Life Shift

2015.07.30

「WIRED」編集部に学ぶ「オウンドメディア」のつくりかた Vol.1

オウンドメディア(らしきものを)をつくってみたい、と思い立ってはみるものの、なかなか思うように考えが進まない。宣伝としてではなく、将来わたしたちの企業になんらかのかたちで関わるかもしれない人たちと、これまでとはちがったやりかたで静かな信頼関係を紡ぎたい。ブランディングと言ってしまえば、その通りだけれども、とはいえ、ブランディングのためのメディアというのは、それだけで語義矛盾を孕んでいそうだ。オウンドメディアというものはかくも難しい。

どうやったら真摯で、押し付けがましさのないやりかたで、企業メディアは存在しうるのだろうか? デジタルテクノロジーを中心に、日々世界中のイノベーションをレポートし続ける『WIRED』日本版編集部を訪ね、お知恵を乞うことにした。

3回にわたるワークショップの第1回は、編集長・若林恵さんのレクチャーだ。のっけからグサリと痛いところを突かれる。

「たとえば、うまい蕎麦屋があるらしい、という『出来事=インシデント』があったとしますね。そのことを蕎麦屋が広告料を払って記事広告にしたものと、蕎麦屋とは利害関係のない第三者が編集記事にしたものと、読者はどちらの記事を信頼するでしょうか。もちろん後者ですね。たとえ内容が同じだとしても読者は俯瞰され、批評されたもの、つまり客観性のある情報を支持します」

メディアは「客観」が生命線なのだと、若林編集長は語る。その客観性は、あるインシデントに対して、レポーターが独立な存在であることによって担保され、そして同時に、その「うまい」の基準がどの程度のレベルにあるかによって決定される。具体的に言うならば、比較対象となる蕎麦屋さんの数が、それにあたると編集長は言う。

「もちろん『うまい』には純粋的な『客観』はありません。けれども、10軒の蕎麦屋しか知らない人と、1000軒の蕎麦屋をまわった人とでは『客観』のレベル、つまり信頼性、もしくは信ぴょう性のレベルが変わるのはわかるかと思います。重要なのは、どの枠のなかで、その『うまい』が語られるか、なんですね。実は情報というものは、その情報そのものではなく、その『まわり全体』の設定、要は枠が重要で、その『まわり全体』が10軒なのか、1000軒なのか、つまりそれが置かれるコンテクストのほうがはるかに大事なんですよね」

たとえば、企業のオウンドメディアでは、自分に関わる業界のニュースを配信しつつも、周到に競合他社の情報は排除されることになる。それは、編集長の語る「枠」を、恣意的に限定することになる。そこには、「自社」というコンテクストしかない。ここに「客観」はなく、そうであるがゆえに「信頼性」が得られない、ということになる。

「自分の都合のいい情報だけを、一方的に話すような人ってイヤじゃないですか。多かれ少なかれオウンドメディアってそういうものなんじゃないか、と思うんですよね」

じゃあ、どうすればいいのか。

「少なくとも編集部は、自分が所属する企業に対して客観であればいいんじゃないでしょうか」と、編集長はいとも簡単に言う。それができれば苦労はない。「でも、その苦労をしないと、よそと同じような『記事広告』しかつくれないじゃないですか。要は勇気と覚悟の問題じゃないですか」。

若林編集長から、こうした指摘を踏まえ、具体的に5つの課題が提出された。

Q1.どのくらいメディアは客観であるべきか

Q2.まわり全体の設定を考えよう

Q3.どういう人と信頼を結びたいか考えてみよう

Q4.どんな記事があるといいかを考えてみよう

Q5.自分たちの持っているアセット、コネクションやネットワークを考えてみよう

言われてみるとどれも当たり前の「問い」だが、編集長は、これらの問いを、ひとつひとつを順番に答えていくのではなく、むしろ、その5つの問いを同時に見ていくことが重要と言う。なぜなら、5つの問いは、それぞれ連動しており、ひとつの答えが変わると、それに応じて、ほかの4つの問いの答えも変わってくることになるからだ。

こうした問いを四苦八苦して編集部で熟慮した結果、わたしたちが現状たどり着いたのは、こんな答えだ。

Q1
極力10:0に近いくらいの客観さでメディア性を担保したいが、9:1が現実的な答えかもしれない。記者や寄稿者が社内の人間だったり、OBだったりするものは主観といえるのかもしれない。

Q2 ITを使ったイノベーション×生活
イノベーションでも、暮らしにかかわらないものは範囲外。人々の生活を良くするイノベーションを、ITという手法で起こすことを扱っていきたい。

Q3  
一番役に立ちたいのは、ビジネス感度の高いエンジニア、マーケター。この人たちが「いいね!」とシェアしてくれたことで、より多くの人に知ってもらえたら嬉しい。

Q4
こんなプロダクト出てきたってことは、世の中こうなるかも。こんな特許が申請されたってことは、こんなサービスできるかも。といったことを考察するような記事。近いメディアは、スタートアップ経営者ブログ。ただ、起業家が自分の思いを語り、自社でそれを推進するのとメディアとでは異なる部分もあるので、そこは工夫していきたい。

Q5
持っているアセットとして最初にあげられるのは、従業員。たとえば、リクルートライフスタイルのエンジニア、マーケターが、海外カンファレンスに参加して見えた未来を書くというのはあるかもしれない。また、先ほど挙げたスタートアップ経営者のみなさんに寄稿していただくことはできないだろうか。スタートアップのみなさんがよく「リクルート」という言葉を使ってくれているが、いまのリクルートは昔とはまた違った形で一緒にいろいろなことができるはず。

まだ、ぼんやりとだけれども、なんとなくメディアの輪郭が見えてきたかもしれない。

第2回目のワークショップでは、わたしたちがここまで考えたところを、『WIRED』日本版編集部のスタッフとともにさらに分解し、具体的に、メディアのコンセプト、記事内容、表現手法や文体を、決定していくつもりだ。次回レポートまでには、このメディア(次回にはネーミングも決まっているはずだ)の編集長も決定されている予定だ。

乞うご期待。

PHOTO BY CHRISTIAAN BOTHA, Eggs (CC BY-ND)