Life Shift

2016.03.11

【前編】市原えつこが行く、アート&テクノロジーの実験場「Media Ambition Tokyo」

最先端のテクノロジー・アートを都市へ実装する、実験的なカルチャーイベント、Media Ambition Tokyo 2016(以下、MAT)が2月26日〜3月21日まで開催中。例年、その年の旬な作家が集うイベントとして大きな盛り上がりを見せていたが、4回目の開催となる今年は規模を大幅に拡大し、六本木を中心とした合計13会場での展示、トーク、ライブ、イベントなど目白押しだ。ひとつの展示やイベントというよりは、「六本木アートナイト」や「ミラノ・サローネ」のように都市全体を巻き込んだテクノロジー・アートのフェスティバルの様相を成してきている本年のMAT、その見どころや出展作家の生の声を、アーティスト市原えつこ氏が前後編にわたってお届け。


脳波で都市を支配する!? 身体と建築をライゾマがハック

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『SPACE EXPERIMENT #001, 002, 003』
Rhizomatiks Architecture

まずはメイン会場の森タワー52F、東京シティビューへ。こちらの会場ではアーティストと企業による都市実験の場、「MAT LAB」が展開されている。入ってすぐのスペースを埋めるのが、Rhizomatiks Architectureによる三部作、『SPACE EXPERIMENT #001, 002, 003』。多彩なプロジェクトを手掛けるライゾマティクスの中でも、建築デザイン出身であるクリエイティブ・ディレクターの齋藤精一氏を筆頭に、テクノロジーと身体と空間の関係を再構築するような試みを行っている部門だという。

『#001 Minded Mirror』は人間の脳波と建築が接続する作品。頭に脳波を読み取るデバイスを装着し、地上52階の景色を眺めながら「集中」すると、ミラーでできた大きな構造物が、ゆっくりと閉じていく。体験してみると、心の中が建築として可視化されて周囲に伝わってしまうようで、不思議な恥ずかしさがこみあげた。それと同時に、自分の意思が物理的な世界をダイナミックに動かせる全能感も湧いてくる。『#002 Sensed Visual』は人間の平衡感覚をあやつる空間が体験できる。ジャイロセンサーを搭載したメガネ「JINS MEME」で取得した人の傾きに合わせて、キネティックな映像空間が変化していく(けっこう酔う)。『#003 Throat (α:αi)』では人間の口腔器官が空間インスタレーションとして再現されており、「口」を表現した輪を人間の唇のように変形させることで、「喉」部分から生成される声が「あ」→「い」のように変化していく。

#001 #002 #003と連番がふられている作品タイトル。開発を手がけたプログラマーの元木龍也氏、細野隆仁氏いわく「最終的に#100まで制作するのが目標。だから3ケタのナンバリングにしているんです」とのことだ。おそろしい野心と意欲……! 人間の身体、テクノロジー、建築の連動から生まれるライゾマの新たなクリエーションが待ち遠しくなる展示だった。

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ここにいる私は本当に私?『The Mirror』が誘う異界の扉

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『The Mirror』
Naotaka Fujii + GRINDER-MAN + EVALA

2015年に熊本市現代美術館で展示された『The Mirror』がMATに降臨。個人的に非常に楽しみにしていた作品だ。脳科学者の藤井直敬氏、パフォーマンス集団のGRINDER-MAN、音楽家のEVALA氏という各分野のプロフェッショナルたちのコラボレーションにより生まれた実験的作品。

自分を映し出す大きな鏡の前で、体験者はヘッドマウントディスプレイを被ったあと、ダンサーの伊豆牧子氏に導かれながら「ここではないどこか」を次々とワープすることになる。幽体離脱のようにあやふやになった現実感を、ときおり目の前に現れる自分自身の姿で確かめようとするのだが、鏡に映った自分の姿すら虚像に思えてきてしまう。目の前にいる私は本当に私なのだろうか? 目の前でダンスするパフォーマーの息遣い、存在感が生々しく伝わってくる。彼女は今、目の前にいるのだろうか、いないのだろうか?「いま、ここ」にいるはずの自分の感覚が曖昧になり、時空間から宙吊りにされるような心細さがあった。EVALA氏による緊迫感のある音楽もあいまって、心理的にジワジワと追いつめられていく。

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一体あの体験はなんだったのか? 体験後、演出家のタグチヒトシ氏、ダンサー・振付家の伊豆牧子氏に話を伺った。

「僕はダンス畑で活動していることもあり、体験者が結果的に『自分自身がここにいる』ことを再認識するのを目的として設計しました。身体感覚をとぎすませて、お客さんに新しい感覚を得てほしい。だから、生っぽさや皮膚感覚を大事に演出しています。この作品はバーチャルな映像と目の前の現実、という2つのタイムラインがあるんですが、バーチャルの世界を楽しいと感じさせるためには、逆に現実を認識させる必要がある。そのため、自分自身がここにいるということを認識させる演出を要所要所でいれました。普段のパフォーマンスは数百人なり数千人なりのお客さんに同時に見せるけど、『The Mirror』では作品とお客さんが一対一のガチンコ勝負。ヘッドマウントディスプレイを被るし、耳も塞ぐ。その状態だからこそお客さんにできることをいろいろ実験するのが面白いです。作品は一度に一人しか体験できないけど、それを見ている周りの人がどう楽しめるか、という設計もしています」

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一般的なVRコンテンツ提供者は体験者をバーチャルな世界に完全没入させようとするが、「自分自身がここにいることを認識させる」という切り口は身体表現のプロであるタグチ氏が手がけた演出ならでは。ダンサーの伊豆牧子氏の幽霊のような存在感も忘れがたい。最先端のテクノロジーを媒介にしながらも、皮膚感覚や生っぽさが印象に残る、不思議な体験だった。


テクノロジーと倫理の問題を、美しい未来として物語化

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『The (anywhere) syndrome / earth hole』
EUGENE KANGAWA

独自のテクノロジー観の作品により異彩を放っていたのが、今回最年少でMATに出展したEUGENE KANGAWA(寒川裕人)氏。89年生まれ、平成生まれのアーティストだ。今回は2作品を展示しており、そのひとつが『The (anywhere) syndrome / earth hole』。『チャイナ・シンドローム』という原子力をテーマにした映画がある。これは、もしアメリカの原子力発電所でメルトダウンが起きたら、融けた燃料が重力に引かれて地面を溶かし、最終的には反対側の中国まで届くというブラックジョークをモチーフにしたもので、KANGAWA氏はそれを脚本のベースに置いて『もしも日本に穴が開いたら、そこからはブラジルの空が見える』という作品を制作。センシティブな問題にモロに接触する展示コンセプトだが、それに反して作品は叙情的でメルヘンな空気につつまれているギャップに面食らう。美しい草原の中にぽっかりと浮かぶ青い空。まるで退廃的で美しい童話を見ているかのようだ。

KANGAWA氏いわく、彼は社会問題を暗く描写して『原子力の恐ろしさが云々』と主張するのではなく、起きてしまった問題に対してどうやって共存するのか、ということを物語的に表現していきたいのだという。善悪を取り除いてあるがままに表現するのは、アートにしか許されないことだと語る。

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善悪、正義のジャッジを超え、そこにある事実を柔らかく表現するスタイルは、社会問題に対するアートの向き合い方として非常に有効だと感じた(スペキュラティブ・デザインのアプローチにも近いのかもしれない)。私はこれを失敗してしばしば炎上するため、KANGAWA氏のナラティブなアプローチを参考にしたい。ちなみにKANGAWA氏は、この作品のために本当にブラジルへ空を撮影に行ったとのこと。スマートな物腰の裏側にあるガッツに驚かされる。

彼は、映像作家やアーティストとしての活動をベースにしつつ「EUGENE KANGAWA STUDIO」というシンクタンクに所属し、様々な社会実験を行っている。本展では、アウトドアブランドTHE NORTH FACEとバイオベンチャー、スパイバーとの共同研究で開発された、人工合成クモ糸でつくられた繊維を用いたコート『MOON PARKA』と、EUGENE氏が両者のフィロソフィービジュアルとして手がけた白黒の映像作品『SANSUI』も併設展示されている。MATでは最終的な成果物のみならず、思考実験の過程としてのドローイングも展示されている。くまなく展示を観察し、アーティストの頭の中を覗いてみるのもおすすめだ。

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ファッションテックの真打ち登場!?優美なウェアラブル

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『FABOLOGY』
Olga(Etw.Vonneguet)

コクーンのような、月のような丸い空間に浮かび上がる、美しく光るドレス『FABOLOGY』。これを手がけたのはデジタルとファッションの新しい関係を作り出し、3Dモデリングから洋服をデザインする異色のファッションデザイナーOlga氏だ。セメダイン社が開発した電気を通す接着剤を使用し、布のしなやかさを保ったまま電子回路を描くという画期的な技術を用いた作品。なんと合計2400個のLEDが搭載されているという。Apple Watchをはじめ、一般的なウェアラブルデバイスはメカっぽさや未来的なフォルムを感じる見た目のものが多いが、Olga氏のデザインしたLEDドレスはオーガニックで女性的な美しさが損なわれることなく、テクノロジーと自然に一体化しているのが特徴だ。

「電子回路のメタリックな模様だけだと印象が強くなりすぎるので、前面にやわらかいテキスタイルの素材をかぶせて、ドレスの与える印象を柔らかくデザインしています」とのこと。テクノロジーを前面に押し出しすぎることなく全体的な調和感を重んじる、世界観のビジュアルプロデュース力に脱帽した。

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ちなみに彼女が手がけるファッションブランド『Etw.Vonneguet(エトヴァス・ボネゲ)』のショップが、渋谷PARCOパート1に先日オープンしたばかり。アートとリアルクローズの両面からファッションの可能性に挑戦する彼女、今後の展開に目が離せない。


東京の夜景を更新するジェネラティブ・アート

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『the view[for LEXUS LF-LC] 』
Norimichi Hirakawa X LEXUS

ぜひとも、夜の時間帯に見ていただきたい作品がこちら。プログラミングによるリアルタイム処理を用いた映像音響インスタレーションで国内外の賞を受賞している平川紀道氏の作品で、ミラノ・サローネにおけるLEXUSのインスタレーションのために書いた映像プログラムを再構成したものだという。地平線をモチーフに、街や道路といった人工物や、山河、断崖といった自然の造形を思わせる景色が現れ、抽象的な構造物の世界を疾走するような鑑賞体験が得られる。LEXUSの車体とインスタレーションの一体感もさることながら、後ろを振り返ると、シティビューに広がる東京の夜景と、窓ガラスに反射したプログラムが織りなす幾何学的な地平線とが同化し、「なんじゃこりゃーーー!」と雄叫びを上げたくなるような美しい光景が広がっている。バーチャルな地平線と本物の地平線とが融合し、これはもはや新種の拡張現実では!?という気持ちにすらなってくる。展示空間設計の妙に、感動した作品だった。


「Ambition=野望」。展示タイトルの通り、MATでは様々なメディアを昇華した野心的な取り組みが続々と紹介されていた。テクノロジーを利用した先端表現は消費され続けながらも、アーティストや企業を巻き込むことでさらなる可能性が拡張していくのだ。レガシーとされる技術にも新たな発想や挑戦を吹き込むことで、ふたたび息を吹き返す。表現、テクノロジー、思想設計、あらゆる側面において「野心的」な注目の作品郡が一堂に会するMedia Ambition Tokyo。今年の技術や表現の動向が詰まったこのイベントを逃す手はないだろう。本稿で紹介した、六本木ヒルズ森タワー52Fのメイン会場は夜22時までオープンしているため、仕事帰りに東京の夜景とともに作品を制覇し、刺激を得るのもおすすめだ。

【後編】へ続く。


Media Ambition Tokyo 2016
開催期間:2016年02月26日(金)~2016年03月21日(月)
入場料:一般当日1,800円、一般前売り1,500円(東京シティビュー入場料)
チケット販売:peatix(会場によって異なる)

会場:六本木ヒルズ 他 都内各所
http://mediaambitiontokyo.jp/


市原えつこ

アーティスト。1988年、愛知県生まれ。早稲田大学文化構想学部表象メディア論系卒業。学生時代より、日本特有のカルチャーとテクノロジーを掛け合わせたデバイス、インスタレーション、パフォーマンス作品の制作を行う。主な作品に、大根が艶かしく喘ぐデバイス《セクハラインターフェース》、虚構の美女と触れ合えるシステム《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》、死後49日の間に故人と擬似共生できるロボット《デジタルシャーマン・プロジェクト》等がある。2014年《妄想と現実を代替するシステムSRxSI》で文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門審査委員会推薦作品に選出。


『The (anywhere) syndrome / earth hole』
Photo: Koki Nagahama / © 2016 Getty Images


TEXT BY ETSUKO ICHIHARA
PHOTO BY DAISUKE SUZUKI
EDITING BY KEISUKE TAJIRI