シェアする

保存する

Life Shift

2016.04.26

カセットテープが持つ新しい価値の創造。Waltzから発信される『アートプロジェクト』とは

一見するとレトロ、もしかすると不用品して扱われてしまうであろうオールドテクノロジーであるカセットテープ、そしてカセットプレーヤー。オールドテクノロジーとなったこれらを、新しいビジネスの機会と捉える「waltz(ワルツ)」代表、角田太郎氏。アマゾン・ジャパン初期メンバーとして日本での普及に寄与した角田氏が始めた、東京・中目黒にある小さな店から発信される、カセットテープやレコードが秘めるビジネスの可能性を大いに秘めた『アートプロジェクト』という日本初の新しいプロジェクトとは一体どのようなものなのか。

ls_main01

あえて「非IT」を掲げ、アマゾン時代の逆を行く

アマゾンを離れ、インターネットとの触れ合い方を正反対にしたという角田氏。ビジネスにおいてはなるべく避けるようにし、あえて「非IT」を掲げている。

「だって、自分はどんどん進化していくのに、ネットの中だといつまでも古いままの自分の記事や写真が残り続けるでしょう? なので最低限、店の場所が分からないと来てもらえないので簡単なWebサイトだけは作りましたが、FacebookやTwitterなどは一切やっていません」

しかし、今まで学んできた多くのノウハウを要所要所で取り入れているという。

「僕のやっていることはすべて計算してやっていることなんです。やはり、ネームバリューのある大手IT企業に居た人間が非ITを掲げてカセットテープ屋を始めたなんて『おもしろい』でしょ?そして、そこを『おもしろい』と感じてくれた若者や著名人・媒体がSNSやWebコンテンツなどでどんどん広めてくれているんです。その結果、こちらから発信せずとも検索結果の順位も上位に来ています」

そもそもなぜ、カセットテープ屋なのか? 角田氏はカセットテープといういわゆる「オールドテクノロジー」と呼ばれるものを古い物として扱ってはおらず、むしろ、まだまだ伸び代のある分野だと考えていた。

「ビジネスに必要なのは瞬発力ではなく耐久力だと思っているので、10年後・20年後まで考えた際、一過性のもので終わらないようにするには? と常に考えています。人から見たら、安泰だった仕事を辞めてカセットテープ屋を始めるなんてクレイジーだと思われるでしょうが、僕は逆に、アマゾンにいたら出来ない真逆のことをやってやろうと思っていたので、元々大好きだったカセットテープを元に、新しいビジネスを始めようと思ったんです」

ls_main02

全盛期とは違う価値を与えることにより、「アート」として再度輝かせる

「waltz」の店内には、カセットテープだけではなくレコードの他にもVHS、少し古い雑誌も多数置いてある。これらをオールドメディアという枠ではなく「総合的なアート」と角田氏はとらえている。

「これらのものは、全てが揃ってひとつのアートになっています。でも、現在主に流通している“データのみ”のデジタルの音楽には、そういう要素がほぼ無いんです。
アーティストの人たちも、本当にやりたい・伝えたいことを詰め込めず、世の中の流れ的にデジタルにするしか無い、抗うことが出来ない状態になってしまっているというお話は、業界のあちこちから聞こえてきています」

アナログやデジタルと言うと、どうしても二元論になりがちだが、アナログイコール「古い」という話では無い。ともすると、「アナログ」という言葉がレトロスペクティブな聞こえ方、単純に古いものと捉えられがちになるが、単純にそうとも言い切れない。

「店にはカセットテープを知らない世代の方もいらっしゃいますけども、うちの店に来て初めてカセットテープに触れるのだから古いものというカテゴリでは無く『見たことの無い新しいもの』として触れる。若い人達が今カセットテープを面白がっているのは古いからじゃない、初めて見る”新しいもの”だからなんです」

また角田氏は、音楽の立ち位置が人生の中で、もしくは生活の中で高ければ高い人ほどアナログメディアに回帰してきているとも語る。これは、デジタルを否定している訳では無く、必要性に応じて使い分けられている、現代ならではの形なのかもしれない。 カラオケで歌いたいだけであれば、ジャケットの良し悪しなど関係なく音源が手に入れば良いので、わざわざ店に足を運ばなくとも動画サイトや音楽のストリーミング配信を購入すれば良いのだ。

「ただ、音楽をより良く聴きたい人は、やっぱりデジタルよりもアナログ音質を求める。より一層『心地よい音』を求めている、それが今の時代だと思います。例えばそれは、音質も関係しています。
まず、音の柔らかさが全然違うんです。技術的に高音質なものと、耳に心地よいというのは全然レベルの違う話なんです。例えばハイレゾとか、普通の人の耳には聞こえないような音域まで再現されていますが、それは技術的に聞かせているだけ。アナログの音って、ぬくもりがあって凄く心地よい柔らかい音なんですよ。だから『アナログの音って気持ち良いね』と、音楽好きはこちらに流れてきています。同時にそのジャケットの見た目の面白さ、美しさ、部屋に飾るワクワク感も同時に提供出来る。僕が『アートプロジェクト』と言っているのも、そこから来ているんです」

ls_main03

アートに昇華したカセットテープは、新たなる価値を生み出す

「新しい」オールドテクノロジーたち。角田氏はこれらのオブジェクトにこれから先、『アートプロジェクト』としての更なる展開へ動き始めていると言う。

「例えば、店に置いているラジカセひとつ取っても、カセットテープでも、綺麗にして並べ、展示することによって僕はアートに昇華させています。ショーケースに入れ陳列して敬意を払うことによってアートになる。70年代・80年代に製造されたこれらのプロダクトデザインがいかに秀逸か、このように並べることによって価値を再確認出来るんです」

ls_main04

商品価値にプラスし、ディスプレイでプレゼンテーションをすることにより、一つひとつは一見レトロなものが、全く違う価値として創造されるのだと言う。しかし、現在この分野に力を入れている競合はほぼ無い。そこに角田氏は目を付けたのだという。

「現在、色々な所とビジネスとしてお話しをしていますが、例えば音楽を作っているCDメーカー、レコードメーカーは凄く不況なんです。今までアマゾンでずっと一緒に仕事をしてきたので分かるのですが、2000年代に入ってから、毎年生産実績が下がり、統合を繰り返して数が減っているのが現状なんですよね。だけど、今までCDとしては出ているがカセットテープとして世に出ていない音楽って、山ほどあるんです。例えば、90年代のアーティストの作品。CDに切り替わってしまった為、日本ではカセットテープとしては出ていない。でも今、カセットテープが再評価されてきていることによって、それらの音楽をカセットテープとして世に出すということは、新たなビジネスの機会を生むんです!」

角田氏はさらにこう続ける。

「カセットプレーヤーもそうです。一度はシェアが減り撤退してしまった分野が、再びビジネスチャンスとして生まれ変わるんです。限定で復刻モデルを出してみようか? などの形で新たなビジネスの機会はまだまだ生み出せるのですよ」

この「カセットテープ」というオブジェクトが再評価されることで、これだけのビジネスチャンスが生まれる。これらのオブジェクトをいつまでも中古にしておかず、「新製品」にすることが、このビジネスにおけるキーワードだそうだ。

「ビンテージを取り扱うことは、アマゾンも苦手ですし、実際、取り扱いは無いですからね。一見”趣味のお店”に見えるみたいですが、僕はアマゾンで相当ビジネスマンとして鍛えられてきていますから(笑)」

誰も気付いていなかったカセットテープという分野を再評価することにより、それらに関わるすべてのものが動き出す。テープ工場をはじめとして、アーティストやレコード会社、カメラマンやイラストレーター、制作会社なども回り始める。

「今は僕のコレクションをメインに置いていますが、最近はレコード会社から頼まれた商品も店に置いています。レコードやカセットテープに関しては、データとして配信されているものと比べると希少価値が比較にならないですからね。人はたくさんあるものには興味が薄いんです。希少価値の高いものを、ここを発信源として広めていきたいです」

一回だけの人生。「The Amazon」だった自分から思い切って「音楽好き」という原点に返る。まさに、このポスターに書いてある「DARE!」なんだそうだ。
古い=新しい。この『アートプロジェクト』はまだ始まったばかりである。

ls_main05


角田 太郎(つのだ たろう)

CD/レコードショップ WAVE渋谷店、六本木店でバイヤーを経験後、2001年にアマゾン・ジャパンに入社。音楽、映像事業の立ち上げに参画。その後、書籍事業本部商品購買部長、ヘルス&ビューティー事業部長、新規開発事業部長などを歴任し、2015年3月に同社を退社。同年8月に東京・中目黒にカセットテープやレコードなどを販売するヴィンテージセレクトショップwaltzをオープン。


TEXT & PHOTO BY MIHO MATSUI