Life Shift

2016.06.20

「学びの場をディズニーランドのような楽しい場所に」ー 日本の教育を変革する、ライフイズテックの挑戦

都内にある中高生向けのプログラミング教育に特化したスクール「ライフイズテック」。プログラミングスクールと聞くと、並べられたパソコンに向かって黙々とコードを書く少年少女たち、鳴り響くのはカタカタと叩かれるキーボードの音だけ、そんなイメージがパッと思い浮かぶ。取材時にちょうど授業が行われているということで覗かせてもらうと、面を食らった。そこには想像とは全くちがった、ものすごい熱気と一体感につつまれた生徒たちの姿があったのだ。

「中高生の教育を変えたい」情熱に駆られた元物理教師と、エンターテイメントの異才

生徒たちの熱気をリードするのは、壇上に立つ講師。プロ芸人のようなトークで、生徒を子ども扱いするでもなく、大人へ話すような流暢な語り口。生徒もいわゆる「オタク」という感じでもない、快活な中高生だ。一見、今時の「リア充」な若者に見えるメンターは、全国模試の数学で何度も全国一位をとった20歳の東大生。彼のような実力ある大学生が脇を固める。プログラミングスクールはもとより、今まで目にしてきたどんな教育現場ともまったく違う、衝撃的な光景だ。

この熱狂は一体どうやって作られているのか? デジタル格差が広がり、2020年にプログラミング教育が必修化されるといわれる時流の中で、彼らは何を見据えているのか? ライフイズテック創業者の水野雄介氏、共同創業者の小森勇太氏に話を伺った。

創業者の水野氏と小森氏は元々、前職の先輩と後輩の関係。水野氏は大学院時代、塾で中高生に物理を教えていた。そこで生徒たちは野球やサッカーと同じくらいPCやスマホ、ゲームにも関心をもっていることに気づく。そのほとんどは消費者としてだけ楽しんでいるものだったが、”つくる側の人”になりたいと考える生徒も相当数いた。そういった彼らのニーズを叶えてあげたい、中高生の可能性を伸ばせる環境を作りたい、と思ったのが起業のきっかけだという。

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「教育とひとえに言っても、学科教育、キャリア教育など色々な切り口がありますよね。
エンターテイメントとして職業体験ができるキッザニアがありますが、出てきたときにこれは参考になるなと、中高生向けのIT版キッザニアを作ろうとしました。アメリカのプログラミングキャンプのモデルを参考にして、夏休みなどの長期休暇中に中高生を集め、プログラミングやゲーム開発を教えるITキャンプを事業の軸として構築したのがはじまりです」

共同創業者の小森氏はもともと「リアル脱出ゲーム」を手掛けるスクラップの案件に携わるなど、リアルなコミュニティや場を作ることに類い稀な才能があった。学校教育を変えるという強い情熱とリーダーシップを持つ水野氏と、コミュニティやエンターテイメントづくりで目指すべき道筋を着実に切り拓いていく小森氏。この二人はまるで某海賊マンガの船長と航海士のような関係だ。

テクノロジーxエンターテイメントx教育で学校教育を圧倒的に楽しく

「僕らはまず『どういう人を育てたいか』というところからカリキュラムを設計しているのですが、目指しているのは『自走型の人材』です。自走型とは、自ら考え、自ら作って走ることができる人材のことです。それを分解していくと、課題を解決する技術力と、課題を発見できるマインドが求められる。そのためには「Want=やりたいこと」を「Can=できること」へと変えていく感覚を生徒に身につけさせることが大事です。やりたいと思ったことに対して、自分で攻略法を探せるよう、メンターは答えを教えずに対話で促していきます。切磋琢磨する意味でもチームで学習することが重要なので、習熟度のバランスも考えて緻密にグループ設計をしています。また、生徒は最初に“脳内シート”を書いて、自分の頭の中の興味をお互いに見せ合い、相互理解を深めていくようにしています。授業そのものも子ども騙しでは通用しないので、現場でも使える一流を見せてあげないといけません」

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中学生が開発したアプリが世界で20万DL! 開発からアウトプットまでを一括サポート

「スクールに応募するのは親御さんからというケースもありますが、『クリスマスプレゼントもいらないから、ライフイズテックに通いたい!』と自発的に志願するお子さんも少なくありません。受験があるから仕方なく塾に通う、ではなくこんなものをつくりたいからライフイズテックに通う、そのくらい今の子どもにとってプログラミングは興味のあることだし、そういった仕掛け作りをしています。実際にこれまで生徒たちは数多くのアプリをリリースしてきました」

そのなかでも20万DLとヒットしたのが中学生の女の子が開発した「見えるプレゼンタイマー」だという。プレゼンの時間配分や進行状況が一目でわかるもので、そのデザインは中学生とは思えないほど洗練されている。ほかにも女子高生が開発した「STUGUIN(スタグイン)」がある。これは勉強サポートアプリで、勉強するときにアプリを立ち上げると同じアプリで繋がる友人に通知され、プレッシャーを与えることができるという。なるほど。現役学生ならでの発想だ。

おどろくべきは生徒発のダウンロード数上位5位までのアプリは、全て女の子が作ったものだという。機能にこだわりがちな男の子にくらべ、見た目やデザインにもこだわることも人気の理由のようだ。

「入り口、中身、出口の全てを変えないと教育は変わらないと考えています。入り口のキャンプできっかけを作って、スクールでしっかりと理解させて、アプリのリリース支援やアプリ開発コンテストをやって、しっかりとアウトプットさせる。そういうサイクルを回しながら、学びの出口を作っていくんです。社会を変えるためには、まずは親の考えを変えなければなりません。わかりやすいのはヒーローを誕生させること。テニスプレイヤーの錦織圭選手や、フィギュアスケーターの浅田真央選手のような存在、甲子園のような仕組みが生まれれば、一気にプログラム界は熱気を帯びるでしょう」

ライフイズテックは創業5年目。卒業生のなかには東京大学にAO入試で合格したケースや、卒業したメンターが有名IT企業に入社するなど、IT業界に続々と優秀な人材を送り込んでいる。

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創造的なIT教育を世界に展開していく

日本を拠点に始まったライフイズテックだが、海外展開も積極的だ。その理由はなぜなのか?

「もともと、海外からこのキャンプに来たい!という人が結構いたんです。シンガポールや、アラブ在住の子がキャンプに来てくれていました。シンガポールでもタブレットを使ったIT教育は進んでいますが、クリエイティビティ=ものをつくるためのプログラミング教育というのはほとんどないようです。IT教育というと『教育ツールがデジタル化される』という意味で捉えられやすいんですが、プログラミングでモノを作る過程で何を学ぶかというのがすごく大事。そういった理由からシンガポールへ展開を進めることにしました」

ITの先端といえばシリコンバレー。ここにも勝機があるという。

「シリコンバレーでGoogle Rise AwardというIT教育を推進している組織を選出するアワードで大賞を受賞したんですが、仕組み作り、文化作りまで取り組んでいるところは少なく、世界でも通用するサービスだと感じました。入り口から出口まで、プログラミングの文化そのものを変えようとしている。期間限定のテックキャンプは他にもたくさんあるんですが、『プログラマーってかっこいいよね!』という文化を創ろうとしているところはほとんどなくって。だったら世界でやってかなきゃいけないなと思ったんです。そしてこのモデルは世界で通じると思っています」

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「学校」でみんなが使えるノウハウを生み出したい

時代に先駆けて中高生向けプログラミングスクールを開設したライフイズテック。2020年のプログラミング義務教育化に対してはどのような取り組みを考えているのだろうか。

「いまさまざまな学校と組んで、中学校・高校のプログラミング教育を行っています。僕らはもともと教育を変革したい、学校のしくみを変えたいというモチベーションで始まった会社なので、さらに学校に協力しながら進めていけたらと。そのためにまずは僕ら自身がノウハウを作って、他の人に真似してもらえるようなものを作りたいと思っています。それが教育を変える一番の方法になる。授業のコンテンツもそうですが、空間設計なども大事。実験をしながら新しい教育をつくっていっています。実はそのベンチマークにしているのはディズニーランドなんです。「学びの場」をディズニーランドのような行きたいと思える場所にしたい。ホスピタリティはどういうものか、チーム作りはどうなっているか、アルバイトの育成の仕組みはどうか。そういった要素を参考にしながら教育づくりに活かしていきたいなと」

経済格差と地域格差をなくすためのオンライン授業サービス

「ライフイズテックのサービスは主に都心なので、遠方の人が参加できなかったり、受講料も決して安いものではないので、行きたいけど行けないという声も聞こえてきました。そういった経済・地域格差を解決するために、オンラインでプログラミングを学べる『MOZER』というサービスを今年の6月にリリースしました」

オンライン授業と聞いて、彷彿としたのは大学のオンライン講義のような、流れてくる映像を見ていくというもの。そこに勝算があるのだろうか?と思うも、MOZERの切り口はまったく違ったものだった。

「モチベーションをオンライン上でつくっていくのは難しいので、ゲームのような構成にしました。ストーリーを設定して、プログラミングをいう武器を使ってゲームを攻略していく。それがリアルにプログラミングの経験値としてたまっていく仕組みです。こういった仕組みづくりをしているところはありません。今後は多言語化してヨーロッパでも展開していく予定です。いつかライフイズテック出身のビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズのような人が出てくるといいですね」

取材を通して感化されたのは、彼らの圧倒的な「本気さ」。ディズニーランドのような楽しい学校を作りたい、という彼らの野望は全く絵空事でも何でもないことがわかった。プログラミング教育の必修化という追い風にのり、彼らの展望がどこまで広がっていくのか。世界の教育や格差をひっくり返す可能性を秘めたこの日本企業の、今後の動向から目が離せない。

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水野雄介

1982年生まれ。ライフイズテック株式会社代表取締役。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科、同大学大学院卒業。在学中に開成高等学校で物理の非常勤講師として2年間勤める。卒業後、人材系コンサルティング会社に入社。教育改革を掲げ、2010年7月、ピスチャー株式会社(現ライフイズテック株式会社)設立。シリコンバレーIT教育法をモチーフとした中高生向けIT教育プログラム「Life is Tech!」を立ち上げる。


小森勇太

1983年生まれ。早稲田大学理工学部卒。株式会社ワイキューブで、「エンターテイメント×採用」の商品開発を行い、企業の採用戦略の新しい形を創る。株式会社SCRAPで『リアル脱出ゲーム』のディレクターを経て、ライフイズテック株式会社を水野とともに設立。一般財団法人生涯学習開発財団認定ワークショップデザイナー。ライフイズテックのサービス、ブランディング、メンター育成の最高執行責任者。エンターテイメントの場作りを武器に革新的な教育デザインに挑戦している。


TEXT BY ETSUKO ICHIHARA
PHOTO BY ISAMU ITO
EDITING BY KEISUKE TAJIRI