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Life Shift

2016.03.17

【後編】市原えつこが行く、アート&テクノロジーの実験場「Media Ambition Tokyo」

最先端のテクノロジー・アートを都市へ実装する、実験的なカルチャーイベント、Media Ambition Tokyo 2016(以下、MAT)が2月26日〜3月21日まで開催中。例年、その年の旬な作家が集うイベントとして大きな盛り上がりを見せていたが、4回目の開催となる今年は規模を大幅に拡大し、六本木を中心とした合計13会場での展示、トーク、ライブ、イベントなど目白押しだ。ひとつの展示やイベントというよりは、「六本木アートナイト」や「ミラノ・サローネ」のように都市全体を巻き込んだテクノロジー・アートのフェスティバルの様相を成してきている本年のMAT、その見どころや出展作家の生の声を、アーティスト市原えつこ氏が前後編にわたってお届け。前編に引き続き、後編となる今回は、森タワー52Fの作品、IMA CONCEPT SOTREの2作品、INTERSECT BY LEXUS-TOKYOの作品をレポートする。

世界の森羅万象を表現する、壮大な3Dホログラム表現

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『Light of Birth』
WOW / Nobumichi Asai

ビジュアルデザインスタジオ「WOW」所属のメディアアーティスト、浅井宣通氏。人の顔面へのプロジェクションマッピング作品『OMOTE』で世界へ衝撃を与えた彼だが、本展での出品作は打って変わって、3Dホログラム技術を用いた作品だ。しかし思想的にも技術的にも『OMOTE』と今作はつながっているという。

「前作も本作も、オープンソースの画像処理ライブラリ『OpenCV』を使っています。この技術のベースになっているのは、科学者たちが自然界を研究して見つけた方程式やルールの膨大な蓄積です。今回出品している3Dホログラムは、OpenCVを使い、自然界のルールや方程式から逆に実存を生み出すということに挑戦しました。人間の存在も遺伝子というコードから生まれていますよね。実はこの世界自体が、最初から法則やルールから生まれているんです。まずはコードが先にあり、そこから実在の世界が生まれていく。プログラミングの世界から出発して現実世界を見ていくと、イデアと実在の存在にたどり着くんです」

ふ、深い……。お話のスケールの壮大さに頭がパンク気味になっていたが、実際のホログラム作品を見ると浅井氏の言わんとすることがわかった気がした。メタモルフォーゼのような生命体が細胞分裂して鳥になり、人間に変貌していく。まるで生命の進化を表しているようなストーリーが作品から見て取れる。一般的なホログラム技術は「面」としてのスクリーンを空中投影しているそうだが、浅井氏の『Light of Birth』は完璧な3Dホログラムになっており、360度どこから見ても違った姿が見ることができる。眼前に生命体が本当に出現しているようなリアリティが感じられた。 アトムからビットへ、ビットからアトムへ。アーティストであると同時にプログラマーでもある浅井氏ならではの、技術思想と作品コンセプトが緊密に結びついた作品だった。

五感フル没入!ゲーム体験における技術革新

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『Rez Infinite -Synesthesia Suit』
Tetsuya Mizuguchi + Rhizomatiks Architecture + Keio Media Design

世界的に著名なゲームデザイナーである水口哲也氏とRhizomatiks Architecture、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科とのコラボレーションで生まれた『Synesthesia Suit (シナスタジア・スーツ)』。VRビデオゲーム作品「Rez Infinite」の共感覚的なコンセプトを体現するために製作されたものだという。体験者は、ヘッドマウントディスプレイとヘッドフォン、そして「共感覚スーツ=シナスタジア・スーツ」を着用。3Dのゲーム空間の中にこれで完全に「閉じ込められる」。

実際に体験してみると、圧倒的なグルーブ感と没入感がある。敵機を撃ち落とすときは破裂音とともに「ブルッ」と全身にフィードバックがあって、非常に痛快で気持ちいい。視覚・聴覚・触覚すべてをハックされているため、ゲームの中の世界で起きている出来事が全身にフィードバックされることへの恐怖感とこれまでにない爽快感があった。

ちなみに観客としてプレイヤーを観ているだけでもかなり面白い。観客用のキューブ状のスツールにはスーツと連動した振動が伝わり、プレイヤーと観客の間では、まるでクラブで踊り倒しているときのような一体感があった。ゲームをプレイすることがまるで音楽や映像を奏でていることのようで、プレイヤーがVJやDJのようにも見える構図だった。ゲーム、音楽、触覚研究、さまざまな分野を更新する、未来のエンターテインメントをぜひ体験してほしい。

写真家とメディアアーティストによる、奇想天外なAR表現

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『Peek-A-Boo』
obx

森タワーの次に向かったのはAXISビルにあるIMA CONCEPT STORE。ここではビジュアル・コミュニケーションのプロフェッショナルが集うアマナのディレクションのもと、写真とテクノロジーの新しい関係性を提案する2作品が鑑賞できる。(現在展示終了)

そのひとつが『Peek-A-Boo』。写真家の濱田祐史、Matilde、roomf(amana)のユニットによる、写真とAR(拡張現実)のコラボレーション作品だ。

「今回のアウトプットは『本』という形です。僕らは昔からARの作品を作っていたのですが、今回のフォトブックは写真集であると同時に、1ページ1ページすべてにARの仕掛けがあり、写真自体をマーカーとしてアプリで読み込めるものになっています。ARアプリはAppStoreからダウンロードできますし、会場で貸出もしています。写真家の濱田祐史さんと一緒に『この写真だったらこのインタラクションで』と写真文脈での面白さを考えて、アイデアを話しながら制作しました。僕のほうから技術的にアイデアを投げることもあれば、濱田さんの側からこういうことできる?と提案されることもあります」

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実際に展示されている写真にiPhoneをかざすと、予想もしていなかったような「もうひとつの世界」が現れる。たとえば、窓を写した写真にiPhoneかざすと違う場所の風景がランダムに出現。窓の写真は大阪で撮影したものだが、向こう側に見える風景はヨーロッパで撮影した動画だったり、スイスで撮影した馬、日本の猫など、さまざまな場所が混在しているという。「ピンぼけする写真」というものもあった。通常iPhoneで写真を撮るときはフォーカスを当てる対象を触るとピントが合うが、これは逆に「見えなくしてしまう」というものだ。何が飛び出るかわからない楽しさがあり、一枚一枚見ていくのが非常にワクワクした。どこかゲームのようでもある。

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「いっときのARブームは落ち着きましたが、ARはまだまだ新しいことができます。最近のARは認識の精度が上がっているし、スマホ側のセンサーを連動すれば、スマホの回転や輝度などの組み合わせ次第で、無尽蔵に面白くすることができます。今回、違うジャンルの者同士がコラボすることで、お互いに新しい発見がありました」

AR表現と写真。近いようで意外と組み合わさることのなかったコラボレーションだ。obxの奇想天外なアイデアの掛け合いからは、スケボーカルチャー的な軽やかさ(もしくはコンビ芸人のネタ出しのような一体感)を感じる。「鑑賞者に反応する写真」という新たな体験は、「見る」という行為の意味を新たに問いかけるものだった。

ピクセル・フェティシズム。最もミニマルな写真の単位の再発見

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『RGB』
FIG LAB / Toru Yokoyama

次に観覧したのが『RGB』。同じIMAの展示作品でありながら、『Peek-A-Boo』とは好対照をなす作品だ。(現在展示終了) 3枚の正方形のディスプレイが並ぶミニマルな展示空間。それぞれのディスプレイは構造が違っており、一番左の画面にはInstagramから「#DOG」など特定のハッシュタグで抽出した画像が表示され、画面内には1ピクセル×1ピクセルの小さな赤いドットが一定のスピートで写真をスキャンし続けている。1枚の画像をスキャンするのに12時間ほどかかるため、1日に2枚のペースで絵がかわる仕組みになっているという。真ん中のディスプレイには、左側で取得したピクセルの色が全画面に拡大表示されている。ここにはカメラ付きのデバイスがついていて、画面の色を読み取っているのだそう。そして、カメラで読み取ったデータを右側のディスプレイで再構築するのだが、中央のカメラとディスプレイの間にある光や天気などの要素によって再出力される色味が微妙に変わる。デジタル→アナログ、アナログ→デジタル、という不思議な変換がある。

作者の横山徹氏はIAMAS(情報科学芸術大学院大学)出身。大学院時代から現在所属しているFIG LABにおいての業務でも一貫してプロトタイピングメソッドを実行しており、「アイデアを出してすぐ作る」というスタンスで開発しているそうだ。それのアイデアが本当に使えるのかどうかは、とにかく手を動かしてから決める。まずはトライアンドエラーをする、ということらしい。

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「インターネットは僕の中でものすごく大きな存在で。人間と機械がハイブリッドになってる側面がすごく面白いなと思っているんです。僕たちはウェブで検索するときに、『からだ 痛い』とか、機械にわかりやすいように翻訳するということを無意識にやっていますよね。では、機械的に写真を見れないだろうか? ウェブではGoogleにわかりやすいように検索語を入力するのが、視覚的にも反映されていくんじゃないか?という疑問からこの作品が出発しました。僕は機械のために作品をつくっています。機械的な思想こそが重要だと思っているから、機械の言葉に人間が合わせる世界を夢見ています。今回だと最終的に機械じゃなくて人間に見せなきゃいけないので今の形になっているんですが、むしろ本当は左の2枚だけでいいんです。もしも機械に適合した人間だったら、真ん中のディスプレイで拡大されたピクセルを読み取って犬だってわかるかも。今後20年ぐらいで、人間の身体や認知が機械の側にフィットしていくかもしれませんよね」

ミニマルな展示設計の裏側にあふれるフェティッシュかつマニアックなコンセプトに興奮した。個人的にはこのように自動生成された絵が売られたら面白いと感じた。デジタルデータだが、場所性も介入しているから「一点もの」になる。デジタルデータにアナログな場所性を介在させることによる作用が、ジワジワと思考をかき回す作品だった。

見たことのない心象風景をつくりだす、光の雨

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『White Rain for LEXUS』
Takahiro Matsuo(LUCENT)

この日最後に向かったのが「INTERSECT BY LEXUS-TOKYO」。ここでは雨の中を疾走するレクサスからインスパイアされた参加型のライティングインスタレーション『White Rain for LEXUS』が観覧できる。アーティストの松尾高弘氏はLUCENTを主催し、世界各国のアート展、パブリックスペースのインスタレーション、商空間のインタクティブアート、ラグジュアリーブランドのためのアートワークなどを手がけている。

「今回の作品ではLEDを制御して光の雨を作りました。車のドライブ中の体験からインスピレーションを得た作品です。車でドライブしているときに空気中に雨がふる。その雨が光の雨で、通常は重力に従うはずの雨が上に昇っていったらどうなるか?という風景のイメージから着想しています。僕は具体的な機能性というよりは、環境が予想もつかない形で変化する驚きや感動を作りたくて。車体のカーブに光があたったときの美しさも重視しながら、空間と光、照明、映像、人のインタラクションを総合的に演出しました」

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展示会場であるカフェの奥には光の雨に囲まれたLEXUSの車体が鎮座し、空中に浮かぶホログラムディスプレイを触ると、車を取り囲む光の雨が重力をこえて天へと昇っていく。車のフォルムに反射する光が美しい、幻想的な体験だ。

「自分の作家性と企業のアイデンティティをうまく融合させると、自分だけの領域じゃない表現になるから面白いです。『White Rain』も、元々はアートギャラリーで発表したアート作品でした。そこに雨が降るインタラクションに加えて、ホログラムのシステムを今回のために制作した形です。僕は何かの要素を主体として押し出すよりは全体的な調和を重んじるので、アナログとデジタル含めたすべての要素を集積してひとつの形にしています。テクノロジーもキーファクターですが、あくまで総合的な体験をつくりたいと思っています。商品は商品できれいにみせたいし、作品としても成立させたい。全体を調和させて、体験として楽しいことが大事なんです」

アートと商業インスタレーションを融合させながら高度に両立させている松尾氏。さまざまなビッグネーム企業から引っ張りだこな理由がわかった気がした。会場のカフェではおいしいドリンクも注文できるため、展示会場で光の雨をボーーーッと眺めながら、ゆっくりと休憩するのもおすすめだ。


以上、前後編にわたってMedia Ambition Tokyo 2016の作品や出展作家のコメントをお届けした。多拠点にわたる魅力的な作品やイベントを辿りながら、東京という街の魅力を再発見するようなイベントだった。開催期間は3月21日(月)まで(INTERSECT BY LEXUS-TOKYOは3月25日(金)まで)。前後編で紹介したのは全体の一部で、魅力的な作品がまだまだあるので3連休のどこかをゆっくりと使って、テクノロジーの都市実装の形を見てみてはいかがだろうか。

Media Ambition Tokyo 2016


開催期間:2016年02月26日(金)~2016年03月21日(月)
入場料:一般当日1,800円、一般前売り1,500円(東京シティビュー入場料)
チケット販売:peatix(会場によって異なる)

会場:六本木ヒルズ 他 都内各所
http://mediaambitiontokyo.jp/


市原えつこ

アーティスト。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。学生時代より、日本特有のカルチャーとテクノロジーを掛け合わせたデバイス、インスタレーション、パフォーマンス作品の制作を行う。主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラインターフェース》、虚構の美女と触れ合えるシステム《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》、死後49日の間に故人と擬似共生できるロボット《デジタルシャーマン・プロジェクト》等がある。2014年《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》で文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出。

『Light of Birth』
Photo: Koki Nagahama / © 2016 Getty Images



TEXT BY ETSUKO ICHIHARA
PHOTO BY DAISUKE SUZUKI
EDITING BY KEISUKE TAJIRI