シェアする

保存する

Life Shift

2016.05.09

IoTを通信で支えるソラコム社長 玉川憲氏が語る、クラウド・通信・モノが変える未来

クラウドの技術を用い、IoTデバイス向けの通信プラットフォームを提供するソラコム。社長の玉川氏がアマゾンのAWSエバンジェリスト時代に得た気づきから生まれたこのビジネスは、IoTが今後広がっていくなかで重要となる、通信を支えている。創業1年にしてすでに1500を超える顧客を抱える同社が見据えるIoTの未来を伺う。

アマゾン時代にみた、ソラコムというビジネスの兆し

ー 玉川さんのご経歴を簡単にお教え頂けますでしょうか?

去年の春にソラコムを立ち上げる前はクラウドサービス AWS(Amazon web services)の日本事業の立ち上げをやっていました。直前のキャリアはアマゾン ウェブ サービス ジャパン(当時・アマゾン データ サービス ジャパン)なのですが、元々は大学で機械設計を勉強してIBM基礎研究所に新卒入社し、VR(バーチャルリアリティ)の研究やソフトウェアエンジニアリングなどを担当した後に、アメリカで経営学とソフトウェア工学のMBAを取得し、2010年からアマゾン ウェブ サービス ジャパンで働き始めました。

ー アマゾン ウェブ サービス ジャパンに入られたきっかけは何だったんでしょうか?

AWSはちょうど私がアメリカにいた2006年に始まりました。当初からAWSはオーバーテクノロジー感があってギーク層の間では騒がれていました。当時、アマゾンはまだ本屋さんのイメージが強かったのですが、コンシューマー向けビジネスをやっている会社からそういったテクノロジーが出てくることに感動を覚えましたね。その感動をどこかに覚えつつ、日本に戻りIBMで仕事をしていたとき、アマゾン ウェブ サービス ジャパンのお話を頂きました。

お話を伺い考えたのは、日本は新しいテクノロジーに対する拒否感が特に強い国だということです。国産テクノロジーじゃないといけないという変な自意識があったり、新しいものを自分で開発したいという気持ちが強い。エンジニアリングの魂としては素晴らしいんですが、新しいテクノロジーを取り入れていけなければ、その次に起こる競争についていけなくなるというデメリットがあります。

IBMで仕事をするなかでも同じような経験をしたんです。アジャイル開発という開発手法のコンサルティングをやっていたのですが、そこですごく苦戦しました。当時日本はソフトウェア開発が軽視されがちで、そこで価値を生みだすのが難しかったんです。クラウドも同じことになってしまうのではないかと危惧しました。そこで機会をいただいたので、AWSにフルコミットすることにしました。

ー ではAWSの仕事をするなかで、何故ソラコムのビジネスを行おうと考えたのでしょうか?

私が入った2010年当時、個人がインターネットでサービスをやりたいと思っても、どこからサーバーを買ってくるか、サーバーを買うお金はどうするかといった問題にぶつかり、大企業にいるような人でないとそういったチャレンジがしづらかった。そこにAWSというオープンでフェアなプラットフォームが現れたことで、誰でも使い始められるし、大企業でも個人でも同じ土俵でチャレンジできる環境が整ったんです。

だからこそ、開発者コミュニティとかユーザーグループを立ち上げ、この大きな環境の変化を伝えるために色々な活動をやってきました。しかし一方で、日本の場合アメリカなどの欧米諸国に比べると、ものすごいイノベイティブなサービスが次々とでてきたわけではありませんでした。

アメリカでいうとAWSを使って、Dropbox、Instagram、Uber、Airbnbといった世の中を劇的に変えるようなサービスが生まれたのに対し、日本からはそういったサービスは生まれてきませんでした。もちろん日本のAWSチームは一生懸命やりましたし、大企業でも次々と使われるようになりました。けれど、日本から挑戦していくような人は少なく、もっと増えて欲しいというのはしみじみ思っていました。これは土台にあったと思います。

ls_main01

ー 出てこないから自分がやろうと?

そうですね、ソラコムのアイデアを思いついたのは、CTOの安川と飲んでいたときでした。クラウドだからといって動かせないシステムはあるかと話をしていて、その気になれば通信でも金融でも電気のシステムでも動かせるだろうと話していたんです。周りの人はそう思っていなくても、僕たちは信じている真実みたいなものでした。たまたまそのときは海外出張をしていたんですが、眠れなかったので、それをもとに仮想のリリースノートを書いてみたんです。

アマゾンでは何か開発する前にリリースノートを書くという文化があるんです。それを書いてそのまま寝て、次の日の朝それを読んでみたら「これはいけるんじゃないか」と思ったんです。それがきっかけですね。

もちろんそこから色々な葛藤はありました。僕もAWSの立ち上げをずっとやってきて、自分で作ったチームを離れてまでやるのか。40歳で、子どもも3人いるなかで、AWSチームの恵まれたポジションを捨てるのか。ただ、前述の思いもありましたし、人生で付き合ってきたエンジニアや優秀な仲間がすぐに思いついたので、不安と自信をいったりきたりしながら最終的には立ち上げる決意をしました。

ー AWSを使って動かせないシステムはないというお話がありましたが、通信を選んだ理由はなんだったのでしょうか?

要因はいくつもあるのですが、1つは、動かせないだろうと思っている人とクラウドの上で動かせると思っている僕らとのギャップが大きいところこそチャンスだと思っています。もちろん、IoTというトレンドもすごく大きいですね。

AWSって、2006年に出てから10年で年間1兆円を超えるビジネスに成長しているんです。このようにクラウドが成長した一方で、3DプリンタのようなメーカーズムーブメントやRaspberry Piのようなオープンハードウェアが作りやすくなり、コストも下がり、量の変化が質の変化に変わろうとしているうごめきが今まさに起こっているんです。

それってクラウドが始まった頃とすごく似たような感触があるんです。大半の人が一過性のバズワードだと言っているけれど、何人かは絶対に変化が起こるという確信をもったような状況です。モノがあってクラウドがある。これがつながれば、今までは技術的にもコスト的にもペイしなくて実現しなかったみんなが考えていた夢が実現できるようになるだろうといううごめきがあるんです。

その中で欠けているピースがいくつかあって、通信はまさにそのピースの1つなんです。そして、それは市場があるという意味でもあります。テクノロジーがあって、市場があって、チームもある。だからこそこのビジネスを始めたんです。

ls_main02

クラウドのパワーをいかし、モノをつなげる

ー 普通の人にIoT用のSIMですというと、いわゆる格安SIMのようなMVNOをイメージされると思うんですが、明確な違いはどこなんでしょうか?

MVNOといってもいろいろな種類があります。MVNO(Mobile Virtual Network Operator)はMNO(Mobile Network Operator)と対になる言葉で、MNOは日本では大手キャリア3社を指します。それに対しMVNOは仮想通信事業者という意味合いなので、何を仮想化するかが事業社によって異なります。1番簡単なのは単純にSIMを買ってきて売るというモデルで、いわゆる格安SIMと呼ばれる純粋な価格競争になる分野です。

それに対しソラコムは、モノ向けのビジネスのため大分性質が異なります。人向けのSIMの場合回線単価が高く、1個あたり1万円近く払っている人も多い。それだと従来の同じやり方で、MVNOをやるにも交換機という数億円の設備を購入したり、顧客管理システムを用意したりとか数十億円の投資をして始めるのがほとんどです。それに対しモノ向けのSIMは、回線単価が低いですし、数は膨大に繋げる必要はあるけれどほとんど通信しないものも多い。そこで我々特有の技術なんですけれども、そのコストが掛かるような部分を全てAWSの上でソフトウェアとして作っているんです。初期投資も掛からないですし、たくさんモノがつながったとしても、AWS上なのでオートスケールする機能を最初から持っているんです。そういった設計でつくりこんでいるのが僕らの強みですね。

ー 今まで莫大なコストをかけていた設備投資が不要になり、ソフトウェアで動かせると?

その通りです。また、モノ向けの場合求められる機能も異なってきます。SIMが入ったデバイスが盗まれた場合はどうするのか、きちんと動いているのか監視できるかなど、人向けのSIMとは全然違うニーズがあるので、そこに特化しているのも特徴です。なので、人向けのSIMでは持っていないような機能を持っています。例えば回線管理機能では、SIMを入れて出荷すれば後からデータを流せるようにしたり、止められたり、速度を変えたり、解約できたりするようにしています。他にもオンラインか否か、センサーがどれくらいデータを送っているのかなどを監視する機能もあります。そういったモノ側に特化した機能があるのも大きな違いです。

ー こういったビジネスをやっているのはソラコムさん以外にもあるんでしょうか?

いえ、それが無かったんです。全くの新規事業で誰もチャレンジしていないエリアでした。逆にいうとどういった機能が必要になるかっていうのも最初は全く分からなかったんです。なので、とりあえずサービスを作りお客さまに使ってもらいながらフィードバックをもらい、作りこんでいくことが大事になるんです。

その作り込みが、他から買ってきた技術だと改善していくことが難しくなってしまいます。でもソラコムは最初からスクラッチで作っていますし、クラウドなのでほぼ毎日のように新しい機能、新しいサービスというのを実装していくスペースもあります。これは大きな強みだと思っています。

実際リリースしてからこれまでで、新サービスを6個出していますし、新たに出したサービスもお客さまのフィードバックをもとにどんどん改善してきています。

そのなかでも「SORACOM Canal」という、お客さまのAWS上のプライベートクラウドとソラコムのプラットフォームをダイレクトにつなぐサービスは最近特に人気が高いですね。クラウドのパワーを活かしたいという人はIoTで結構いるんですが、皆セキュリティが不安なんです。たとえば自動車のカーナビシステムがハックされたり、セキュリティの証明書が全部一緒でデータが筒抜けみたいな問題が起こっています。IoTもまだまだ始まりなのでセキュリティ・イシューはどうしても起こると思うんですが、そういったところをクリアしてセキュリティを担保できるプラットフォームになるというのは大事だと思うんです。

IoTはクラウドがあった方が絶対に便利なんですけれども、クラウドはインターネット上にあるので便利さと安全が背反しているんです。その両面を取れるようなものができないかと言うことで、我々がサービスとして出したのが「SORACOM Canal」です。我々のモバイル通信のプラットフォームと、お客さんのクラウド上の閉域網をプライベート接続することでデバイスからクラウドまで一回もインターネットに出ないで接続できるんです。本来閉域網は専用線を引いたりとても手間だったのですが、「SORACOM Canal」 を使えばどこでも置くことができるんです。

ls_main03

IoTの未来を広げるため、ソラコムができること

ー 今後、ソラコムさんがビジネスを拡大するためにIoTの分野でどうしていこうとお考えでしょうか?

お客さまがIoTをやりたいと思ったときにはじめて、モノも通信もクラウドも必要になってくるんです。ただソラコム使っていただくときに、モノもクラウドも準備できるし使いこなせるというお客さまはそんなに多くはありません。お客さまによってはモノを調達してきたりとか、クラウドの使い方を教えて欲しいというお客さまもいるので、ソラコムに関係するパートナーさんを集めたコミュニティを用意しています。サービス開始と同時に「SORACOMパートナースペース」というパートナープログラムを始めました。

ー ソラコムさんは通信事業ではあるものの、制御やコンソール部分にも価値があると思います。単純なネットワークだけでいえばFacebookが世界中にWi-Fiを飛ばそうとしているという話もあるなか、管理・制御の部分はやはり非常に重要とお考えですか?

IoTも色々ありますが、セキュリティに関してセンシティブな場合も多く、それがWi-Fiで実現できるかというとそうではないと思います。また農業や畜産の分野などになってくると、遠隔地や、非常に広大な土地にWi-Fiを引くのは難しくなってくるので、そういった分野においては広域で提供されているモバイル通信が必要になってくるでしょう。

モバイル通信自体も進化をつづけており、これまでは速度を重視した人向けの進化が強かったのですが、他方で、より遠くに飛び、データは少ししか送れないけれど、消費電力も小さく、モジュールも小さくなるという方向の進化も進んでいるんですね。これはある意味モバイル通信のIoTへの対応ですし、我々のサービスとしてもそれを見越して、たくさんつながっても管理をできるツールなどを用意していますので、データ通信の進化は、我々としても待望するところですね。

ー IoTが広がるためには今後何が必要になってくると思われますか?

いままでのクラウドのハードルや、クラウドがなかったときのサーバーのコストのハードル。ソラコムがなかったときの通信のコストや、モノが作りやすくなかった時の製造費など、できなかったことは次々とできるようになってきています。ですから、これからもさまざまなハードルが下がっていくと思っています。

ただ一方で、そういった1個1個のハードルがあるせいで、いつになったらIoTの未来が訪れるのだろうというのが現時点で語れないのも事実です。それは2020年なのか2030年なのか。僕らはある意味そういった夢をできるだけ早く実現するために、通信という敷居を下げてみんなが心地よく「やってみようぜ」と思うような、わくわく感を提供する会社だと思っています。

ls_main04

ー ソラコムさんの、今後の展望をお聞かせください

我々は当初からグローバル展開できるようなスタートアップテクノロジーを実現したいと思っています。ソラコムの場合、海外に出たときにも現地のキャリアさんと提携し今のソフトウェア作っている仕組みをコピーして持ってくれば展開が可能です。日本ではドコモさんから回線を借りていますが、海外でもきちんと契約して回線を貸してくれるキャリアさんがあれば問題無いんです。

ー 実際に海外のキャリアさんと話をされることもあるんでしょうか?

実際に話を進めています。お話をすると、多くの会社さんから面白いと評価してもらえることが多いですね。世界中で他に類似サービスを提供しているプレーヤーがいないとてもユニークなサービスですから。また、我々は通信なので、ゲームやサービスのように人の好みや趣向性という壁があるわけではありません。

ただ、グローバルといっても日本と日本以外で区切れるものではないので、それぞれの国に応じた文化的な違い等々に対応していくことは大事だと思っています。市場ごとの大手携帯キャリアさんの動向や組みやすさみたいなところを総合的に考え、どこからやっていくかを決めないといけないなと思い、今年はまずどこかに一歩踏み出すというのを目標にしています。

玉川憲

日本IBM基礎研究所を経て、2010年にアマゾンデータサービスジャパンにエバンジェリストとして入社、AWS日本市場の立ち上げを技術統括として牽引。2015年株式会社ソラコムを創業。IoT通信プラットフォーム「SORACOM」を展開、IoTに不可欠な通信を柔軟かつセキュアに提供。
東京大学工学系大学院機械情報工学科修了。米国カーネギーメロン大学MBA(経営学修士)修了、同大学MSE(ソフトウェア工学修士)修了。1976年大阪府生まれ。
『IoTプラットフォーム SORACOM入門』『Amazon Web Services クラウドデザインパターン 設計ガイド』『Amazon Web Services クラウドデザインパターン 実装ガイド』他、著作翻訳多数。