シェアする

保存する

Life Shift

2016.06.24

倉庫×テクノロジーから見える、「モノ」ビジネスの未来

月額制でプロのスタイリストが選んだ洋服が何着でも楽しめる『airCloset(エアークローゼット)』、モノを介して人と人を繋げる『Sumally(サマリー)』など、ここ数年注目を集めているユニークなスタートアップは、同じパートナーを持っている。それは、寺田倉庫。なぜ半世紀以上の歴史を持つ倉庫業の中堅が、未知なるサービスの背後にいるのだろうか。

スタートアップビジネスのプラットフォームとしての『minikura』

「オンライン・ファッションレンタルサービス」と聞くと、よくある洋服のレンタルサービスのように感じるが、『airCloset』は他とは一線を画す。自分のサイズや好みを登録しておくと、プロのスタイリストが選んだ洋服が届き、月額制で何着でも楽しめるのだ。寺田倉庫が2012年にサービスを開始した、業界初のクラウド収納サービス『minikura』のAPIが、このスタートアップビジネスを支えている。執行役員で『minikura』担当の月森正憲氏は、『air Closet』との出会いを次のように語る。

ls_main02

「スタイリストが選んだ服を『勝手に送りつける』というのが、新しく、面白い着想ですよね。でも、『airCloset』の構想段階は大手の倉庫会社や物流会社に企画書を持って行っては門前払いされ続けたそうです。倉庫業や物流業は全般的に保守的で、実績がないとリスクを忌避しますから……。そんなとき、ある人を介して『面白いことを考えている人間がいる』と、弊社に話が持ち込まれました」

ユーザーのカルテを作り、身長体重スリーサイズをはじめ、よく読む雑誌、好きなファッションスタイル、さらには使用後の感想をデータベース化することで、継続的に利用するユーザーにとってまさしくパーソナル・スタイリストとなるサービスを実現したい――そんなUXを大切にした事業構想を聞き、月森氏は協業を即決した。

「日本のファッション文化を変えていくビジネスなるかもしれないと思ったのです。全面的な業務提携を締結し、『airCloset』のサービスの根幹となる衣類の保管・配送・クリーニング・管理を弊社の『minikura』で担うことにしました。ちょうど私たちも、もっとスピード感のある事業展開に力を入れていこうとしていたときだったんです」

なぜ、保守的と言われがちな倉庫業を基幹事業とする寺田倉庫が、リスクのあるスタートアップビジネスに積極的なのか。シェアリングエコノミーの到来が叫ばれ、モノを持たないミニマリストに光が当たる時代、預かるモノがなくなる倉庫業の先細りを懸念しての取り組みのようにも受け取れる。そのまま月森氏にぶつけた。

「少なくとも、トランクルーム事業は今も事業売上を伸ばしているんですよ。もちろん、倉庫業の新しい可能性は模索していますが、そもそも寺田倉庫という会社は、もともとベンチャー気質な会社なのです。大手が立ち入らない、スピードと小回りの必要なビジネスを生みながら、65年の歴史を刻んできたのです」

65年の歴史を持つ“ベンチャー企業”の発想の転換

寺田倉庫がベンチャー気質を取り戻したのは、今から5年前のこと。大手物流がグローバルに展開する超ロジスティックスに挑戦したこともあるが敵うはずもなく、当時、中堅倉庫業としての壁にぶつかっていた。従来の顧客はいるが、市場の成長は見込めない。手詰まり感の漂う社内の空気を一新しようと、同社はリブランディングを行った。

「寺田倉庫の原点は、運河に囲まれた天王洲という立地を生かした米の預かり。温度湿度に加え、虫が発生しないよう配慮するきめ細やかな管理技術が、長きにわたって蓄積された会社だといえます。その技術を生かし、アートやワインといった高価な美術品、嗜好品のお預かり事業が始まりました。さらにはウォーターフロントという立地を生かし、レストラン事業も立ち上げた。そんなふうに強みを転化してニッチを狙う、ベンチャー企業であり続けようとリブランディングをして、誕生したのが『minikura』でした」

『minikura』の最大の特徴は、その料金体系とUIにある。月250円で1箱(最大20㎏、30点)を預かり、荷物は1点1点写真撮影されてWebにアップ。申し込みから荷物の取り出しまで、すべてオンラインで完結する、誰でも、いつでも、気軽にどこからでも預けられる、新世代の倉庫だ。従来の倉庫業の常識をすべて覆したサービスは、当時大きな話題となった。ただ、預かるべきモノがなかなか集まらず、苦戦を強いられたという。月森氏が、当時を明かす。

ls_main03

「我々の力だけでは、集客は厳しかった。ならばファンを持っている事業者のサービスとして稼働し、我々はプラットフォームに徹しようということになりました。パートナーとなる事業者にフロントに立ってもらうことで、『minikura』の利便性がユーザーに届くだろうと考えたのです」

『minikura』のサービス開始当初、他業種とのコラボレーションはおろか、API提供も視野に入っていなかった。しかし、自力では顧客=預かるべきモノが圧倒的スピードで集まらないと判断すると、すぐに連携できる事業者探しやAPI開発に踏み切った。この変わり身の速さが、功を奏した。

「最初にお声かけをしたアニメイトと連携してスタートさせたアニメグッズ保管サービス『アニメイトコレクション』が、大きな転機になりました。これを皮切りに、さまざまな企業よりお声かけいただくようになったのです」

同社のAPI提供のビジネスモデルが、さまざまな企業とのコラボレーションを実現した。玩具メーカーがアニメイトと同様のサービスを、不動産会社や通信事業者が契約者へのオプションサービスとして取り入れた。そして「入金したのに商品が届かない」といったトラブルが後を絶たなかったオークションサイトでも、自宅の住所を明かさずに倉庫から発送されるため、『minikura』が有効活用された。オークションサイトと『minikura』のシステムを接続することで、ボタンひとつでオークションサイトへの出品を可能にした。

倉庫×テクノロジー、「モノ」が介在するビジネスの未来

アニメイト以外、寺田倉庫から声かけした企業はない。これまでのすべての案件が、申し入れを受ける形でコラボレーション・プロジェクトとなっており、それでも多くの企業からのオファーがあり、そのすべてに応えきれていない状態だという。6:4の割合で、荷主となることを望む企業のほうが多いが、B to Cマーケットを開拓するタイプの企業も少なくないという。なかには海のものとも山のものともわからない、起業家によるビジネスプランも含まれるというが、「モノを預かる」minikuraのコラボレーション・プロジェクトに、リスクはないのか。

「持ち込まれるビジネスプランには、妄想の域を出ないものもあります。でも、その妄想にこそ、ビジネスチャンスがあると、私は感じています。だから大手や他社では門前払いされたプランでも、面白くて、すぐに事業化できそうで、インパクトのある社会的イノベーションを起こせる可能性を見出すことができれば、何とかして実現させたい。さらに、創業者や担当者の夢に共感でき、実現への情熱を感じるとき、また、その人のキャラクターや個性に魅力を感じたときも一緒に仕掛けていきたいと心動かされます。また、これは弊社の特徴かもしれませんが、業界のタブーに挑戦し、リスク覚悟で独自の立ち位置を確立しようとするようなサービスにも強く惹かれますね。その際は何がリスクなのか、それは本当にリスクなのかを、常に考えています。ベンチャー企業である当社にとっては、判断が遅いことこそが、リスクだといえるでしょう」

2015年には、約60万人の会員の「want(ほしい)」と「have(持っている)」のデータを保有する物欲刺激SNS『Sumally』と提携し、『Sumally Pocket』をスタートさせた。寺田倉庫が主催する『minikura』プラットフォーム機能を活用したビジネスコンテストでグランプリを獲得し、事業化した子供服の物々交換サービス『mycle』もある。今後は特定のアイテムコレクションや、収納場所に困るシーズンアイテムの預かりサービスといったコラボレーション・プロジェクトも動き出す。

「今が“モノが売れない時代”であることは、間違いありません。ただ、だからといって人々がモノを持たない時代かと聞かれれば、トランクルーム事業が伸びているように、ちょっと違うのではないかと思います。『minikura』へのオファーの多さも、それを裏付けているのではないでしょうか」

消費者のモノとの付き合い方、モノを所有するスタイルが変わりつつあるなか、「モノ」が介在するビジネスにも変化が訪れている。倉庫業とテクノロジーの融和により誕生した寺田倉庫の『minikura』は、それを可視化したといえる。広く浅いターゲットを設定した一方的な従来型のB to Cのセールスやレンタルではなく、インタラクティブで狭く深いビジネスやサービスが、これからますます台頭してきそうだ。

「余白創造のプロフェッショナル」を標榜する寺田倉庫も、『minikura』のプラットフォームを磨きつつ、未知なるサービスの開拓=余白を創り出すスピードを緩める気配はない。月森氏は言う。

ls_main01

「C to Cも、まだ大きな可能性を秘めていると感じています。テクノロジーの進歩、発想の転換で、今とは違う人と人との結びつきやモノの動き方が生まれるでしょう。当社がスタートアップを積極的にバックアップするのは、新しいアイデアに出会うための私たちなりの戦略なのです」


月森正憲(つきもり まさのり)

1975年生まれ。寺田倉庫 執行役員 『minikura』担当。1998年に寺田倉庫に新卒入社し、約5年間、重貨物の積み下ろし、フォークリフトの運転などの物流現場の最前線での業務に携わる。その後、営業を経て企画担当へ。2012年、オンラインクラウドサービス『minikura』をリリース。2014年同社執行役員に就任。現在は『minikura』事業の拡大とともに、スタートアップ企業、ベンチャー企業などにも積極的に事業支援する責任者を務める。


TEXT BY SHINOBU SAKURAI
PHOTO BY KAZUMI NIIMI