Life Shift

2015.08.17

「WIRED」編集部に学ぶ「オウンドメディア」のつくりかた Vol.2

前回のレクチャーを振り返ってみると大きな発見があった。これまで関わってきたプロジェクトは、利益という設定されたゴールに対して、ビジネス的な観点でアプローチしてくことが常であった。もちろん、このメディアも企業運営によるものなので欠かせない部分ではあるけれど、メディアをつくる上でもっとも大切なものはゴールではなく、スタートにあると気付かされた。それはメディアとして客観性を保ちながら、誰に何を伝えていきたいのか明確なコンセプトなくしては、スタートラインにさえ立つことができないということだ。

第2回目となる今回は、スタートラインに立つために必要なコンセプトとタイトルを決めるべく、『WIRED』日本版編集部を訪れた。ファシリテーターに若林編集長を迎え、ワークショップ形式で進んでいく。

「まず、他のメディアがどんな記事を展開しているのか分析していきましょう。事前にお互いがピックアップしてきた記事に対して、3つの切り口にわけて個々が感じたことをポストイットに書いてホワイトボードに貼ってみてください。それらをもとに議論しながら、このメディアのコンセプトとなるキーワードを導き出していきましょうか」

さっそくスタッフ全員が記事を読んではポストイットに書き出していく。

*3つの切り口
・テーマ(例:モバイルの未来、ドローンを使った新サービス、人工知能と職の関係、等)
・読んだ印象(例:役に立つ、エッジが効いている、専門的、等)
・文体(例:事例紹介、ブログ、論説、対談、等)

わたしたちは、このメディアのメインターゲットであるエンジニアを想定しながら、「ITを使ったイノベーション×生活」を軸に「こんな未来が来るかも!?」、「ITが生活を変えるってこういうこと!?」といった、未来の兆しを感じられるテーマ、人物の記事を中心にピックアップした。一方で『WIRED』日本版編集部は、生活から少し離れた記事を中心に『WIRED.jp』から選んだようだ。(*参照した記事は文末に記載)

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ひと通り作業を終えて若林編集長による分析が始まると、入り口からなるほどと唸らされた。

「たとえば、よく見られるビジネス記事のひとつに企業のトップ同士の対談があります。見え方によってはネームバリューがあるので、一見いい記事のようにも見えますが、実は、両者とも自社のアピールをしたいものなので、核心をつかずに表層の会話になることが多いんです。なので『WIRED』日本版ではほとんど扱うことはありません。もし、このメディアで対談記事を扱うとするならば、どちらかをホストとして立てて、ほかのメディアでは見せない、新たな一面を引き出すような仕掛けをつくるといいですね」

たしかにそうだ。そもそもビジネスの話であれば個別に聞いたほうがより深く話しを聞けるし、企業のトップ同士という対等な立場関係だからこそ、一方を聞き役にホストとして立てることで普段見せない側面があらわれるのだろう。

「もうひとつは事例紹介の記事ですね。新しい技術をつかったサービスが始まった、なんて記事がよくありますが、このメディアで取り上げる必要はないかもしれません。なぜなら巷のニュースメディアも同じような記事を流しますから。サービスの裏にはどんな意味が含まれているのか、今後どんな未来をもたらすのか、このメディアが伝えたい『未来の兆し』というフィルターを通してあげることで初めて、その事例を取り上げる意義がでてきます」

どれも言われると納得することばかりで、これまでいかにわたしたちが情報を額面のまま受け取り、読み手として徹していたかを痛感させられた。

こうして、ひとつひとつ分析を進めていくと、このメディアを通してわたしたちが表現したい独自性ともいえるキーワードが浮かび上がってきた。

*テーマ
・ 遠すぎる未来ではなく、起こりつつある近い未来
・ ITを利用したサービスの体験
・ ITと異業種の掛けあわせ
・ ニュースの裏にあるインサイト(本質)を読む

*読んだ印象
・ 未来の兆しがみえる
・ 新たなイノベーションを生む種になりそう
・ アカデミックに突き詰めるより、わかりやすく噛み砕いた表現
・ ITによって日常が変化していく感覚

*文体
・論評、インタビュー、体験談形式の記事を中心に、対談形式のものをいれこんでいく

さらにこれらをまとめていくと、このメディアが目指すコンセプトが導き出された。

“おこりつつある未来の紹介だけに終わらず、インサイトにつなげていくメディア”

めまぐるしいスピードで変化し続けていくITの世界、これからもさまざまなイノベーションが起こっていくはずだ。しかし、同じ業界に身をおくエンジニアであったとしても全員がその速度に追いつけているかというと、必ずしもそうではないはずだ。今起きていることは理解できていても、それが近い未来に花咲く種であることに気づけていなかったりする。技術そのものの進化には敏感でも、それが生活にどう影響するかというところまではなかなか想像が及ばないといったようなことだ。わたしたちはそういった世界中にちりばめられた種を拾い集め、エンジニアをはじめとしたIT感度の高い人たちに届けていく方舟でありたい。そして、このメディアをきっかけに新たなイノベーションが起こり、日常が変わっていく――そんな未来を想像しながら、このコンセプトに想いをこめた。

最後にメディアのタイトルだ。

あしたのテクノロジーを指し示す『COMPASS』、未来の兆しをのぞく『THE SCOPE』、日常という枠を越えていく『BEYOND ORDINARY』など、30以上の候補があがった。どれもコンセプトにぴったり当てはまるのだけれど、口にだしたときの心地よい語感と、(日本語のコンテンツではあるが)英語タイトルとして英語圏でも違和感のないものが決め手となって、ひとつのタイトルに決定した。

テクノロジーがぼくらの“日常”を変える
『LIFE SHIFT』

ちなみに、編集長はリクルートライフスタイル編集部の三宅諒に決まった。

こうしてコンセプトとタイトルが固まり、曖昧だった輪郭もはっきりしてきた。なんだかこのメディアの未来の兆しも見えてきた気がする。

とはいえ、まだまだスタート地点。考えていかなければならないことも多く、そのひとつは輪郭の内側を彩るコンテンツだ。そのなかでもウェブメディアでないがしろにされがちなものが写真だと若林編集長は言う。

「具体的なビジュアルがない場合はストックフォトサービスの写真がよく使われます。ストックフォトサービスにはわかりやすいビジュアルが多いので、セレクトする側もつい汎用性の高いものを選んでしまいますが、その無意識的に選ばれた写真が記事全体のクオリティを下げてしまっているんです」

たしかに、紙メディアとくらべるとウェブメディアはどこか説明的な写真ばかりで、記事としてのメッセージ性に欠けているものが多い気がする。

「たとえば、人工知能というテーマがあったときにありがちなのは、脳のビジュアルにシナプスが光り輝いているようなイメージでしょう。しかし『WIRED』日本版編集部ならば、一定の秩序をもって建てられた郊外にあるマンション群、といった写真をセレクトします。そこからは人工知能がもたらす便利で快適な未来、と同時に人工知能に支配された合理主義で無機質な恐ろしい未来、という読み方もできるようになります」

あえて直接的でないビジュアルを使うことで連想ゲームのようにイメージが広がって、より記事に説得性をもたせることができるのだという。そのような写真は「Flickr」のほうが充実していて、そこからクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのあるもの使うことが多いそうだ。

「インタビューで人物を撮影するときにも気をつける必要があります。IT系の記事では一般人が出ることが多いので、タレントやモデルと同じ手法で撮影しても画がもちません。以前、ある若手起業家たちの撮影を大御所カメラマンにお願いしたことがあったんですが、なんと撮影に使ったのはiPhoneでした。というのも、その記事ではリアリティのある若者らしさを伝える内容だったので、普段から撮られ慣れているiPhoneが最適だったんです。彼らはまさかのiPhoneに拍子抜けしていましたが、結果的に自然体でいい写真がとれましたね」

ストックフォトを使う場合でも撮影する場合でも、何がテーマなのか細かく分析して、それに見合ったものを選ぶことが大切なのだ。つまり、「伝える」だけでなく「伝わる」を意識していかないといいものはつくれないということか。

以上で今日のワークショップは終了となった。自分たちが何を表現したいのか、感覚的にはわかっていたつもりだったものを、本当にそうなの?と、ひとつひとつロジカルに突き詰め言語化していくことで、これまで見えていなかった気付きを発見することができた。

最終回となる次回は、かつて『WIRED.jp』の立ち上げにたずさわったOBもお迎えして、具体的なメディアの運用体制についてレクチャーをうける予定だ。

それでは、次回もお見逃しなく。

リクルートライフスタイル編集部がピックアップした記事 2020年のモバイル/NEWS PICKS
https://newspicks.com/news/1071729/body

対談:LINE, Indeed – 億人を惹き付けるサービスから見る世界との戦い方/リクルートホールディングス
http://www.recruit.jp/meet_recruit/2014/10/line-indeed-1.html

ロボットが接客… ハウステンボスに「変なホテル」/朝日新聞デジタル
http://www.asahi.com/articles/ASH7H3ST8H7HTIPE008.html

星野リゾートでiBeacon!スタッフの導線解析のための実証実験がスタート/週刊アスキー
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/284/284320/

“オーダーアプリ”によるオペレーション―「CORK(コルク)」/料理通信
http://r-tsushin.com/special/cork_minamiaoyama.html

2015年のデジタル業界展望1 ネットでの「個」がいよいよ実体経済を動かし始めた~ 楽天 執行役員 本間毅氏/電通報
http://dentsu-ho.com/articles/2122

現実を直視しながら理想を持ち続けることの難しさ、人生の「賞味期限」/メタップス社長のブログ
http://katsuaki.co/?author=1

お金の「民主化」と新しい信頼のかたち〜Vol.16「マネー」特集に寄せて/WIRED
http://wired.jp/2015/05/11/vol16-editors-letter/

Snapchatのような最新テクノロジーを理解できない大人がすべきこと/TechCrunch
http://jp.techcrunch.com/2015/07/12/20150711a-new-users-guide-to-understanding-snapchat/

尾原和啓氏のブログ/PLANETSチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/wakusei2nd/blomaga/tag/%E5%B0%BE%E5%8E%9F%E5%92%8C%E5%95%93

人工知能テクノロジーの現状と可能性/WORKSIGHT
http://www.worksight.jp/issues/607.html

エンジニア35才定年説に挑戦する/Fringe81
http://www.fringe81.com/blog/?p=1937

『WIRED』日本版編集部がピックアップした記事 消えゆく銀行と、アフリカで広がる「SMSローン」
http://wired.jp/2015/07/21/zidisha/

彼らが「リアルビジネスファンド」を始める理由:8人の起業家による「TOKYO FOUNDERS FUND」始動 http://wired.jp/2015/07/15/tokyo-founders-fund/

マーシャル、音楽ジャンキーのためのスマートフォンをリリース
http://wired.jp/2015/07/17/first-phone-from-marshall/

ビリギャル、ソニー、ビットコイン──日本発の「coincheck」が描く未来のお金
http://wired.jp/2015/07/01/bitcoin-coincheck/

スイス郵便局、ドローンによる医療用緊急配送テストを開始
http://wired.jp/2015/07/13/swiss-delivery-drones/

PHOTO BY USFWS Mountain-Prairie, Killdeer Chick(CC BY)