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Life Shift

2016.02.05

自然科学の神秘をアートに変える。万物の法則で1,000年先まで残る作品に

2月13日〜14日にデザイン、アート、テクノロジーに特化したカンファレンス&セミナー「FITC Tokyo 2016」が開催される。7回目を迎える今回の舞台は一橋大学一橋ホール。世界の各都市を巡回するこのイベントは、世界で活躍するデジタルクリエイターらが一堂に介し、プレゼンテーションが行われる。そこに、日本人として紅一点、スピーカーとして参加する清水陽子氏の存在に注目して欲しい。「科学と芸術の融合」をテーマに、国内外で作品を意欲的に発表する現代美術作家だ。

サイエンスとアートが融合すれば、「難しい」から「面白い」に

訪れるやいなや、目に入ってきたのは所狭しと並べられた作品の数々。白衣を身にまとった清水氏は「とにかくこれを触ってみてください!」と作品の説明よりも先に体験を促した。まずは彼女の作品をいくつかご覧いただこう。

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白梅の盆栽に染料をまぜあわせた点滴を打ち、花びらを青く染め上げた作品。DNA操作や天然ではまだ出せない色を、生きている状態で、かつ植物にとって自然に出せるかを試している。何世紀も古い文献にも同じように植物に注入する手法が残っているとか。

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光合成により植物にグラフィック印刷を行う作品「Photosynthegraph(フォトシンセグラフ)」。植物が日々行っている光合成に着目し、文字やパターンが印刷されたフィルムを取り付けて育成。特殊な処理を施すと、ネガポジ反転の原理で葉に絵柄が写しだされる仕組みだ。

彼女の作品にはどれも科学反応や植物がモチーフとして使われている。「細胞分裂とか、複雑な形に生き物が変化していくのってキレイですよね。そんな世の中に存在する美しい自然現象や科学的な法則を世界中の人たちにもっと知ってもらいたいんです。ですが起きた現象がそのままでは伝わりにくかったり、わかりにくいことがあります。そこでアートとして作品で表現することで、科学の魅力を最大限に引き出さすことができるんです」と清水氏は作家活動の理由を語った。幼少期にニューヨークに住んでいた彼女は、街で出会ったアートや、あふれる植物との触れ合いから、作家になることを決意。そこで自然の原理を利用した作品をつくるためには科学の知識が必要だと感じ、日本の大学では生物化学を学ぶ道へと進んだ。

「生物化学では、DNAを操作して任意の機能をもたせることもできますが、それによって生き物が死んでしまうこともあります。実はそこに対して昔から疑問がありました。もともと生き物が好きということもあって、実験で使われる動物に愛着が湧いてしまうんです。なので植物に対しても急な刺激を与えるのではなく、自然の流れに沿って、じっくりと時間をかけていきたいと考えるようになりました」

魚類が地球に誕生してから陸にあがるまでに1億年以上かかったといわれているように、長いスパンで作品の経過を見ていきたいという清水氏。「もちろん、自分一世代では生物を進化させることはできないけど、そのわずかな変化を見逃さないようにしたいです」。

その後、彼女は作家として活動し始めるも、周囲からは作品が理解されない日々が続いた。特に日本では、科学と芸術は別のものとして扱わることがほとんどだ。ある科学的な現象が芸術的だと表現されることはあっても、芸術作品としてアートの文脈に乗ることは極めて稀だ。そこで彼女は拠点を海外に移すことに。するとそのコンセプトが受け入れられ次第に作品への理解者があつまり、いまでは国内外で作品発表やワークショップ、公演などを行っている。


過去、今、未来をつなぐ普遍的な美しさ

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「空気、重力、光…と、普段生活しているだけでも不思議なことがたくさんある」と清水氏はいう。彼女の発想のタネは一体どういうところにあるのだろうか。

「扱いたいと思っているのは人工的なテクノロジーではなく、宇宙の誕生から続く、万物の普遍的な法則なんです。自分が生まれる前からある現象は、自分が死んだあとも消えることなく永遠に続いていきます。いま最先端といわれている技術は、明日になれば過去の産物になっているかもしれませんし、モノやコトは過ぎ去ってしまいますが、宇宙が作り出した法則はいつの時代も変わることはありません。作品も同じように100年、1,000年という単位で、美しさの衰えることのないものにしていきたいです」

起こる現象を人間が必ず再現できたり、コントロールできるかというとそうではない。完全に解き明かすことのできない、人間の叡智を越えたところに惹かれるのだという。
「疑問に思ったことを過去の古い文献で調べていると、私と同じようなことを思った人がいるんです。当時答えがでなかったことを探っていくのも面白いですね」

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「Soap Bubble Geometry」は、シャボンで幾何学立体を生み出すことができる体験型インスタレーション。ワイヤーの先につけられた正四面体を、シャボン液の入った容器に沈めてゆっくり引き上げる。それを何度か繰り返すと、正四面体の中にさらに小さな正四面体ができあがる。実際に体験してみるとなかなか難しく、思わず何度もやってみたくなる作品だ。

「この作品は特に子供に大人気です。人は初めて見たことに対して感動しますよね。私は人が何か発見したときに、感動する瞬間の表情が何よりも好きなんです。ひらめく瞬間というか。『わぁ!』っと驚いたあとは、『これはどういうことだろう?』と疑問が生まれ、『こういうことじゃない?』と考え始めて。自然との対話が生まれるんです。そもそも人はホモサピエンス(賢い人間)といわれるだけあって、強い好奇心に満ちあふれています。ですが、そういった現象を論文や教科書のようにきっちり書き留められると、つい小難しくなり、一部の人のものになってしまいます。私はそうではなく、多くの人に知ってほしいし、親しんで欲しいし、自ら知りたいと思ってもらえるような、クリエイティブな思考が生まれる瞬間を生み出したいんです」


エジソンが発明したコレクティブ・ジーニアスのラボをつくる

「やりたいことは本当にたくさんあって、自分のクローンをつくって全部のプロジェクトを一気にやりたいくらい(笑)。科学を広めていくためにはアートやデザインなど、クリエイティブな力が必要です。今は専門の、もしくは近い分野があつまるラボというのは多く存在しますが、科学者とデザイナーが、個人レベルで共に研究開発するような施設はほとんどありません。エジソンは電球や蓄音機を発明したことで知られていますが、もうひとつ大きな発明がありました。それは世界初の「R&Dラボ」(Research & Development Laboratory:研究開発施設)をつくったことです。新しいアイデアを実現するために、個々の能力を最大限に発揮させる、コレクティブ・ジーニアス(集合天才)の思想を発明したのです。それと同じように、異業種が集まるオープンラボをつくり、展示や体験、実験途中の様子を見られるようにして、科学と芸術の魅力を伝えていきたいと思っています。今年、来年に立ち上げを目指しています」

とにかくやりたいことに満ちあふれている清水氏。ただ、どんな話になっても彼女の芯は、科学や芸術を人々の財産にしていきたいというところからぶれることはない。

「今後はもっと多くの科学館、博物館ともコラボレーションしていきたいと思っています。ホワイトスペースのギャラリーのように特定の人が行くような場所だけではなくて、活気があって、一般に開かれている場所で活動していきたいです。どうしても科学や現代美術を難解に思う人は多いですが、本来、科学的な法則や美しいものをみる体験や経験はみんなしているはずなんです。だから、わかりやすい企画を考えて、自分がメディアとなって発信していくことで、親しみやすさをアピールできると思っています。私は科学と芸術の中間にいます。このポジションだからこそ、分野の垣根をこえて自由に色んな人と一緒に面白いことができます。そして、その技術や発見を自分のなかだけに留めるのではなく、科学と芸術のクリエイティビティを育成のために常に発信し続けていきます」


清水陽子

幼少時代をアメリカで過ごし、NY のアートに感銘を受ける。神戸大学で生物化学を学んだ後、制作会社におけるクリエイティブ・ディレクターとしてキャリアをスタート。現在はアートと科学を融合したインスタレーションを企画制作し、日本および海外で発表している。国際放送局で洋楽とアートの番組を担当し、メディアを通じてアートシーンの活性化に貢献する活動も展開。2012年には芸術文化の分野において、その向上発展に貢献し、業績が顕著なことが評価され、芸術文化選奨文化新人賞を受賞。科学とアートのコラボレーションを推進するラボ「+1e」を立ち上げ活動している。


PHOTO BY TAKASHI SUGA
TEXT BY NANANA KANMURI
EDITING BY KEISUKE TAJIRI