく、あくまでも人であるという点に思いを馳せて、当たり前に働く人に優しい設計がされている。ヨーロッパで開発した機械を導入した一番の理由はそこです」

女性やお年寄りでも無理なく働ける、働く人にやさしい労働環境。『AutoStore』導入後、ピッキングの作業効率は3.75倍にアップしたと言う。また、宅配用ダンボールサイズに合わない商品を梱包する際に、その商品にジャストサイズの段ボールを自動で作る『ボックスオンデマンド』を日本で初めて採用。曜日やシーズンによる商品需要の波が激しく、必要となる作業員が100人単位で増減していたこれまでと比べ、機械導入後は、必要人員数の増減に最も影響していたピッキング業務を機械化することで、人が携わる業務部分を平準化することができ、「今日は仕事があるけど、明日は仕事がない」といった不安定な雇用状況までも一掃。働く人に長期的・安定的な職場を用意した。

ls_main03

「日本の物流業界は特に、働く人に優しくないといわれています。だから人手不足が起こる。今後、少子高齢化が進んで日本の総労働人口は減りますが、私は“日本人の総労働時間も減る”と確信しています。人々はがむしゃらに働くことを止め、年齢や性別を問わずプライベートな時間を大切にするようになる。男女ともに子育てに参画する。欧米に倣ったライフスタイルへのシフトです。私たちもそうですが物流業界全体が、この時代の流れに逆流しないようにしないと、働く業界として今後ますます選んでもらえなくなる。もっと機械化・IT化を進めて人の働く環境を整えなければならないんです」

私たちは365日いつでもサンタクロース

作業員の労働環境の整備を進める松浦社長が、次に取り掛かろうとしているのが、物流をコミュニケーションビジネスにすること。今まで話題にしてきた物流倉庫の話ではなく、今度は配送の話だ。

「弊社ではニトリの家具の配送・組立サービスを請け負っています。家具を届けるだけでなく、お客様の家に上がり込んで作業することを許されている稀な存在です。まるで“サンタクロース”のようだと私は思います。サンタクロースは“クリスマスイブの夜”という指定日に、家に上がることを許されているどころか待ち望まれている。コミュニケーションの一番のネックである警戒心がない状態で、家に上がれる存在なんですね。配送を依頼されれば、そんなサンタクロースに、私たちは365日いつでもなることができるのです。しかし、今まではこのメリットを全くといっていいほど活かせていませんでした。でもこれからは違います。例えば、配送員がインテリアコーディネーターの資格を持っているとします。すると、家具の組立・設置のために実際にお部屋に上げていただいた際に、お客様の満足の瞬間に立ち会えるだけでなく、望まれればお部屋がもっと素敵になるサポートやお困りごとへの対処も行えますよね。そうやって『物流』を『コミュニケーションビジネス』に変えていきたいんです。右から左にモノを運ぶだけだったビジネスに、まったく新しい付加価値をプラスして収益を上げ、物流で働くすべての人たちに労働環境の最適化として還元しながら市場規模を拡大していきたい。物流のコスト構造は、極端に言ってしまえば原油料と人件費のみ。叩きやすい人件費を叩かれ続けた結果として今の低賃金・長時間労働があります。あるものを減らすのではなく、ないものを増やす方へとシフトしていかなければ立ち行かないところまで来ています。でないと、その余波は、私たち物流業者や荷主である小売業者ばかりではなく消費者にまで及ぶのではないでしょうか」

ls_main04

小売業界における変革のヒントを物流業界へ

自社の展望はわかった。では、物流業界全体はどのようになっていくと松浦氏は考えているのか。

「私が約25年前、小売業界で働き始めた頃と今の物流業界の状況は非常によく似ています。当時の小売りは、八百屋さん、本屋さん、パン屋さんなど屋号を持つ個人事業主に分かれ、仕入れが高く儲けが少ない。それゆえ人手不足で後継者もいませんでした。だからお年寄りが店番をしている。しかし、そんな状態だった個人商店が今はどうでしょう。屋号を持っていた個人事業主はコンビニエンスストアに加盟して生き残り、人手を増やし、後継者を得ています。当時、衰退の方向に向かっていた個人商店が変わったように、物流業界は今が変革のチャンス。日本に6万社あるといわれている物流会社ですが、全体の売上の7、8割は上位10社で占めています。つまり残りの5万9990社は中小零細企業なんです。弊社も残りに含まれる一社ですが、グループ会社にニトリという大口の荷主がいます。そうでないとロボット倉庫を持つというような大きな設備投資はできませんでした。また、単なる物流からコミュニケーションビジネスに転換していくといった新しい挑戦もできないと思います。業界上位10社はもちろん、私たちは特に率先して倉庫や配送などの機械化・IT化を進めて同業他社がそれら設備の一部などを低コストで活用できるようにしたり、容易に無理なく参入できるようにする。そういった小売業界の変革のヒントやアイディアを物流業界も積極的に取り入れ、構造自体を変えていくことが急務だと思っています」


松浦 学

ニトリグループ 株式会社ホームロジスティクス代表取締役社長。1989年 某コンビニチェーン入社。執行役員、数々のPJリーダー、支社長、マーケティングを始めとする様々な本部長、海外法人の社長等を経て、14年5月、ニトリホールディングス執行役員。15年5月、ホームロジスティクス社長を兼務。


TEXT BY ASUKA USAMI
PHOTO BY TORAZO YAGI