Life Shift

2015.12.08

埋められる運命の産業廃棄物に命をあたえた「モノ」の救世主

発想はモノから生まれる、をコンセプトに不要となったモノにデザインやアイデアを吹き込み、捨てると使うをつなぐ「モノ:ファクトリー」。廃棄物処理のプロとして、今とこれからの世の中をどのように捉えているのか、業界の異端児として注目を集める、モノ:ファクトリーを運営する株式会社ナカダイの中台澄之常務取締役に話を伺った。

単なる廃棄物処理業者ではない

突然だが、みなさんは大小問わずモノを処分するときに、多少なりとも罪悪感や後ろめたさを感じたことはないだろうか。愛用してきた靴や洋服、使えなくなったベッドなどの粗大ゴミを出すとき、オフィスで働く人であれば、年の瀬の大掃除で出る大量の廃棄物に「不要」のラベルを貼る際に。

大量生産・消費という現代の経済システムのなかで、私たちは多くのモノに囲まれ、「便利や快適」を享受してきた。一方で、消費的暮らしを続けることへの疑問を抱く人も少なくない。それでも、自らの基準で目の前のモノに「不要」のラベルを貼り処分する。誰かがリサイクル・リユースしてくれるという根拠のない想像に「ゴミは宝の山だから」という適当な言い分を付け足して。ゴミを捨てるときの違和感はそんなところからくるのだろう。

ただ、これからはモノとの付き合い方そのものが変わる時代に突入する。「モノ:ファクトリー」のショールームを訪れて、そんな希望的観測が頭をかすめた。

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モノ:ファクトリーでは、前橋工場で分別・解体された廃棄処理物の展示や販売を行っている。工場には毎日60トンもの廃棄物が運び込まれ、金属類やプラスチックなどのリサイクル率は99.4%を実現している。気が遠くなるような量の廃棄物をどのように管理しているのか、それだけで興味が尽きない。

廃棄物処理業者の経営の醍醐味は、相反する事象のはざまで思考を巡らせ、感覚を研ぎ澄ませていくところにあるという。

「多様な素材のリサイクルを引受ける工場では、効率的にモノを分別・解体する一方で、目の前に流れてくる廃棄物とじっくり向き合い、モノの価値を俯瞰的に見直す非効率的な作業が求められます」と中台氏。本来、廃棄物を処理する作業はモノの価値を再発見する工程ではない。この矛盾を楽しめる感覚を現場社員へいかに浸透させるかが、これまでの課題だったそうだ。

「この業界にくる人たちのなかで、最初から意識が高くてやる気に満ち溢れた社員は稀です。最終的にたどり着いた職場が処理業者という人も少なくありません。確かに汚い・怖いといったイメージが先行する業界ですが、それでも長く続けることで見えてくることもありました」

工場見学や素材を使ったワークショップなど、一般生活者との距離を縮める施策を次々と打ち出し、これまで表舞台にでてこなかった現場に光をあてたことで、社員一人ひとりの意識やモチベーションに変化が現れ始める。そこまで来れば、あとはビジョンや理念を共有することで、自分たちは業界内でも異質な存在であるという認識が浸透していくのに、そう時間はかからなかった。

廃棄物の処理から素材の生産へ

今でこそ業界のなかでは一目置かれる会社へと成長したものの、ここに至るまでにはさまざまな葛藤があった。証券会社の営業から廃棄物処理業界へと転職した中台氏は、廃棄物処理業者ならではの矛盾に直面したという。

日々のくらしから廃棄されるゴミの量を減らすことは、地球環境への負荷を低減することにつながる ― これが私たちのもつ一般的な認識だろう。しかし、廃棄物の“量”そのものがビジネスの行方を左右するこの業界では、ゴミの軽減は本業に大きな打撃を与える。中台氏自身、組織の役員としてその矛盾に頭を悩ませてきた。

「入社してから、取り扱う廃棄物の量は自分が増やしてきました。それにより会社の収益は上がりましたが、とにかく集めるだけのやり方に疑問を感じていたのも事実です。取引先に対して廃棄物処理のノウハウを提案すると、実際にゴミの量が減って達成感がありますが、一方で経営面から見て正しいとはいえません。次第にその矛盾に違和感を覚えはじめ、量ではなく質で勝負していくべきだと考えるようになりました」

そうして、モノの価値を再発見し素材を“生産”する業態としてモノ:ファクトリーを立ち上げた。

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廃棄物と聞くと「使用済みのゴミ」を想像するかもしれないが、意外にも未使用の状態で破棄されるモノも多い。物流業者が運搬時に使用するパレットやフィルム、日用品に使われるシャンプーや化粧品ボトルのキャップなどは、工場に眠ったまま日の目を見ずに処分されることもあるのだ。そういったものにも目を向けると思いがけない使い方があったりするのだ。上の写真にある部品は日常生活で見かけることもあるのだが、どこで使われているかわかるだろうか。左がチャイルドシートのベルトを留めるクリップで、右が糸巻きの芯だ。こういった「何かに使えそう」なモノがショールームで大量に扱われている。

スモールワールドでモノが流通する世の中へ

現場社員の意識変革が生産性向上に寄与し、これまで以上の仕事量を既存の社員数で対応することが可能となった株式会社ナカダイ。高いリサイクル率と素材の高付加価値を同時に実現した。これまでは、取引先からの廃棄物処理費用が売上げの90%を占め、リサイクル後の素材販売による収入は微々たるものだった。今ではこの比率は五分五分となり、ゆくゆくは処理費をもらうことなく、素材販売を主な収益の柱にすることを目指している。

中台氏は、将来のこともしっかりと視野にいれながら経営のタクトを振るう。

実現したい理想の世の中を伺ってみると「スモールワールドでモノが流通する世界を見据えています。地方には地方特有の素材が存在していて、たとえば地元の企業に見たこともない素材を提供することで、地域の材料が活かされ、技術の向上や雇用創出につながる。そこから地域の特産品が生まれ、新しいマーケットが誕生すると考えています。そして廃棄物処理業者が単なるゴミ処理にとどまるのではなく、地域の産業や文化が交差するハブとして、新しい価値観を発信できる場所になることを目指しています」

さらに、今後は部品(素材)に関する情報を網羅したシステムの開発も視野にいれる。「廃棄物となったモノの機能や素材の説明、使い方など、あらゆる情報をあつめることで、これまでになかったモノの価値が生まれていきます」と中台氏は力説する。

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実際にモノ:ファクトリーで取り扱う素材を使ってつくられた飲食店が吉祥寺にある(写真上)。鮮やかに彩られた店内を見てここが飲食店?とお思いだろう。綿のようにも網のようにも見える、空間全体を覆うこの素材、なんとLANケーブル(!)なのだ。しかもこの店舗は焼き鳥屋というからなおのこと驚かされる。手がけたのは建築家、隈研吾氏だ。

モノの情報がデータベース化されることで、個人も企業もこれまでに出会うことのなかった新しい素材の存在を知る。同時に、廃棄物から出るひとつひとつの部品の意外な使われ方の共有が、今後生み出されるプロダクトの表現方法を広げていく。「食材の情報(レシピ)を共有するサービスに『クックパッド』がありますが、私たちが目指すのは“モノのクックパッド”といったところでしょうか」と冗談交じりに中台氏は話す。

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ビジネスの本質は「つなぐ」

理想とする社会の実現に向けて、「モノ:ファクトリー」はどのような価値を提供しようと考えているのか。

モノ:ファクトリーのビジネスの本質は「つなぐ」にあるという。廃棄物処理のプロとして基本を大切にしつつも、捨て方をデザインし「捨てる」と「使う」を循環させる。廃棄物の流れを適正化することで、モノの使われ方に無駄が生まれなくなる。これは単なるリサイクルやリユースを超越した次元にある、モノとの付き合い方といえるだろう。

最後に、中台氏は私たちの生活レベルに視座をあわせたアドバイスをくれた。

「今の人たちは、モノの流れを知らなすぎます。ワンクリックでモノが手に入る便利な世界だからこそ、普段見えていない裏側の世界に目を向けることが大切です。そこを注意深く観察することで、多面的かつ能動的にモノの細部を見る習慣が身につき、創造力・洞察力が養われるのです。モノは埋められたときが最後で、私たちは埋めずにもう一度命を与えて再利用します。いらなくなったモノは、捨ててもいいんです。『モノを捨てる=悪』という風潮がありますが、捨てることは決して悪いことではありません。今の時代、生産・消費のサイクルを止めることはできないので、そこに窮屈さを感じてモノを使わない世の中にするのではなく、再利用を含めたモノとの賢明な付き合い方を考えていくことが大切です」

中台澄之

モノ:ファクトリー代表。東京理科大学理学部卒業、証券会社勤務を経て1999年ナカダイに入社。ISO14001の認証取得や中古品オークションを行うリユース市場の立ち上げなど、総合リサイクル業として事業を拡大。“使い方を創造し、捨て方をデザインする”リマーケティングビジネスを考案し、“発想はモノから生まれる”をコンセプトに、「モノ:ファクトリー」を創設。2013年Good Design Award、未来づくりデザイン特別賞受賞。自治体や大学での講演や企業研修、廃棄物に関する総合的なコンサルティング業務や、廃棄物を使ったイベントの 企画・運営を手がける。企業の新しい価値を創造するビジネスアーティスト。

PHOTOGRAPH BY TAKASHI SUGA, Erieta Attali(焼き鳥屋)
TEXT BY KENJI TAKEUCHI
EDITING BY KEISUKE TAJIRI