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Life Shift

2016.02.10

【対談】竹内秀明准教授×はあちゅうメダカの“恋愛スイッチ”の解明はヒトの恋にも応用できる?

「どうして好きになったのか」「なぜあの人じゃなくてはダメなのか」、「恋」はあらゆる創作物における不滅のテーマ。もし今、科学の力で“恋に落ちる仕組み”が解明されてしまったら、世の中で名曲と言われる歌のどれほどが、意味をなさなくなるのだろう…。今回は、メダカの恋のスイッチを解明した岡山大学竹内秀明准教授と、ヒトにおける恋愛コラムの名手・作家はあちゅう氏に対談してもらった。メダカとヒト、恋のメカニズムに迫る!

メダカはこうして“恋に落ちる”

はあちゅう: 竹内先生のチームは、そもそもなんで“メダカの恋愛”を研究しようと思ったのですか?

竹内: もともと“メダカの恋愛”を研究対象にするつもりはなかったんですよ。私たちはメダカの社会性行動を研究していたんです。
というのも、以前は自分とは別の個体と出会った時に、相手との社会関係を理解し、それに応じた行動をするというのは、非常に高度な行動で、魚類にはそのような能力がないと言われていました。そのため、ヒトやサルを中心に研究が進んでいたんです。ただ、14、5年前から行動生態学を研究している研究者の間で、実は魚も相手を認識し記憶していて、自分の行動を決めているんじゃないかと言われて始めました。そこでメダカとヒト、どこまで同じでどこが違うのかを調べようとしたんです。

はあちゅう: 今回、発見されたメダカが恋に落ちるのに、必要なことってなんですか?

竹内: 「お見合い」をさせておくことなんです。事前にオスを透明のビーカーに入れて、メスの水槽の外に置きます。メスからオスが見える状態をつくる、これを私たちは「お見合い」と言っています。で、この状態のまま一晩置くんです。
まずは、メダカの性行動についてからお話しますね。メダカのメスの性周期は1日で、毎日毎日卵を産むことができるんです。朝になると卵を産む準備が整うのですが、その状態でオスを放つと、オスはメスに近づいて行って、まずアプローチをします。近くに行って前を泳ぎ、求愛ダンスを踊るんです。で、タイミングを見て、メスに抱きつくんですが、この時にメスがそのオスを気に入ると、それを拒否しないんです。その後、オスが尻ヒレでメスに刺激を与えるとそこで卵を産み、オスが卵に放精する。これでカップルが成立です。
今回わかったのは、事前にオスとメスのメダカを「お見合い」をさせておくと、このカップル成立がすんなり行くってことなんです。で、逆に「お見合い」させておかないと、抱きついた時にメスが逃げ出す確率が高くなるんです。

はあちゅう: 水槽が別ってことは、「嗅覚」ではなく「視覚」で認識しているということですよね?メダカってそんなに目がいいんでしょうか?

竹内: ヒトは赤青緑の3色の組み合わせで世界を見ているんですが、メダカは8色の組み合わせで見ていると言われています。だから、ヒトでは区別がつかないような色の違いもメダカにはわかるのではないかと考えられています。

はあちゅう: すごくカラフルな世界に生きているんですね。

竹内: そうなんですよ。
また、今回の研究で「お見合い」することによって活性化するニューロン(生物の脳を構成する神経細胞)も見つけたんです。オスを一晩中、見続けておそらく恋に落ちた状態になったメスは、まるで心臓がドキドキするように、そのGnRH3ニューロンがドキドキしてるんです。だから、そのメスが恋をしていたか、してなかったかは、脳を見ればわかる。恋の「記憶の痕跡」が残っているんですね。

はあちゅう: 本当ですか! 将来、脳からそういった情報をうまく取り出して映像化できたりとかできるかもしれないですね。先生、ところで、メダカのように、「お見合い」が恋のスイッチになるような動物って他にもいるんですか?

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竹内: 見知った相手をパートナーに選ぶという行動をする動物は、動物界では少ないです。むしろ、見知らぬ個体の中から積極的に選んで行った方が、効率よく自分の遺伝子を残せますからね。

はあちゅう: 人間もそっちに入るんですか?

竹内: 人間は複雑ですね。パートナーを選ぶスタイルは、行動生物学的にみると、子孫を残すのにどういう方法が有利かということが関係しているんです。特定のパートナーと絆を強めて子育てをした場合と、できるだけ多くのパートナーと子どもを作った場合、どちらがたくさんの子どもを残すことができるのかということなんです。ヒトの場合、両方の要素があったと思うんです。だから、見知った個体を選ぶメリットと、見知らぬ個体を選ぶメリットとを計算しながら選ばなければならない。

元彼を忘れるのに必要な時間は…

はあちゅう: 「お見合い」にはどれくらいの時間が必要なんですか?

竹内: 3時間ですね。その代わり、1日で忘れます。

はあちゅう: え!人間だったら、別れた相手を忘れるのに数年、下手したら10年覚えてたりするものですが…。

竹内: 実は、忘れるっていうのは意外と大切なことで、積極的に忘れた方がメダカにとってはいいんです。毎日毎日卵を産むので、その時その時でベストな相手を選ぶ方が条件的にいい。

はあちゅう: なるほど、最初に強いオスを見初めても、次の日にもっと強いオスが現れるかもしれないですもんね。

竹内: まさにそうなんです。どんなに好きでも、次の日には病気になっちゃうかもしれないですし。ただ、メダカは生涯で数えきれないほどの卵を産みますけど、ヒトの場合、多くても4~5人くらいですよね。だから、ヒトの方が相手を選ぶのに慎重になるのは仕方ないかもしれませんね。

はあちゅう: メダカの世界だと、オスっていうのは、魅力が「生まれ持っての強さ」、その一点に絞られちゃいますよね。でも、人間だと、力以外の他の条件で勝負することもできるから、人間の方がいいかもしれませんね(笑)。

竹内: ただ、メダカでも、カップルの後ろからそっと忍び寄って行くやつもいるんです。影に隠れていて身を潜めて、カップルのオスが射精する前の卵に放精しちゃう、そういうやつがいるんです。

はあちゅう: それって人間でいうと、女の子がちょっと弱っている時にずっと彼氏の愚痴を聞いてあげて、最後は自分が持っていっちゃうみたいな感じでしょうか? オイシイところを持っていく、みたいな。

竹内: もっとズルいかもしれませんね(笑)。

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メダカに悩みがない訳、ヒトが悩む理由

はあちゅう: メダカのメスって一生恋をするんですか?

竹内: いえ、年を取るとGnRH3ニューロンがドキドキしなくなります。つまり、恋をしなくなるんです。

はあちゅう: そこは人間と違いますね。人間は子どもを産めなくなっても、誰かのことを好きになりますからね。

竹内: 脳と体のシステムは切り離せるっていうのが、ヒトの特徴かもしれませんね。

はあちゅう: こう聞いていると、メダカって、生きるために生きているって感じがします。ヒトの場合、「なんのために生きているんだろう」って考えてしまいますけど、メダカは何を考えて生きているんですか?

竹内: 「何のために生きているのか」と考えるのが、ヒトのヒトたる所以なんでしょうね。「悩み」が出てくるのは、いろいろな選択肢があって、いろいろ選ばなければいけないという時なんです。選ぶ必要がなければ、悩まなくていいわけですよね。

はあちゅう: メダカは選べないから悩まないってわけですね。

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竹内: あと、もう一つおもしろいことがあるんです。水槽に手が近づいてくるとエサがもらえるとしましょう。それを覚えているメダカと、覚えていないメダカを1つの水槽に混ぜてやると、覚えてないメダカは、覚えているメダカに付いて行くんです。要するに、お昼ごはんに行くときに、美味しい店を知っているやつを覚えてて、そのお店の場所は覚えてないけど、とりあえずそいつが動き出したら付いていこう、みたいな。

はあちゅう: まさにフリーライダーですね。

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竹内: あと、メダカではないんですけど、グッピーなんかはメスがオスを選ぶ時に、モテたオスを、つまり他のメスが選んだオスを選ぶという習性があるんです。 隣り合った3つの水槽を用意して、真ん中の水槽にメスを入れて、その右側の水槽にあまり魅力的ではないオス、左側に魅力的なオスを入れてやります。そうすると、最初は魅力的なオスにメスは寄っていくんです。その次に、魅力的じゃないオスの水槽にメスを入れてやってそこで交配させるんですね。そうすると真ん中の水槽のメスはそれを見て、その元々魅力的じゃなかったオスの方に行くんです。

はあちゅう: それって人間に似てますね。みんなが好きな人を、私も好き、みたいな。

竹内: そうです、そうです。友達の彼氏を好きになっちゃうっていう。そういう感じですね。ここからがまたおもしろいんですけど、その傾向は、年を取ったメスよりも若いメスほど起こる。

はあちゅう: あ~~、経験値が関係してるんですね。経験値が低いメスほど、他の個体の選択に流されやすい。それもまさに人間と一緒ですよね。
先生、メダカをずっと見ていると、めちゃくちゃ動くのと、あまり動かないとか、上の方にばっかりいるのと、ずっと下の方にいるのがいますけど、これはなにが違うんですか?

竹内: それは、「経験」、つまり今まで上の方にいたことでいい思いをした記憶の蓄積なのか、「遺伝」によるものなのかはわかっていないんです。でも、手を近づけるとほら、メダカが逃げますよね?この手の動きを繰り返した時に、2~3回で慣れてしまうものと、40回やっても逃げ続けるものとのキレイに分かれるんです。それって「臆病さ」と関係しているんじゃないかと私たちは考えています。こうして、動物の“個性”とか“性格”を決める遺伝子がわかってくると、将来、遺伝子検査で「この人は怒りっぽい」「この人は浮気する」というのがわかるようになるかもしれないですね。まぁ、そこまで明確にはわからないかもしれないけど、リスク計算みたいなのはできるようになってくるかもしれないです。

“生き物として”のせいにすることで “安心”を得る

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はあちゅう: 竹内先生はメダカと接していて学んだことってありますか?

竹内: 動物を見て「人間的だな」と思うよりも、ヒトを見て「動物的だな」と思う方が楽になると思いますね。自分のイヤな感情とかどうしようもないものを、“自分” のせいではなくて、“生き物として”のせいにできるじゃないですか。そうすると、“解決”はしないけど、“安心”はする、みたいな(笑)。 逆にはあちゅうさんに質問です。メダカの恋とヒトの恋って似てるところはありますか?

はあちゅう: 近くにいる異性を好きになるっていうメダカの習性、人間にもそういうところがあると思います。友達関係が続いて恋に落ちるケースですね。でも、それは「愛」というより「情」に近いかもしれません。長い時間、近くにいることで「絆」を感じるみたいな。でも、やっぱり人間の場合、「恋」が生まれるのは初対面の時が一番多い。初めて会った時が相手への関心が一番高くなりますから。 目の中に入りさえすれば好きになってくれるというメダカの戦法は人間には通じません。

竹内: 人間だと、常に好きな人の視界に入ろうとして、うろうろしてたらストーカーと言われかねませんからね。どうやらこの恋のスイッチ、メダカ限定のようです(笑)。

竹内 秀明

1971年生まれ。岡山大学大学院自然科学研究科・理学部生物学科准教授。専門分野は神経科学、行動生物学、分子生物学。1994年東京大学薬学部卒業、同大学大学院薬学系研究科博士課程修了。同大学院理学系研究科生物科学専攻助手、助教を経て、2015年より現職。


はあちゅう

1986年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。在学中にブログで「世界一周をタダでする」などのプロジェクトを行い、女子大生カリスマブロガーと呼ばれる。2009 年電通入社。2011年に転職し、トレンダーズで美容サービス、動画サービスに関わる。2014年からフリーで活動中。作家活動とともに、テレビ番組でのゲストコメンテーターも務める。最新刊「かわいくおごられて気持ちよくおごる方法」(幻冬舎)が好評発売中。

PHOTO BY TORAZO YAGI
TEXT BY NAHOKO NEGISHI