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Life Shift

2016.05.12

“これからのロボットとの距離感”、きゅんくんの壮大な野望

射るような眼差しをカメラに向ける女性――。きゅんくんは、“ロボットを着る”という未来志向のクリエイターとして、国内外のアートシーンを中心に注目を集めている。大学で機械工学を学ぶかたわら、“ロボティクスファッションクリエイター”としてウェアラブルロボットの制作に取り組む底流にあるのは、人間とロボットの新しい関係性の模索だった。

大切にしているのは「パッと見たとき」のインパクト

秋葉原駅から徒歩5分、2014年にDMM.comがオープンさせた「DMM.make AKIBA」にきゅんくんを訪ねた。DMM.make AKIBAは、ハードウェア開発に必要な最新の機材を取り揃えた「DMM.make AKIBA Studio」、シェアオフィスやイベントスペースとしても利用できる「DMM.make AKIBA Base」などで構成された、モノ作りをしたい人のビジネス拠点なる総合施設。今、きゅんくんは大学に通う以外の時間のほとんどを、ここで過ごしている。

「用事がなければ、学校が終わり次第、スタジオへ来ます。土日も用事がなければ、ここ(笑)。開発が佳境になると、夜通し作業をすることも。いろいろな人が集まる場所なので、私とは異なる分野に詳しい人と話をする機会も多く、とても勉強になっているんですよ」

大学入学と同時にウェアラブルロボットの開発に取り組んだきゅんくんは、2014年9月、失楽園の物語をテーマにした、蛇がリンゴを食べさせようとするロボット服『PRADISE LOST』を発表。同年9月には素材や機構を見直し、アームをコンパクトにした『THE 2nd PROCESS to UNION』を「TOKYO DESIGNERS WEEK 2014」で招待展示した。翌2015年3月には、『METCALF』を制作。アメリカ・テキサス州オースティンで行われた「SXSW2015」で発表し、カルチャー誌やファッション誌のみならず、ビジネス誌にも取り上げられるようになった。

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「1台目の『PRADISE LOST』はアクリル材で作った、私にとって初めてのアームロボット。ただ、これにはいろいろと反省点があり、すぐに2台目を作りました。『THE 2nd PROCESS to UNION』は、素材のアルミ板を、バンドソーなどを使い自分で加工しました。10日間安定して展示できたので、機構の方向性は確立できたのですが、金属加工もすべて手作業で作ったため、精度が低く、切り口や形も満足のいくものではありませんでした。そこで3台目となる『METCALF』は、機構や素材はそのままに金属加工はCNC自動旋盤での切削加工とし、表面に彫刻なども施してサイズも大きくしたんですよ」

一台を完成させるまでに費やす作業時間は、1カ月から3カ月。構想に一番時間をかけ、その後は一気に作り上げるという。
そしてついに2016年3月、4台目のウェアラブルロボットが完成した。「METCALF clione」だ。

金属加工とは無縁のように見える、きゅんくんのネイルを施した指先が、愛おしそうに部品を手に取る。UVプリントを施したアクリル材に、切削されたアルミ材。
「私のロボットデザインの構想は、粘土造形みたいかな。いろいろなロボットの模写をして、このパーツがきれいだな、こういう部品の使い方がいいなといったインスピレーションを蓄積して、消化して、そのエッセンスを取り入れて……。大切にしているのは、パッと見たときのインパクト。そのためにインプットして。自分を追い込んで作っていますね」

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自分の中の「志向」を合わせて創り出した、ロボティクスファッション

小学生のころに夢中になったのは、ラジカセの解体やロボット工作キット。中学生になるとコンピューターを買ってプログラミングをしたり、秋葉原で部品を買い揃えて電子工作をしたり――。そんな子ども時代の思い出を持つきゅんくんが、メカやロボットに興味を持ったきっかけは、ロボットクリエイター・高橋智隆氏の存在だった。

「あるときテレビで高橋智隆さんの出た番組を見て、ロボット開発者になりたいと思ったんです。子どものころに観た『アストロボーイ・鉄腕アトム』は、メカエンジニアを目指す私の原点に近いものですが、それはアトムを作りたいと思ったのではなく、天馬博士になりたいと思ったから。高橋さんに憧れを抱いたのも、一人でなんでも作ってしまう様に惹かれたんです」

ロボット開発者になるためにきゅんくんが進むべき方向を見つけたのは、高校時代。はじめてスマートフォンを手にした女子高生は、「国際ロボット展」の開催をインターネットやSNSで知り、果敢にも一人で会場を訪れた。そして製造業などで実用されている産業用ロボットを見て心を震わせた、「これだ!」と。

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「産業用ロボットの存在は、もちろん知っていました。でも、実際のロボットやその用途について商談がなされている様子を見て、何だか感動したんです。産業用ロボットは“経済”を回して、支えている。あまり表舞台で脚光を浴びるロボットではないけれど、社会と密接に関わって働いている。そうやって経済=私たちの社会に組み込まれるロボットを作ってみたいと思うようになりました」

同じころ、きゅんくんは学校で衣服制作を始める。宇宙服をモチーフとしたものや光る衣服や電子基板を取り入れた衣服を作って発表すると、近未来的な作品が話題となり、クリエイターとしての活動をスタートさせた。

「光る衣服や基板をデザインに取り入れた衣服を作ったのは、当時、私にオリジナルのロボットを作る技術力がなかったからです。作りたいイメージをコンセプトとして表現した、という感じでしょうか。高校時代から、アームロボットや蛇型ロボットなどの多関節ロボットを服にしたいと思っていたんです」

メカやロボットをモチーフとして用いるのではなく、メカやロボット単体を作るのでもなく、それらを融合させるという手法は、アート性が際立つ。しかし、あくまでエンジニアとして作品作りをしているのだと、きゅんくんは言う。

「私には実用的で真面目で、ジョークがなく、当たり前に目立たず持続するものへの憧れがあります。でも、コツコツと地道に既存のものを作るのは私にはあまり向いてない。一方で、私は“今までにないことを探し出す”のが得意。その両極端な二つを合わせたら、ロボティクスファッションになったんです。だから、私が作ったアームロボットが第三者にアートとして受け取られたことに、最初は不思議な感覚がありました。真面目なエンジニアになりたいという私の憧れが、技術と表現の絶妙なバランスを持った、ロボティクスファッションを生み出しているのかなと思います」

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アウトプットを考えずにインプットして、可能性を最大限に

この数年でウェアラブルデバイス市場は、大きな成長を遂げている。また、掃除ロボットをはじめ、さまざまな機能を持ったロボットがすでに私たちの日常生活に欠かせないものとなりつつある。テクノロジーの進歩は目覚ましい。

「UIやソフトウェアの力が、とても大きいと思います。たとえ汎用性のあるハード、たとえばIoTもそうですが、『何にでも使えます』ではユーザーは困ってしまいます。わかりやすくてキャッチーな、使いやすいアプリがあって、はじめて価値を認められる。ロボットについては、ソフトウェアやAIといった分野は進化していますが、アクチュエーターについては、ここ数十年あまり進化していません。そこが進化できたら、突破口ができるはず。それは、ハードウェアを作る一人として、ひしひしと感じています」

そんな中、ハードウェアの作り手の一人として、きゅんくんは模索もしている。たとえば彼女の作るウェアラブルロボットには、ある試みが含まれている。アームロボットという無骨で無機質なものが、人間との物理的距離を極限まで縮めたとき、人間はどのように感じるのか。あるいは、これまで基本的に機能を持って生まれてきたロボットに対し、あえて機能を持たせないことで、ロボットが自ら役割を生み出すのではないか――。

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「人間は“役割”を持って生まれてくるわけではありません。だから、ちょっとアニミズム的な話ですが、ロボットも“役割”を持たないで生まれたら、そこに”個”が生まれるのではないか、と思うんです。そして自ら、人間が付与するものではない役割を、獲得するかもしれない、と」

今、20年前には想像もつかなかった人間とロボットの関係性が、築かれつつある。スマートフォン然り、ウェアラブルデバイス然り。ただ、今の人間とロボットは、多かれ少なかれ「使役」の関係性にある。近未来として描かれる多くのフィクションの世界でも、そうだ。ただ、きゅんくんは、少し異なる未来像を夢想する。ロボットに自我が芽生えているかどうかに関係なく、人間とロボットは共生しているはずだと、彼女は語る。

「20年後、私たちの身の回りには、何でもできるヒト型ロボットではなく、機能に合わせたさまざまな形、タイプのロボットが存在していると思います。そして、もはや人はそれをロボットとは思わないかもしれない。人間とロボットの関係性は、間違いなく縮まるでしょう。今はまだ、ロボットに話しかけるとなると気恥ずかしさを覚える人も少なくないと思いますが、それはなくなるはず」

いつか人間とロボットが「使役」ではないコミュニケーションを――。壮大な野望を胸に、最近きゅんくんは「何を作るか」を考えずに、インプットをしようと決めたという。アウトプットを考えてしまうと、それに適したインプットしかなくなってしまいがちだ。あらゆることをインプットして、そこから何をアウトプットするのか。最大限の可能性に、挑む。


きゅんくん

1994年東京都出身。ロボティクスファッションクリエイター。機械工学を学びながらファッションとして着用するロボットを制作。機械設計、電子工作等を自身で手がける。高校生の頃より「メカを着ること」を目標にロボティクスファッションの製作を続け、2014年よりウェアラブルロボットの開発を進めている。2015年テキサス「SXSW2015」にてウェアラブルアームロボット「METCALF」発表。同年 オーストリア「Ars Electronica Gala」招待出演。2016年ウェアラブルロボット「METCALF clione」を発表、「うめきたフェスティバル」にて招待展示。同年 AKB単独公演にて「METCALF stage」を3台稼働。ISIDイノラボ ロボティニティテクノロジスト。


PHOTO BY TORAZO YAGI
TEXT BY SHINOBU SAKURAI